第10話:俺氏、女子高生の仲間になる

 時の流れは、皆平等で1日は24時間しかない。

 成功するのか、それとも失敗するのか。

 運命の別れ道はその限られた時間をどう使うか。

 その一点に絞られる。


 で、遂に訪れた帝国大学の合格発表日。

 俺と櫻子はキャンパス内の合格者張り紙前に居た。

 で、俺の肩に寄りかかって、櫻子は涙を流していた。


「お前何を泣いてるんだよ……?」

「い、いや……そ、その嘘みたいで……」


 桜凛櫻子は帝国大学に合格した。

 一時は成績が伸び悩んでいた。

 だが、途中で驚異的な才能を開花させたのだ。


「今日からやっとハンバーガーが食べられると思って」

「いや、そっちかよ!! 受かったことに喜べ!!」


 櫻子が成績を伸ばしたのには、理由がある。

 彼女は自らに制限をかけたのだ。

 合格するまでは、ハンバーガーは食べないと。

 あと、毎日勉強が終わるまでは、お菓子を食べないと。


 たったそれだけで。

 今までの停滞具合が嘘みたいに伸びやがったのである。


「よしっ!! 今日はお祝いにいっぱいバーガー食べます!」


 ったく、コイツの人生はバーガーに染まってるな。

 それにしても……奇妙キテレツな関係だな、俺たちは。


 最初の出会いは、一本の電話から始まった。

 クレーマーとオペレーターの関係だったのに。

 そこから、家庭教師と生徒の関係になって。


「でも、これで俺とお前の関係はおしまいだな」


 桜凛櫻子は見事大学に受かりやがった。

 つまり、俺の役目は終わり、今後彼女と関わることはない。

 だってさ、俺は冴えない大学生で、逆に彼女は陽気なギャルで。この組み合わせは今後決してありえない。

 櫻子は、これから輝かしい大学生活を送るのだ。

 だから、俺はもう用済みだと、考えていたのだが——。


「そんな寂しいこと言わないでください」

「えっ……?」

「もう私は、山田さんなしでは生きられません」


 家庭教師とその教え子が恋をする。

 そんな噂話を聞いていたが、そのまさかなのか??


「お、お前……もしかして俺のことが好——」


 俺の言葉を遮り、櫻子は言う。


「もう山田さんは、私の大事な従業員ですから!!」

「はぁぁぁ?」


 戸惑う俺を見て、櫻子は笑みを浮かべて。


「これから忙しくなりますよ。私たちのバーガー屋計画!」


 やれやれ、俺はもう櫻子の仲間になっているようだ。


 ハッピーセットを頼んだらおもちゃが入ってなかった。

 だから、クレーム電話を掛け、挙げ句の果てには店舗にまで出向き、俺は追加で一生分のスマイルを注文したわけだが。


「何ぼぉーとしてるんですか? 勝負はこれからですよ!」

「ちょ、お、お前……俺を引っ張るなよ!」


 俺の腕を引っ張り、大股で歩く桜凛櫻子は微笑んでいる。

 どんな夢物語を描いているのかは知らない。

 だが、彼女ならその夢物語さえも現実にするのだろう。


「責任取ってくださいね。一生分のスマイルの」


【完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピーセット頼んだらおもちゃが入ってなかった。ブチギレ電話を掛けたら「お届けできません」だと。今から店舗に殴り込み行くけど、スマイルも一緒に注文しようと思う 平日黒髪お姉さん @ruto7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ