第6話

『精霊は魔術との親和性が高いのよ。ニンゲンみたいに陣を描いて、細かくああしてこうして、属性はどれでお願い……なんて書き込まなくていいの』

「おお」

『一定の魔力消費量まで陣を描かずに魔術を行使できる。それが精霊よ!』

「おお!」


 自信満々なクロディーヌの言葉が心強い。どんな魔術を使うのかまではわからないが、間違いなく時間以内にたどり着ける気がしてきた。


「それで、どんな魔術なんだ?」

『今からランに《追い風》《風よけ》《光学迷彩》の魔術を使うわ。追い風で速度アップ、風よけでスピードを落とさないようにして、光学迷彩で人目につかないようにするの』

「おお!陣を描こうとしたらかなり複雑になるのに、そんなものまで使えるのか!それはすご……何でわざわざ光学迷彩が必要なんだ?」


 確かに、魔術の私的利用はあまり推奨されていない。例えるなら、絶対に切り離せない魔術銃火器を便利道具みたいに扱っているようなものなのだ。扱い方を守っていても危険なことに変わりはない。

 だが、公式競技でも《追い風走》なんて魔術を使ったものもあるし、魔術にもよるが使ったら即逮捕なんてことはあまりない。

 だから、光学迷彩を使う必要もないはずだが……。


『説明不足だったわね。ここから一直線に間の建物を飛び越えながら学校を目指すの。見えなくしないと、ぴょんぴょん跳ねて登校する高校生で騒ぎになるわよ?』

「……確かにそれならその魔術も必要か。よし、それで行こう。頼んだ」

『任せてちょうだい!いくわよ。走って!』


 合図に合わせて走り出すとクロディーヌの言っていた通り、追い風が腰のあたりだけにに強く吹きつけてきて、足がもつれそうになるくらいのスピードが出る。


「はやっ!?こけそうなんだけど!?減速してくれ!」

『これから飛ぶんだから体制崩さないでよ?跳んで!』

「ああっ!くっそっ!って、おわぁぁぁぁあああ!?」


 願いは聞き入れられず。さらに加速しながら追加で出された跳躍の指示に従って、半ばヤケになりながら思い切りジャンプする。

 すると、追い風がさらに強まって上空に吹き飛ばされる。

 突風で空を飛ぶなんていう、体験したこともない事態に叫び声しか上げられない。

 ……というか、これ着地どうするんだ?


「クロディーヌ!着地!着地!」

『そんなに叫ばなくてもわかってるわよ!体広げて!《逆風》!』

「ぐふぅ!」


 新たな魔術を発動したのか、追い風がなくなったかと思うと、今度は向かい風が強く吹き付け、減速していく。《風よけ》も同時に切ったのか体への負荷がすごい。


『着地するから備えて!』

(そういうのは、前もって言ってくれよ!)


 風が強すぎるせいでしゃべルことができないので、念話で抗議しながらなんとか落下地点の屋根へと足を向ける。すると、風がさらに強く吹いて落下の勢いを完璧に殺してくれる。

 今日一日で生身で空を飛んだり、屋根の上に乗ったりとなかなかできない体験の連続だが、もう少し時間にも心にも余裕があるときが良かった……。


『まだまだ跳ぶわよ。走って!』

「やってやらぁ!」


 そうして合図に合わせてまた助走をつける。

 あぁ、髪括ってから跳べば良かった……。



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設定紹介

精霊魔術

精霊の基本的な能力

一定の魔力使用量までは陣を描かずに強いイメージで代用できる。イメージしなければならないので併用は至難の業。また、使用限界はかなり低い。

魔料消費量が上がる項目は威力(風圧や炎の温度、光学迷彩の欺瞞性能)、範囲(広げれば上がり、狭めれば下がる)、精度(範囲を狭めた結果、精度を上げなければならず±0)、効果距離(長ければ長いほど消費)。

蘭の跳躍補助は、実は使用量カツカツで行われていた。

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