第43話 寝坊

「う〜〜〜〜〜っ!!良く寝た!……周りには……誰もいないわね。」


 棺ベッドから出て、その上に腰を掛ける。

 夜にも思ったけど、綺麗な湖だわ…。

 これで、魔物がいなきゃ最高なんだけれど。


「バンディエル!おはよう!」

「……おはようじゃねえだろがー!!寝坊するなって言っただろ?!もう昼だ!」

「バンディエル、私のいた国の格言でね“急いては事を仕損じる”と言う言葉があるわ。急いでもレベルは上がらない。で、あるならば、長い目で見た長期的な計画が必要でしょう。それに、以前、私は失敗したけれど、ここではしたくないの!身体は1つしか無い私の大切な資本!睡眠や休憩、食事はその身体に必要な投資なの。それを疎かには出来ないし、しないわ。」

「俺には屁理屈を捏ねて、これからダラダラ飯を食う、お前の姿が見えるんだが?!」

「……まあ、確かに少し寝過ぎたかもね。ご飯はダラけずに素早く食べます。少しだけ待ってて。はい、魔石。」


 お昼だなんて……確かにお日様は天辺にあるわね。

 彼を苛つかせても、お小言がまた増えるだけだわ。早くご飯にしましょう!


「バンディエル、これからどこへ向かうの?私の案はね、このまま湖の畔を辿って南へ行こうと思うの。」

「まあ、とりあえずはそれで。魔物は随時討伐して、ダンジョンを見付けたら入るぞ。」

「そんなにちょこちょことダンジョンってある物なの?」

「ダンジョンなんて、条件が揃えばどこにでも出来る。街中だってその対象だ。魔力がいっぱいある場所や溜まり易い場所、もしくは自然と魔力が発生している場所だな。」


 ふーん。そんな場所が街中にもあるって、中々に危険な気がするけど…。


 サワサワと湖畔から風がそよぐ。

 髪が揺れ、服がはためき、野菜炒めをちょっと落とした。


 次の瞬間、私の頭を狙った何かがバリアに当たって弾けて飛んだ。


「………………………もう…本当に度し難いわね。」


 そのまま、後ろに倒れてみる。

 さよなら、私の野菜炒め…。無事だったら残りは後で食べるわ。

 

 倒れた拍子に、影に潜り魔物の魔石を3つ地面に置く。

 

 何が掛かるのかしら?罠はオーソドックスな箱罠でいいわね。見えたら入って貰えないから、透明な罠にしよう。


 影潜りで自分のいた場所から距離を取り、獲物を待つ。


 バンディエルが呆然としているわ。きっと、彼も気付けなかったんでしょう。


 暫く待っていると、やっと獲物が成果を見に来た。


 早く魔石の所までいらっしゃい…。



 「………よし!!やったぞ!!倒した!!」

 「………………」

 「何だよ!上手く行ったんだから良いだろ?!」

 「………………」


 どうやら魔術師のようね。……あら、あの人は確か魔術ギルドにいた舌打ち君だわ。


 それにしても、属魔の声って他人には聞こえなかったのね…。

 独り言みたいに聞こえるから、バンディエルと話す時は気を付けよう。


 そして、舌打ち君が魔石に手を付けようとしたタイミングで、箱罠の入口が落ちた。


 ガシャンと、入口が塞がる音がしてしまうのは、私のイメージのせい。

 舌打ち君はそれに驚き振り返る。


「な、何だよ!なんだこれは!!」

「ようこそ、姑息な舌打ち君。待ってたわ。」

「お、お前死んで……」

「私はまだ死にたく無いの。だから、あなたみたいな人に遠慮はしないわ。………インパクト。」


 舌打ち君は、インパクト衝撃を受けそのまま背後の木に全身を打ち付け、首が在らぬ方へ向いたまま崩れ落ちた。


 そして魔術ギルドで見た時と同じ様に、魔石を残して消え去った。


「やっぱり、舌打ちする様なヤツには碌なのがいないわね。」


 でも、魔石に罪はなし。バンディエルの糧となってもらうわ。


「バンディエル、はい魔石よ!また2つあったわ!」

「………すまない。気付けなかった………。」

「それは私も一緒!索敵の範囲外から攻撃が出来る魔術師だったんでしょう。」

「お前よく防御を取れたな………。」


 え?だって湖に魔物がいるってバンディエルが言ったから、ご飯の邪魔をされたくなくてバリアを掛けておいたのよ!


 私のナイスな判断を褒めてもいいわよ?


 大丈夫だったのに、いつまでもバンディエルがウダウダとしているわ。もう、先にご飯食べよう!


 腰掛けていた棺ベッドの方へ戻ると、残りの野菜炒めが引っくり返っていた……。


「ああ!!私のばか!!」


 攻撃方法にインパクトを選んだばかりに………!


 野菜炒めが無惨に散らばっていた…。

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