第40話 話し合いと駆け引き

 息を切らせたカームヨルクさんが倉庫に戻って来た。背後には衛兵が数名いる。


 とりあえず、防御魔術は切らずにおこう。

 事と次第によっては、このまま暴れてやるわ!


「お、お待たせしました!」

「……いいわ。……で?このギルド長はどうなるの?甘い対応なら……代わりに私がやりますからね?」


 私の言葉で衛兵達にも緊張が走る。


「それで?どなたと話をしたら良いのかしら?」

「あ、では私がお話を伺います。」


 衛兵の一人が代表として前に出て来た。もう、さっさと話を纏めて用を済ませたいわ。


「討伐した大猪を売りに来たんだけど、この倉庫に通された途端に後ろから攻撃されてね。攻撃してきた魔術師は殺したわ。後はこのギルド長の処分をしたいんだけど。」

「あ、の……その魔術師の魔石は?」

「もう無いわよ。」

「そ、そうですか……。」


 魔術師より魔石の心配か…。消えて無くなる命は軽いわね。私も死んだら同じ道を辿る事になる…。


「この度は、魔術師様にご迷惑をお掛けして、申し訳ありません!ギルド長はこちらで適正な処罰を科します!」

「適正な処罰ってなにかしら?」

「改めて上の判断を仰ぎます。なので、この場では、はっきりとは申し上げられません。」

「なら、その判断が出来る人を呼んで来て。……私は怒ってるの。決して有耶無耶にはしないわよ?」


 私がそう言った途端に、緩み始めたギルド長の顔が再び青褪めた。


 当たり前でしょう?魔術師ポジションで、どこまでの事が出来るか、許されているかも分らない。

 それを見極める為にも、引き下がらないわよ!


「いいぞ〜!やっちまえ!」


 だらし無い顔が落ち着いたバンディエルが、そう囃し立てた。


「2つ魔術が増えたぞ〜。あとで見ておけよ!」


 さっきの魔術師が持っていた魔術のことね?有用な魔術なら助かるけど。


「……今は、町を収める者が不在です。本当に申し訳ありません。」

「別にそれはいいわ。でも、その方が戻るまで、ここにいるつもりは毛頭無いの。だから、私がこの男を処断して良いかだけ聞かせて?」

「……処断は再考頂けないでしょうか?」

「何故かしら?貴方は、私を殺そうとした者を許せって言うの?なら、貴方が代わりになる?さっきも言ったわよね…私は怒ってるって…。」


 代表で話していた衛兵は下を向き、拳を握り締めていた。……意味が分からないわね。


「ねえ。法があるなら法に沿って裁く。それだけじゃない?その法が気に入らないなら、貴方が変えればいいわ。これから頑張ってね。」

「貴様ら魔術師がのさばって、幅を利かせているこの世で、何も持たぬ我らにどう頑張れと?!」

「やだ、魔術師だって人よ?殺せば死ぬし、隙は幾らでも有るでしょうに。正面切って渡り合おうとするなら、馬鹿を見るとは思うけどね。私は他の魔術師の考えてる事は知らないわ。ただ、自分に危害を加えて来るなら、それが誰でも許さない。今回、その男がしたことは自業自得じゃない?私を殺して全部を手に入れ様として失敗しただけだもの…ね?」


 本音が炸裂した衛兵さんは、そこまで私の話を聞いて、落ち着いたのかこちらを見返して来た。


「……変な魔術師様だ。」

「変は余計よ!!」

「ああ、分かった…分かりましたよ。ともかく、その男については好きになさって下さい。魔術師様に攻撃を仕掛けた時点で、返り討ちにされても文句は言えない。ましてや、受付の子を盾にするなどと、卑劣な事をした者など庇う気は無かった。だが、あなたがどうされるかを見たかった。」

「そう言うのは危険だと思うけど?」


 そう言ったら、衛兵さんは力なく笑った。

 ………冷静に良く見たら、素敵な人ね。無謀な気もするけど、気概があるわ!


「………その娘はもう…死んでるのか?」

「ええ?!死んでない……大丈夫。びっくりさせないでよ!死んでないわよ!私ちゃんと回復したもの!」

「…回復……?」

「だって彼女に悪意は感じなかったから。大猪の肉を売ってもいいわよって答えたら、本当に喜んでいたし…。」


 その事をつたえた途端、衛兵さんは受付の女の子のへ駆け寄り、抱きしめ起こした。


 ………はい?


「テレーザ!テレーザ目を開けてくれ!!」

「……うっ………。あ、れ……。お父さん…?」


 お父さん?!嘘でしょ!!そんな大きな子供のいる歳なの?!


 あああ、お、落ち着いて!大丈夫、落ち着いて…。


 未婚のいい男なんてこの世にいないんだから!あれは都市伝説レベルの話よ!砂漠で一粒の砂金粒を探し当てるような物なんだから!!


 もし、万が一にもそんな人と出会えたら、まずは詐欺の可能性を疑って、クリアしたら次は既婚者の可能性をちゃんと潰してからでないと駄目よね?


「テレーザ!良かった……!!」

「私……ギルド長に……押さえ付けられて……あ!魔術師様は?!」

「そこにいるよ…。」

「ああ、良かった……。私の不注意で…申し訳ありません。」

「あなたのせいじゃ無いでしょ?そこのクズ……そう言えばまだ居たわね。もう消えて頂戴!」


 本当、コイツのせいで、余計な手間が掛かったわ!

 ボッシ◯ート!で、深く落としたら埋めてちゃって!


「…!凄い…………。」

「ねえ、もう大丈夫?回復はしたつもりたけど、痛い所あったりする?」

「いえ!!痛くも何もありません!あ……服を替えてきても?」

「大変!早く行きなさい!!」


 未婚の可愛い娘なんだから気を付けないと!

 まあ、お父さんがしっかりしてそうだから平気かしら?


「魔術師様……本当にありがとうございます…!」

「お礼は要らないわ。元から彼女は巻き込まれた被害者だもの。それより大猪を買ってくれるの?1頭丸ごと売りたいのよ。森で5頭も討伐したらか、欲しかったら3頭までは売るわよ?」

「本当ですか?!実は最近、その大猪のせいで、森での狩猟がままならなくなっていたんです!」 

「あら、そうだったの。隈なく探した訳じゃ無いけど、大分間引き出来たんじゃないかしら?」


 着替えて戻って来た彼女に、大猪を査定てしもらい、丸ごと1頭を売る事が出来た!


 ついでに、町も案内してもらって買い物も出来た!

 服を一緒に見たり、楽しかったわ〜!


 バンディエルが途中で痺れを切らして急かすものだから、長くは留まれ無かったけどね。


 やっと念願のお買い物が出来て、また目標達成ね!

 でも、やっぱり町も危なかったわ。


 ……ふう。この先もどうなるのかしら?

 思いやられるわねぇ。

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