第31話 大木広場の戦い
弾丸が風を切る音がして、目前にいる衛兵の鎧兜が砕け散り、俺の頭のすぐ横に鉄球がめりこんで床のタイルが派手に割れた。
俺はふらつきながら立ち上がり、プラム王女の方へ一歩を踏み出そうとしたが、足もとの床にまた着弾して破片が飛び散った。
「タケオ! 大丈夫か!?」
王女が叫び、俺は微笑んで安心させてから弾丸が飛んできた方向を見た。
パインが乗っていた鷹の目が描かれた戦車が広場に現れていた。
『プラム! 大丈夫か、助けにきたぞ!』
「そ、その声は…パインか!?」
『タケオさん! 悪いがプラムのことはあきらめてくれ。』
王女は戦車からの声に明らかに動揺して、しきりに俺の方を見て気にしていた。
「プラムさん、パインさんを知ってるのですか?」
「い、いや、まあ、知ってるというか…。」
いつもと違って歯切れが悪い王女だった。俺が再度動こうとするとまた銃撃に阻まれた。王女は自分を納得させるかのように言った。
「兄だ。そう、パインは我の兄だ!」
「え? プラムさんにはお兄さんがいたのですか?」
「うむ。長らくエルフの森から追放されていたのだがな。こっそり戻ってきていたのだな。」
鷹の目の戦車が広場を横断して祭壇に迫ってきた。群衆はちりぢりに逃げ去り、阻止しようとした衛兵たちはキャタピラに蹴散らされた。
鷹の目の戦車のハッチが開いて、パインがピョコンと顔を出した。
「プラム! ケガはないかい? さあ、早く乗りたまえ!」
「いやだ!」
プラムは即答して俺にかけより、ささっと背中にしがみついて隠れてしまった。
戦車の砲塔が俺たちに向けられた。
「プラム、早くこちらに来なさい。私は君の婚約者なのだからね。」
「コンヤクシャ?」
俺はわけが分からず振り返ろうとしたが、王女は俺の背中に回りこんで隠れ続けようとした。
「もしもしプラムさん? プラムさんはパインさんと結婚する約束をしていたのですか?」
「あ…、いや…、まあ…。」
「さっき、プラムさんはお兄さんって言いましたっけ?」
王女は口笛をふいてごまかそうとした。
「いや、ぜんぜん吹けてないし。」
「ええい、うるさいぞ! 別に隠していたわけではない。そうだ。あれは兄ではなく、我の遠縁の者だ。親が勝手に決めたことで、我も忘れていたくらいだ。」
「ふう~ん。逆ギレですか。」
俺はジト目になったが、王女はかえって嬉しそうな表情を見せた。
「なんだ? 妬いておるのか、タケオ?」
「そんなわけないですよーだ。」
「ふふふ。無理をするな。」
ぜんぜん進まない話にパインがイライラし始めたようだった。
「いつまで目の前で仲の良さを見せつけているのですか? さあ、早く乗りなさい。」
「乗らぬ! 帰れパイン、今更おぬしになどついていかぬ。」
「なんですって。」
「思い出したぞ! そもそもお主は、他につきあっている者が多数おるのを我が父にバレて追放されたのではないか!」
「うっ。」
パインは苦笑いしながら頭をかき出した。
「仕方ない。タケオさんを先ほどは助けましたが、そうもいかないようですね。」
下のハッチが開き、迷彩柄の乗員の上半身が現れてニヤリとしながら俺に向かってライフルを構えた。
「商売敵を排除しまーす!」
「タケオ!!」
(ドーン!)
銃声が響いたが、弾は全く見当違いの方向へとんでいった。急に現れた別の戦車がパインの戦車に体当たりをしたからだった。
とっくに逃げたと思っていた黒マントのダークエルフ族たちが壇上から叫んでいた。
「遅いぞ! 早くそいつらをやっつけろ!」
「金はいくらでも払う!」
どうやらその戦車はダークエルフ族が雇った別の戦車派遣会社のものらしかった。俺はこの隙に、王女を抱きかかえると走りだした。すぐ横にノーラが並走した。
「逃げ道ならまかせるニャン!」
俺たちは広場を突っ切って走り続けたが、あちらこちらからエンジンやキャタピラの音が聞こえてきた。
「あニャ?」
「まずい…。」
俺たちがいる広場に向かって、何台もの様々な型の戦車が集結してきていた。
『株式会社戦車ーラでーす。』
『戦車ハットでーす。ダークエルフ族さんってどちらですか?』
『ドミナ戦車サービスです! 戦車をお届けにきました!』
俺たちはまわりを何輌もの戦車に完全に取り囲まれてしまった。王女とノーラが両側から俺にしがみついた。
黒マントの集団のひとりが戦車に登り、うすく笑いながら俺たちを見下ろした。プラム王女の処刑を宣言していたダークエルフ族の奴だった。
「あきらめろ。エルフ王国は無能な王族を一掃して新しく生まれ変わる。そして、我々が戦車屋どもを利用して人間族を滅ぼし、世界を我が手にするのだ。」
俺は叫び返した。
「プラムさんは悪政には関係ないだろう! それに、戦車屋に利用されているのはお前たちの方だ! わからないのか!」
「わかっているとも。だが、使ってこその力だろう。」
過ぎた力は更なる争いしかもたらさない。俺は、自分たちはやはり異世界に関わるべきではなかったのだと激しく後悔した。
黒マントが合図すると、全戦車の砲塔が俺たちに向けられた。
「タケオ、今までありがとう。お主と出会えて本当によかった。」
プラム王女が俺に強くしがみついた。
ノーラはバタバタと手足や尻尾を振った。
「あニャ! 縁起でもないニャ! 最期のことばみたいニャ! 僕は死にたくないニャ~。」
逃げようとしたノーラにも砲が向いた。
「タケオ! なんとかするニャ! おやつを食べられなくなるのはイヤニャ!」
俺は両側から挟まれて身動きができなかったが、視界に入ったものを見て笑い出した。
「タケオ?」
「あニャ、恐怖のあまりついに?」
俺たちを包囲していた戦車の内の1輌の横腹に大きな穴があき、炎に包まれて大爆発を起こした。
咄嗟に俺は、王女とノーラを地面に押し倒して伏せた。
拡声器を通したようなひよりさんの声が聞こえてきた。
『待たせたな! 超有能な技術者と新・ヒヨコ丸の最強タッグの登場だぜ!』
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