第38話 街へ入場〜魔術ギルドへ

「ね、ねえ……バンディエル。これ本当に平気なの?私は、他の人みたいに身分を証明する物を持っていないわよ……。」

「大丈夫だって言ってんだろ?!とにかくお前はさっき俺が言った通りにしろ!」


 街への入場の列に並びながら、不安がどんどん膨らんでいく。


 とりあえずバンディエルに言われた通りにするけど、私の第一印象が最悪になる気がしてならないわ…。


 本当に平気なのかしら??……ああ!!もうすぐ私の番だわ!会社の面接より緊張してきた!


 ……大丈夫よ、葉子!街はここだけでは無いわ。それこそ会社の数ほど……は無いと思うけどまだ他にもあるんだから落ち着いて……。何だったらミエルの村くらい小さな所から、初来訪をしたかったくらいだし!万が一、入場を断られても次がある!安心して!


「次の者!」

「………………。」

「身分証の提示を。」

「……身分証?これでいいかしら?」


 手から、世紀末で雄叫びを上げる人が持っていた、火炎放射器の様な炎を空へ向かって放つ。


 辺りに悲鳴が上がり、ざわめきと共に周囲の人達から一定の距離を取られた……。


 ………私、バンディエルに一杯食わされたりしてないわよね?!


「あっっ!!失礼致しました、魔術師様!!ど、どうぞご入場下さい!」

「……ありがとう。あ、少し聞きたいのだけど、この街の魔術ギルドはどこかしら?」

「でしたら、入って右の道を突き当たりまで進んで頂ければ、正面に魔術ギルドがございます!」

「そう、分かったわ。では、これで失礼するわね。ああ、安心して。街中では余程のことが無い限り、魔術を使わない事を約束するわ。」

「ご協力感謝致します!アーケイズの街へようこそおいで下さいました!」


 ミエルの話を聞いて多少知っていたとは言え、ただ魔術が使えると言うだけでこの待遇。


 正直、気持ち悪いわ。


 それだけ、ここでは魔術師が幅を利かせているって事なのね。


 とりあえずは、教えてもらった魔術ギルドへ向かおう。持っている物の売却も出来るはずだとバンディエルからは聞いていたし。


「な?大丈夫だったろ?」

「…もし、他の方法が取れるなら、次回からはしたくないわ。」

「こんくらい知らしめた方が、お前みたいな姿の者には丁度いいんだよ!でなければ、舐められて余計に面倒だぞ?」

「そうかしら…?でも、誰からもあからさまに距離を取られたら凹むわ…。」


 気軽に声を掛けれる雰囲気は全く無くなってしまった。……それに、この視線は辛いわね。もう少し普通に過したかったわ。


 初めて訪れたアーケイズと言う街は、あまり発展していなかったけれど、長閑な雰囲気を残しつつも、暮らして行くのに必要な商店や露天が並び、その品々には目を引かれた。


 でも、先ずは先立つ物を用立てないと…良い値で売れます様に!


 ただ、魔術ギルドでも偉そうにしろって、バンディエルから言われているんだけど…本当に大丈夫かしら?


「いらっしゃいませ!」

「ちょっと倒し過ぎて邪魔になった物があるんだけど……コレは売れるかしら?」

「拝見します。………立派な大猪の牙ですね。こちらでしたら、一本5000ギル、二本合わせてお売り頂けるなら12000ギルで買わせて頂きます!」

「そう………まあまあね。実は5組この牙を持ってるの。全部売っても良いかしら?」

「は、はい。その………他の品物はどちらに?」

「ああ……はい。これよ。」


 カウンターで対応してくれた、そこらのアイドルが裸足で逃げ出しそうな程に可愛い受付の女の子の前に、無骨な猪の牙を一遍に放出する。


 重量感のある音と共に、カウンターを埋め尽くしたハイ◯ース猪の牙。


 ああ!やっぱり唖然としてるじゃない!!私も謝りながら裸足で逃げ出したい〜!


 でもここが正念場よ!今後の為にも、必ず軍資金を手に入れる!


「あら、驚かせたかしら?大丈夫?」

「…あ、は、はい!大変失礼致しました!こちら全てをご売却で宜しいでしょうか?」

「ええ、お願い。」

「……あ、あの……もし魔術師様に余裕がある様でしたら、大猪の肉も少しお分け頂けないでしょうか?」


 え?お肉も買ってくれるの?!正直、食べ切れないから、どうしようかと思ってたのよ!少しと言わずに一匹引き取ってくれないかしら?ものは試しに言ってみよう!


「ええ、別に良いわよ。一匹で良いかしら?」

「一匹頂けるんですか?!是非!!お願い致します!!」

「でも、さすがへにここには出せないわよ?」

「はい!ご案内致します!こちらへどうぞ!!」


 カウンターに出した牙を収納し、受付の女の子の後に付いていく。……その時、不意に背後で舌打ちが聞こえた。


 …………………私に舌打ちした訳じゃないわよね?


 とりあえずは、待たせては悪いから受付の女の子を追いましょう。

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