第12話 送迎完了!
陽がだいぶ傾き始めた頃、やっとミエルから声が上がった。
「…ヨーコさん!村が見えて来たよ!」
そう言われ、夕闇間近の眼下に目をやると、素朴な印象の木造の家が20軒ほど建っているエリアが樹々の間から見えてきた。
まぁ、ぎりぎり村かな?
規模と周りを囲む質素な腰高の塀を見るに、部落?集落?レベルの気もするけど…。
「無事辿り着けて良かったね〜!」
「うん!連れ去られた時は、もう戻れないと思ってたから…。ヨーコさん、本当にありがとうございます!」
「いいのよ〜!それに、ここ迄まで来ればもう大丈夫だね。ミエル、一人でも行けるよね?」
「え……?一緒に来てよ!ヨーコさん!お父さんとお母さんにも紹介したいし、助けてもらったお礼もしたいの!」
引止めようと私のマントの裾を手に、潤んだ目を向けて来る。
キュルンとしても駄目です。
効きませんよ、私には。
悪いけど、ここはお決まりのお別れ&口止めイベントで、終了させてもらうわね。
「ミエル。私は行く所があるから、これ以上は一緒に行けないの。分かって?」
「………。」
「それと、お願いがあるの。いい?」
「……うん。」
「一人で戻ったら、皆に聞かれると思うの。『どうやって逃げたんだ?』って。」
「うん。」
「そうしたら『三人組が魔物と戦っている隙に逃げて来た』って言ってくれる?」
「……どうして?ヨーコさん。」
「私は魔術を使えたとしても、国に仕える気は無いのよ。探してる物があるから、決まったお仕事は出来ないのよね。だから、魔術を使える事も黙っててくれると助かるわ。」
この国と言うか、社会全体が凄いブラックな職場の匂いがするしね。
それに、せっかく今迄の勤め先から、離れる事が出来たんだもの。
仕事なんかせずに自由にしていたいわよ!
まあ、最悪ミエルが喋ったとしても、私がここから離れた後なら構わない。
約束が必ず守られるとは、私も思っていないからね。
「………分かった。ヨーコさんの事は黙ってる。約束するよ!」
「ありがとうミエル。……さあ、早く帰ってお父さんとお母さんを安心させてあげて。」
「うん!本当にありがとう!ヨーコさん!」
そして、別れの言葉と感謝の言葉を何度も言って、ミエルは村の中へと入って行った。
すると、村人が直ぐに彼女に気づき、次々と集まって来た。
その内の一人の女性がミエルに駆け寄ると、ミエルを抱きしめて号泣している。
あの人がお母さんかしら?
続いて男性が、何かを叫びながらその二人に駆け寄って行った。
お父さんかな?
周りを囲む様に立っていた他の村人達も、ミエルの帰りに笑顔を見せていた。
ほんと良かったね〜。
……………さて、感動の帰還の次は、絶対に事情を聞かれるでしょうから、さっさとこの場を離れないとね。
お腹が減って来たわ……………。
さっき見かけた猪、まだ近くにいるかしら?
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