カクコン9の裏側

「雨が降れば街は輝く」

 去年の第8回は大学受験と丸被りだったので参加できなかった。そして今年の第9回は休学してるので時間の制約はない。ありがたい。しかし、まさかカクコンやらドラマやら舞台やらその他の私事が被って大忙しになるとは、思ってもみなかった。

 応募作の選定は、正直テキトー。完成してるものも未完のものも、とりあえず第7回より後のものは全部応募だけした。かなり大変だった長編「雨が降れば街は輝く」、歴史ものと言いつつほぼ捏造の「犠牲者に愛と花束を」、ピュアな恋愛ものと言うと某映画を連想させてしまいそうだけど全く無関係な「糸」など。数回に渡って、ネタバレしまくりながらウラバナシをしていこうと思う。まずは「雨が降れば街は輝く」から。


 もともとはパッと思いついたものをザッと書いただけ。それは、早朝に主人公の晶が走っているシーン、つまりヒロインと初めて話した日。本当に本当の初期段階が残っているので、載せておこっと。


 ◇ ◇ ◇


 窓を開ける。空気が入ってくる。大きく吸い込む。

 僕の朝は毎日こうして始まる。すずめの声、高速道路を走り抜けるトラック。激安スーパーの奥に見える朝焼け。

 名古屋市南東部にある緑区は日本の全部を都会と田舎のふたつに分けたら都会になるんだろうけど、僕はここを田舎だと思う。

 大通りを徳重方面にずっと行くと、田畑だらけの田舎街。僕はあの街が好き。

 体操服に着替えると、僕は窓から外に飛び出す。靴は部屋に隠し持っているからその気になればいつでも抜け出せる。朝5時の街は眠っているような起きているような微妙な時間。

 両親はまだ家にいるけど、僕のことなんかはどうせ見ちゃいない。僕はいつも一人。

 そしてもう一人、いつも一人の子。磯村さんの娘さん。「さん」ばかり重なっておかしな呼び方だけど、僕はあの子の名前を知らないんだから仕方ない。

 今日も、あの子は勉強をサボっている。深夜だろうが未明だろうが関係なく、あの子の部屋の蛍光灯は灯ったまま。本を読んだり音楽を聴いたりしているのだろう。無機質な白い光は途切れることなどない。外を眺める目はいつも死んでいる。お母さんが部屋に入ってくるときだけは窓際の机に向かう。

 なんでそんなことを知っているかというと、あの子はいつも窓を全開にしているから。僕の部屋の窓はそこから少しずれたはす向かいの位置にあるから、あの子の様子は嫌でもよく見える。

 磯村家は不思議な家庭だと思う。旦那さんは医者で頭の中身は患者のことばかり。奥さんの礼子さんは娘の成績のことで頭が一杯。そして娘は冴えない顔をして毎朝電車に乗って学校へ出掛けていく。

 あの生活はあの子にとって幸せなのだろうか。

 4時、起きる、顔を洗う、トイレに行く。両親、ではなく母親に挨拶をする。父親は病院に泊まり込みの日も多いし、そうでなくともろくに話さないだろう。4時30分。朝ごはんを食べる。家族団欒の声は聞こえない。5時。勉強を始める。7時。制服に着替える。名門私立中学のセーラー服。決して着崩しなどしない。鞄に教科書やノートを詰める。ボソボソとテキストを見ながら音読している英語の例文から、たぶんこの春から2年生になったんだと思う。ひとつ下か。7時10分。家を出る。携帯はおそらく持っていない。文庫本を左手に持っている。二宮金次郎のような姿で登校する。ここに越して来たときからずっと変わらない生活。

 見ているだけで息が詰まる。

 いつか窓から話しかけよう。僕の通う公立の中学にあのような子はいない。だから少しだけ気にしている。好きな食べ物は?何をするのが好き?趣味は、ドラマ?映画?音楽?それ以外?家のことどう思ってる?気になる人は?一度でもいいから訊いてみたいことが山ほどある。

 なんて、我ながらキモい。


 何もかも忘れるためかのように、僕は走る。学校のテストのこと、部活のこと、家のこと、受験のこと、君のこと。下らないことのはずなのにどうしても僕をストーカーしてきて気色悪い。

 スピードを上げる。一日のうちで一番冷えた空気が頬にあたって気持ちいい。生きている感じがする。この感覚は一度味わったら誰でも虜になると思う。頼むから、もう僕に付きまとわないで。一気に徳重まで出る。なんだか、さっきから喉がつかえている。

 毎日こうしているとさすがに時間感覚は正確になってくる。おそらくそろそろ戻り始めないと学校に遅れてしまうだろう。遅刻するわけにはいかない。仕方なく僕は銭湯まで来たところで引き返す。坂を全速力で下り、また上る。家に帰る。窓から部屋に入る。

 僕は学ランを着る。食パンをかじってリュックを乱暴に背負い、家を出る。鍵をかける。もう両親は仕事に行っていた。

 学校に行く。君はもう友達と会って話し込んでいたりするのかな。それともまだ電車の中かな。

 教室にはまだ誰もいなかった。始業20分前だが、この中学に通って3年目にもなれば、多くのの生徒はギリギリに登校するようになる。毎日この時間に来る僕は真面目すぎるだろうか。どうせ誰かがいようがいまいが変わらないけど、自虐的な気分になる。

 授業、放課、授業、放課、授業、放課、その繰り返し。一応部活に顔を出す。適当に嘘をついて早退する。

 家に帰る。今日もほとんど話さなかった。君は誰かと話したかな。男友達はいるのかな。

 夕方になると、君も帰って来た。よし、今日こそ何か会話をしよう。

 君は部屋の窓を開ける。それと同時に僕も窓を全開にする。

「あっ」

 君が小さく声を上げた。

 僕が会釈をすると、君は会釈を返す。

「あの、その、お、おかえりなさい。」

「た、ただいま」

 君は怪訝そうな顔をする。

「えっと、その、いつも、窓開けてるよね。寒くない?」

「ううん、全然。」

「そっか、」

「少し、気に、してたんだ。あ、えっと、だって、最近は、まだ少し冷えるから。」

「ありがとう。でも、ほんとに大丈夫。」

「えっと、な、名前は?

 ほら、家は隣なのに、話したこと、ないから。」

「美和っていうの。美しいに、和風の和。」

「いいね。」

 美和さん「あなたは、」

 僕「何年生?」

 被った。

「あ、いいよ、なんて?」

「何年生?」

「中2」

「そっか」

 まだ訊きたいことはあったのに、全部忘れてしまった。代わりに涙腺が緩む。それには僕自身も驚いた。

「え、大丈夫ですか」

「あ、これは、ほんと、気にしなくていいから」

 僕は窓を閉めた。


 ◇ ◇ ◇


 何となく続きも浮かんだのでバーッと書いて、と言ってもそんなに短時間ではできなかった。勉強も部活もやっていてプラスで塾、行き帰りの電車では英単語をやってたので、テストの直後くらいしか書く時間はなかったためだ。とりあえずの完成では、現在でいうと第3章まで。その時は「君のとなりで僕は」というタイトルでした。ただ、物語が薄っぺらくて不満足。もっと分厚くしたいけどアイデアがない。どうしましょうと思いつつ放置してた頃に「ネメシス」というドラマが放送され、そこから一気に話が膨らんだ。題も変更した。ただ単に晶の友達だった前原に色々付け加え、探偵にも色々付け加えた結果、笹木由香と四人の先輩探偵、西浦氏などなど大量に人物が増えた。平安時代の天皇家並にややこしいことになっていると、自分でも思う。

 主人公の名前が一向に決められなくて、途中までは名前をどうにか出さないで書き進めていた。探偵は中山七里さんの「おやすみラフマニノフ」という作品の岬洋介のような立ち位置で考えていた。あのシリーズが大変好きで、「さよならドビュッシー」、「いつまでもショパン」などある程度読みましたが、ラフマが一番好き。主人公の晶がね、本当に良い人で……。

 よし、晶をパクらせて頂きます!

 他の美和ちゃんとか奥田さんとかは、いつも通りテキトーである。他は、所長=榎本径、紳士=貴族探偵、検事=沖野啓一郎、弁護士=深山大翔です。そのまま出すのはまずいだろうと思ったので書かなかったけど、ここは「ウラ」なのでバラしちゃう。書いてないからこそハチャメチャになってても問題なし。年齢は、所長50すぎ、紳士50手前、検事と弁護士は30代後半のイメージ。何としても探偵事務所マムールを全体で5人の組織にしたかったので、風真さんだけいなくなっちゃったけど、許して!

 また、時は2017年の設定である。第2章の終わりがけに登場する曲は「迷宮ラブソング」で、そこに合わせた。こちらは「謎解きはディナーのあとで」の主題歌である。そこそこ有名だが知らない方も多いと思うので、もし良かったら歌詞を調べてみてほしい。


 舞台となる場所はあちこちにある。朝丘高校については、黙秘してもどうせ分かる人は分かる。二人の自宅周辺は完全に架空となっているが、名古屋市営地下鉄桜通線を一駅延ばしただけ。リアルの世界で徳重からずっと行くと、墓場がある。逆に、私が知る限り墓場くらいしかない。


 今回は、対決の後みんながどうなったのか一切書いてないのだが、実はただ単に決められなかっただけなのである。なんかすみません。誰かが完全に悪役に徹してしまうのは避けたくて、結果的にこういう終わり方になった。

 花火が上がる演出は、知念実希人さんの「屋上のテロリスト」からパクらせて頂きました。初めはただ決闘するだけだったけど、ハラハラが足りないのでスイッチ押させちゃった。最終的にこの一発の花火のおかげで上手い具合に勢揃いしてくれた。やはりラストは晶くんと「君」が活躍してほしいけど、そうすると大人たちが邪魔になる。だからと言って、出て行ってもらうとなぜここまで追って来たのか分からなくなる。この問題を綺麗に解決できた。先に晶くんの美和さん失踪問題を解決したことで、まだずっと抱え込んだままの奥田さんに、奥田さんに助けられた晶くんが逆に手を差し伸べる展開となる。これは真っ先に決まっていた。霊園の存在は、そのすぐ後に決まった。


 奥田さんはひたすら先輩を追い求めていて、想っていて、晶くんは「君」と真実を追い求めている。晶くんも、「君」も、磯村家の人々も、全ての人間は無二の存在。ただの謎解きだけで終わらせない物語であることを示すような章タイトルをつけるのには、大変苦労した。また、全体としての題から、何も書いていないけど、今後それぞれがそれぞれの人生を歩んでいくことを察してくだされば、嬉しい限り。雨の日も晴れの日も、ずっと在り続けるから。


 ◇ ◇ ◇


 追記

 そういえば思い出したのだが、作中の晶の言葉を書いたのはHuluの配信ドラマ「THE HEAD」のノベライズを読み終わった直後だった。支払いの手段がなかったので諦めて観ていなかったのだが、いつものように古本屋をうろついていた時にその本を見つけて、即買いした。

「僕は、感情を失くすかわりに天才になるなんて技術が実用化されてはならないと思う。人間は感じる生き物なんだ。何かを感じて、それに対して感情をもつ。それが人間の素晴らしさであり、欠点でもあるんじゃないか。

 感情のせいで、発展が阻害されるようなことはいくらでもある。前原先生も言っていたように、人間は頭が良いという特徴があるから文明を発展させてきたし、そんなことができるのは人間だけだ。

 でも、何を不便に感じて、何をどう発展させるのか決めるためには、人間は感情を持たなくちゃならない。

 頭が良いことよりも、感じることが大事なんだと思う。人間は感情の生き物とも言うしね。」

 また、映画ネメシスのために劇場へ行くことはできなかったが、アマプラで観た。

 そういうことか……!

 研究の先に、もっと先に、さらなる物語があった。悪魔の技術を通して、世界中がひとつになること。寝ている時に見る夢と、その望みという意味の夢が、掛けられているのかもしれない。でも、この作品は私(17歳)が思うものを丁寧にがんばって表したものだから、私(19歳)によって手を加えることはやめておこっと。

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