第55話 サメ術師は協力者を警戒する

 その後、俺達はシェルター・シャーク内で就寝する。


 アティシアはサメ型のベッドで熟睡した。

 無防備にいびきを掻いている。

 たまに寝言を洩らしているが、その内容までは聞き取れない。

 たぶんどうでもいいことだろう。


(呑気なもんだな。それだけ死なない自信があるのか?)


 俺は部屋の端からアティシアを睨む。

 手元には王城で手に入れた資料があった。


 所属する勇者を載せたリストだ。

 当然ながら彼女の情報も記載されている。

 先ほどから何度も読み直して、暗唱できるまでになった。


 アティシア・サン。

 二十二歳。

 第七期の勇者であり、召喚時点でレベル38。

 固有スキルは【運命誘導】のみで、ステータスはやや貧弱。

 運の値だけが異様に高いらしい。


 武術、魔術共に飛び抜けた才覚はないが、それぞれを努力によって補強している。

 数年もしないうちに、兵士として問題ない水準となったそうだ。


 良く言えばバランス型。

 悪く言えば器用貧乏。

 それが彼女に対する評価であった。


 資料にはアティシアの言動に関する問題点が挙げられている。

 具体的な事例を出すなら、国の方針に意見したり、勇者召喚に反対したそうだ。

 さらに他国との戦争を嫌い、それに伴う命令違反や任務中の失踪も多発したらしい。

 外部組織との繋がりも疑われていたという。


 彼女は世界平和を目指していると言っていた。

 もしかすると、その辺りが起因ではないか。


 王国もアティシアのことは、信頼ならない勇者として認識していたようだ。

 何度か処罰を試みるも、固有スキルの関係でいずれも失敗したらしい。

 最終的には武闘派の勇者を使った暗殺まで実行したが、彼女は撃退してみせたのだという。


 凄まじい自衛力だ。

 暗殺にも対処できるのは強い。

 その後、アティシアが国に報復する様子もなかったので、重要度の低い任務ばかりを任せて働かせたそうだ。


 資料には【運命誘導】に関する実験や検証が記載されていた。

 能力を解き明かすために様々な試みが実施されたのだ。


 長所や短所が列挙してあるが、アティシアが意図的に誤魔化している可能性もある。

 結果を鵜呑みにはできないだろう。


(どこまでも怪しい奴だ)


 アティシアはおそらく俺のことを信用していない。

 いざという時は平気で使い捨ててくるはずだ。


 サラリーマン時代、彼女と似た人種を何度か見たことがある。

 表向きの性格は様々だが、共通して性根が腐っている。

 自己利益のためならどこまでも冷酷になれるのだ。


 俺はそんな相手に目を付けられた。

 仲間ができたのだと悠長に喜んでいる暇はない。

 焦ることはないが、今後に備えて何らかの対策が必要だろう。

 同じく性根が腐った者として、手痛い反撃をしてやろうじゃないか。

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