第65話 山登り く ⁠美味しい物

「とても良い朝だわ…。昨日の美味しいお肉のお陰かしら?」

「確かにマジ美味かった。赤ウシがいたらまた討伐しよう!」


 2人して肉肉しい夕ご飯を沢山食べ、目覚めた朝。

 とっても快調だわ!


 きっと、疲れや先の見えない道程に、知らず知らずマイナス思考へ落ち込んでいたのね…。


 無理をするのも、時と場所を誤ってはダメだわ。


「さあ、今日もボチボチ行くわよ!」

「なんだ?街を目指して頑張んのかと思った。」

「目標が“街へ行く事”に変わりはないわ。ただ、どこにあるかも分らない街を当ても無く探すのは止めたの。もっと現実的に、無理の無いスケジュールで進むわ。別に追い掛けられている訳でも、期限が決まっている訳でも無いんだもの。」

「そうだな。疲れたり、腹が減ったりすると、お前は分かり易く機嫌に表れるし。」


 そ…そんなに出ていたかしら?!……嫌味を言ったり、愚痴を漏らしたり………ああ…でも『疲れた』は連呼していたかもしれない…。


「ご、ごめんなさい。気をつけるわ。」

「ん?別にいいぞ?その方が静かだしな。」

「私、そんなにうるさく無いわ……よね?」

「まあまあうるさいぞ。少しは自覚しろよ。」


 まあまあ?ってどの程度を言ってるのかしら?

 バンディエルの言い方がまだ軽いし、トゲも感じないから、我慢を強いている程では無いわよね?


 そして、山を歩きながらの会話も慣れた頃、やっと山頂に到達した。

 私、雲海って初めて見たわ。それが眼下にあるってどれだけ登って来たのかしら?


 山頂で周囲の状況が分かれば…と、期待をしていたのに、見えるのは森ばかりね……。


「どこを見ても森や木ばかりだわ。せめて目印に出来る物が欲しいけど…。」

「なら、あの森が切れて見える所はどうだ?ここからじゃ何があるかは分かんねぇが、少なくとも木は生えてねぇし。」

「そうねぇ……他には目ぼしい物も無さそうだし。じゃあ、この方角を真っすぐ下山しましょうか。」


 森が深すぎるせいか、魔物もいないのよね…。前はダンジョンほどでは無くても、パラパラとは遭遇していたのに。


「ねえ、バンディエル。この山って魔物が居ないのかしら?ダンジョンを出てから、全然遭遇してないのよね。」

「は?魔物がいねぇ理由がねぇ。いてもお前の所に来ないだけだ。」

「何でよ?!」

「だってお前、今レベルいくつだよ?あの青い蝶を大量に倒して、それ以外も索敵に掛かった魔物は全て討伐しただろ?」

「そうね。」

「ダンジョンの魔物は、問答無用で必ず襲って来るが、外部の魔物は違うぞ?自分より格上の対象からは逃げる。無謀な突撃はしないんだよ。」




左山葉子(38歳)


レベル62


体力 330 /330

魔力 432 /432


魔術 イメージクリエイション、影潜り、インパクト、遠見、狙撃、硬化、高位索敵



属魔 バンディエル



「62レベルになってた。結構倒したものね…。」

「この近辺の魔物は、それ以下のヤツしかいないんだろうよ。あとは、単純にお前が索敵をサボってるだけだな。」

「……う。山登りでいっぱいだったから、確かに疎かだったわ。下りはちゃんと確認します。」


 バンディエルの指摘通り、高位索敵をしてみたら遠くに反応があった。……………やっぱり、ちゃんといるじゃない。外にいる安心感と登山でうっかりしていたわ。


 外にいる時の注意しなきゃいけない対象は人だったとしても、魔物だって初遭遇の相手だったらどんな攻撃をしてくるかも分らないんだから。


 そして、下りは下りで大変なんだと、再び山登りの大変さを体感しつつ下りて行く。


 そして、山頂に着いても何もせず、特段感想も出なかった辺り、自分は山ガールには向いていなかったんだわ、と葉子は自分で結論付けた。



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