第22話

 新幹線から数時間に一度しか来ない電車に乗り換え、駅に着いた後さらにそこからバスで二十数分。


 結也達が辿り着いた場所は一昔、下手すれば二昔くらい時代の遅れを感じるような町並みが広がる場所だった。


 バス停から重い荷物を引きずりながら歩き、ようやく辿り着いたのはこれまた年代を感じる一軒家が結也達の目的地だ。


 結也は当たり前の様に鍵の掛かっていない玄関の引き戸を開き、中に向かって声を上げる。


「爺ちゃん来たぞ!」


 結也はいいながら靴を脱いで家に上がりこむ。汐里にもそうするように促すと怖ず怖ずしながら逸れに従った。


「おぉ、来たか! 上がれ上がれ」


 家の奥から聞こえる快活な声に促され家へと上がり、居間へと向かうと恰幅のいい初老の男が待ち構えていた。


「遠いところからよく来た。疲れただろう?」

「別に、毎度の事だよ」

「そりゃ、お前はそうだろうがよぉ」


 言いながら男は結也の後ろに付いてきていた汐里へ視線を移し会釈をする。


「初めまして、結也から話は聞いております。祖父の出雲栄介です」

「あ、いえ。こちらこそ初めまして出雲君の同級生の日野汐里です。本日はお招きありがとうございます。これ、母から預かったお土産です」

「おおこれはこれはご丁寧に。いやはやしっかりとした娘さんだ。こんな良い子を結也が連れて来るとはなぁ」

「連れて来いって言ったのはそっちでしょうが」

「そりゃそうだけどよ。どんな子が来るのかはこっちはわっかんねぇだろ。結也が女の子連れてくるって聞いたときはどんな娘が来るのかと気が気でなくってな」


 汐里からお土産を受け取りながら言う、栄介の話に結也は僅かにげんなりしたような表情を浮かべる。


 出発前に前もって連絡を入れておいたのだがその時は汐里のことを彼女なのかなんなのかと電話口の向こうで大騒ぎで、それをなだめるのに非常に苦労したのだ。


 居間に上がると結也は真っ先に仏壇へ向かい線香を上げて手を合わせた。生前の母と帰省していた時からの習慣だ。


 天国の母と顔も知らないご先祖様に黙祷を捧げ蝋燭の火を消そうとしたところで、後ろから窺うような声が掛かった。


「あの、私も御線香上げても良いですか? 部外者にこういうことされても仏様に迷惑かもしれないですけど、少しの間お世話になるわけですし」


 そう言ってから視線を栄介へと向ける。


「おう、上げてやってくれ。若い娘さんに線香上げてもらえるなら、ご先祖様も喜ぶだろうよ」


 栄介から気前の良い了承をもらい、汐里の視線が結也の方へと向けられる。


 家主である栄介から了承が出たなら結也が汐里を止める理由はない。大人しく仏壇の前を明け渡すと汐里は先程の結也に習い線香を上げてから手を合わせ黙祷を捧げた。


 そうしてちょうど、汐里のお参り終わったときである。


「あら結也来てたの」


 そう言いながら割烹着姿の祖母が台所の方から姿を見せた。


「ああ、たった今来たとこだよ」

「そうかい。で、この子が例のお友達?」

「初めまして、日野汐里です」

「こちらこそ初めまして、祖母の郁恵いくえです遠いところからありがとうね。さあさとりあえずまずは荷物を置いてきなさい。汐里ちゃんは一階にある客間を使ってね、結也案内してあげな」


 そう促されて結也は汐里を一階にある客間へ案内し、自分は二階にある空き部屋へ向かった。


 空き部屋に付くなり結也は机の上に荷物の中から写真立てを取り出して、部屋にある机の上にそれを飾る。


「……今年も帰って来たよ母さん」


 母が写真立ての中で朗らかな笑みを浮かべている。


 この部屋は元々母の部屋だった。

 母が上京して以来、時折、祖母が掃除しているそうだが殆ど当時の状態そのままだと言っていた。


 母と一緒に帰省する際は、いつもこの部屋を使っていた。

 流石に小学校高学年になる頃には結也だけ客間を使わせてもらうようにしていたが、母はその事が不満そうだった。


 ……こんなことになるのだったらもう少しくらい一緒にいて上げればよかったな。


 胸を掠めた哀愁を振り払い居間へと戻ろうとしたその時、ふと昔あったある出来事を裕也は思い出した。

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