第39話 葉子、怒りの逆襲

 彼女の後を付いて行くと、広い倉庫の様な場所に出た。


 部屋に入る直前、バンディエルから急に防御魔術を掛けろと指示が入って慌てたわ!

 もう少しゆとりを持って指示をしてよ!


 防御魔術を掛けて、と……あら?受付の女の子はどこへ…?


 少し辺りを伺っていたら、背後からいきなりの衝撃が襲って来た。




 …………………………………はあ?!


 この世界は本当に不意打ちが好きね?!

 これが標準的な対応と言うことが良〜〜〜く分かったわ!!


 まさか、街中のギルドでも起こるとは思わなかったけどね!


 いいわ、私もそれに倣うとしましょう……。


 振り返りもせず、背後に複数の氷塊を乱射する。


 ピッチングマシン魔術よ!ただし、ボールでは無く鋭利な氷だけどね!


 旅行先で私が打ち返せなかった240kmの速度を可能な限り再現したわ!

 出来るものなら打ち返して見なさいよ!!


 背後ではいくつかの悲鳴が聞こえたけど、知った事では無いわ。いっつも安易に殺す気満々の攻撃をして来て…!!本当に腹が立つ!!!


「……毎回毎回…本当に嫌だわ。ねえ、何か言う事はある?返り討ちになるとは思いもしなかったって、驚いた顔をしてるけど、そんなに私って弱そうに見えるのかしら?私……これでも頑張って修行してるのよね。ここに来てから本当に修行三昧よ!良かったらもっと実演しましょうか?」

「……あ……申し訳あり…ません…。どうか…命は…お見逃しく……ださい……。」

「え?何で見逃さなきゃならないのかしら?あなたは、私を殺すつもりだったんでしょう?……バンディエル!コイツの魔石いる?」

「もちろんだ!くれ!」


 バンディエルがそう即答して来たので、既に瀕死の見知らぬ魔術師らしき男にとどめの氷の魔術を使った。


 そしてその男が死ぬと、ダンジョンの魔物の様にその姿がフッと消え、床の上には魔石が2つ残された。


 あら?魔石が2つ……。と言う事は、この魔術師は、以前誰かを倒して魔石を得ていたのね。


 その魔石を拾いバンディエルに渡すと、彼は直ぐ様、魔石を砕きいつも通りその身に吸収。


 やだ……バンディエルの顔が……うっとり?恍惚?とにかくだらし無い顔になってるわ……。


 もう!こんな時に!

 バンディエルは放っておこう!


 あとは、受付の女の子を盾にして、魔術を避けようとした見知らぬクズ男ね。誰かしらコイツは…。


「……さて。あなたは誰かしら?さっきの魔術師に私を襲わせて、何がしたかったの?」

「……わ、私はこのギルドの……ギルド長で……」

「嘘でしょ?!あなたがギルド長?!こんな碌でも無いギルド長では話になら無いわね!あなたの次の役職の人はいるかしら?その人の名前は?」

「……た、多分……執務室に……名はカームヨルク…です……」


 グスギルド長の手から、受付の女の子を奪って回復をする。自分で放った魔術だけど、とりあえずこの子に罪は無さそう……無いわよね?

 もういいわ!受付での対応が演技なら、主演女優賞を進呈するわよ!


 ……はぁ。私、もう人を信じられなくなりそう…。疑ってばかりとか嫌過ぎる。これでは刑事にはなれないわね。まあ、ならないけども……。


「カームヨルクさん!倉庫に来て下さい!!」


 スピーカ魔術で声を拡張して呼び出しをする。


 直ぐにバタバタと足音がして、倉庫の扉が勢い良く開かれた。


「……こ、これは?!」

「あなたがカームヨルクさん?悪いんだけど、今からこのクズギルド長の代わりに魔術ギルドを回してくれるかしら?どう?」

「ええ?!いったいどう言う事ですか?!それにあなたは……?」

「ああ、申し遅れたわね。私は魔術師の葉子よ。ギルドには、討伐した魔物を売りに来たの。受付の子にここまで案内されて入ったら、背後から攻撃されたんでやり返したわ。何か問題ある?」


 カームヨルクさんは、私の矢継ぎ早の言葉に戸惑い、言葉に詰まった。

 ギルドの役職がどんな物かは知らないけれど、繰り上げ昇進よ?面倒だから受けて頂戴!


「…………その……ギルド長は?」

「え?魔術師を使って私を襲わせた上に、受付の女の子を盾にする様なクズなヤツよ?許す訳ないでしょう?」

「そんな!!お詫び致します!!助けて下さい、お願いです!」

「嫌よ!!ねえ、カームヨルクさん。私ギルドでこんな目にあったの初めてなんで、教えてくれる?こんな時は衛兵を呼べば良いのかしら?それとも私の好きにしていいの?」


 カームヨルクさんはギルド長と私、そして受付の女の子を見て逡巡していた。


 はあ………。返答も決断も出来ないなんて、この人はギルドを纏める器では無かったのかしら?


 そして、私が魔術をギルド長目掛けで撃とうとしたその時、やっとカームヨルクさんから声が上がった。


「お待ちください!!」

「……もう既に十分待ったわよ?これ以上、何を待てと言うのかしら?」

「衛兵を!呼んで参ります!」

「そう。ならすぐに呼んで来て。………早くね。」


 私の言葉を聞き、カームヨルクさんは走って出て行った。


 ただ、物を売りに来ただけでこの騒ぎ!


 この世界では何処も彼処もこんな風なのかしら?!

 それともコレが、バンディエルの言っていた“余計に面倒なこと”なの?!


 何とか慣れようと思ったけど、日本に帰りたい!!

 どうして私はこんな場所にいるのよ?!

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