第27話『時空を越えた再会』

 ボンテは、船尾に頭をつけると力強く水を蹴った。船は風とボンテの生み出した推進力で、力強く海面を滑り出した。


(エミル)

「ボンちゃん、寂しくない?」


 大ジャンプで船に飛び乗ったボンテにエミルが話し掛けた。


(ボンテ)

「ボンね、ちょっと寂しいけど、それよりも嬉しいのよ」


 ボンテはこれまでの事を話し始めた。


(ボンテ)

「ボンね、ジュマの事知っててね、ジュマ見てほんとは凄くびっくりしたの。

でも、ほんとか分からなくてね、でも、もう分かってね、ジュマはジュマだったんだよ」



─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─


 理不尽の面々が、ゲームによって管理者に見出だされてこの世界に転移したように、ボンテもまたこの世界の者ではなかった。


 ボンテはかつて地球に生まれ生きていた。

 ハスキーの血を濃く受け継いだ雑種犬だった過去のボンテは、幼くして生命の危機に直面していた。母親が留守の時に兄弟たちと冒険に出掛けたところを複数のカラスに狙われ、兄弟たちは次々に倒れていった。


 そこへたまたま通りかかった少年時代のジュマに助けられたのだ。剣道からの帰りだったジュマは持っていた竹刀でカラスを追い払い、ボンテたち兄弟にかけよった。


 傷だらけのボンテたちを抱えて、ジュマは近くの獣医へと走った。先生にボンテたちを預けたジュマは、急いで家に戻り、貯金していたお年玉やお小遣いを全て持って再び獣医へと戻ってきた。

 しかし、この時既に、ボンテ以外の兄弟たちは絶命していた。


 片目を失いながらも、命を取り留め飼われる事になったボンテは、ジュマに「梵天丸」と名付けられた。戦国武将好きのジュマが、独眼竜こと伊達政宗の幼名を名付けたのだ。


 ジュマに可愛がられた梵天丸は幸せな日々を過ごした。ジュマは梵天丸の為に自分の欲しいものを我慢して、お小遣いでおやつや玩具を買ってくれた。

どのおやつも美味しかったけど、中でも、小さなソーセージがお気に入りだった。


「もっと食べるか?」


そう言って小さなソーセージを食べさせてくれた。喜ぶ姿を見て、嬉しそうに撫でてくれるジュマが大好きだった。


 ジュマとの別れは突然だった。ある日急に力が入らなくなって、立てなくなった。

その時からみるみる弱っていき、最期の時を迎えた。

ジュマにご飯を流し込んで貰っても、飲み込む力もなくなった。

 横たわる梵天丸に、泣きながらジュマが手を差し出した。


「もっと食べるか?」


 ジュマの手には、お気に入りの小さなソーセージがあった。

口の中に入れてもらうと、大好きな香りと共に楽しいジュマとの日々が駆け巡った。


 お気に入りの小さなソーセージを食べながら、大好きなジュマに抱き締められて、本当に幸せな最期だった。



 ─ ありがとう。

梵は幸せでした。

生まれ変わってもまた、ジュマと楽しい日々が送れたらいいなぁ ─



 その後、この世界に生まれて、ボンテとして生きてきたのだ。


─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─ + ─


(ジュマ)

「梵…?」


 ボンテとエミルが振り返ると、いつからいたのか、ジュマが立っていた。


(ボンテ)

「ジュマ…」


(ジュマ)

「梵。昨日見た時から、梵の事を思い出して、梵が目の前にいるような気がして…」


 ボンテに近付いたジュマは、ボンテを撫でながら話し掛けた。


(ジュマ)

「これ、食べるか?」


ジュマの手にはインベントリから取り出したソーセージが握られていた。


(ジュマ)

「あのソーセージじゃないけどな」


 ボンテの口の中いっぱいに、懐かしさと嬉しさが広がっていった。


─ また、一緒にいられるね ─





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る