第25話『漁師が寄らぬ島』
この世界の獣人と人間の交流はあまり多くない。しかし、交流がないわけではない。
昔、人間の住む大陸内で小国が争いを繰り返していた頃、幾つかの国では、獣人を奴隷として扱っていた。数々の争いの末、大陸の構成国家は、ラキシア、ペレス、帝国の三国に至った。
帝国は魔国によって裏から支配されており、魔国と敵対してきた獣人の扱いは予想に容易い。長きに渡って悲惨な時間がもたらされ、獣人は1人を残すことなく命を奪われた。
一方、ラキシア、ペレスの両国は獣人の奴隷化や差別を許さなかった。法整備を行った上で厳しく取り締まり、両国内で奴隷となっていた獣人を手厚く保護して、望む者は故郷へと送り届けた。しかし、両国の対策があっても尚、獣人の差別は後を経たず、獣王によって「大陸への渡航制限」が命じられる事になった。
これが大陸で獣人を滅多に見かけない事情だ。従って、大陸2国と獣王国との間に特に争いはなく、往き来こそ少ないが正式な国交もある。
理不尽の面々は、先立ってラキシア王国の海沿いの町で知り合った獣人に案内を頼み、獣王国フリタニアを目指して海路を進んでいた。
「旦那!ちぃとばかしヤバいかもしれやせんぜ!嵐が近付いてるみてえで」
クルーの1人が指差す空には巨大な黒い雲が見えていた。
「(嵐の接近が)予想より速いな…。おまえら左から回り込むぞ!急げ!」
嵐に備え帆を畳んだ船は、うねる波に弄ばれるが如く、波の谷から谷へと上下していた。嵐のど真ん中に突っ込む事態は避けられたものの、回避には間に合わなかったのだ。
「このぐらいの波や風なら問題ねぇんで、ちぃとばかし揺れやすが旦那方は中で休んでて下せえ」
ジュマが船室に戻ると、パルパの作った障壁と空気クッションで揺れを最低限に抑えた快適なベッドでエミルが寝ていた。
(ジュマ)
「何してんの?」
(パルパ)
「あんまり船が揺れるからさ、うっかりバランス崩したらエミルに蹴られて、ベッド係になった」
(ジュマ)
「……柔らかかった?」
(パルパ)
「うん」
(ジュマ)
「そうか…。ほんと、ぶれんなぁ…。俺のベッドも頼むわ」
(パルパ)
「なんでジュマのまで!」
(ジュマ)
「エミル~、パルパがひと揉みしたら柔らかかったとか言って…」
(パルパ)
「ベッドのご用意が出来ました!!」
目が覚めると、嵐は収まり、まだ多少の波はあるものの、船の上は平和を取り戻していた。
「前方に島!」
「…」
「おい、あれって…」
「おい、急いで旋回しろ!」
「駄目だ間に合わねぇ!手遅れだ!」
甲板の騒がしさに、理不尽の面々は、船室から出た。前方には確かに島が見えていた。
「旦那!すいやせん!海獣島に近付いちまった」
話によると海獣島とは、獣人が陸上の哺乳類から進化したものであるのに対し、海に棲む哺乳類が進化した者たち、海獣人が陸の拠点としている島であるらしい。かなり大型の者もいて、これまで数々の漁船が襲われているという。
獣王国の北側にあるこの島は、漁師たちの間では、島がうっすらと目視出来る程度に近付くだけでも襲われると恐れられていた。
そしてこの時、島はしっかりくっきり見えていた。
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