第21話 子どもたちを救え!
「来たぞ! タケオ!」
葉っぱだらけのカウボーイハットをかぶり、顔下半分に黒い布をまいたプラム王女がささやいた。
「あのう、実名をやめてもらえませんか。」
同じく木の枝や草まみれの目出し帽をかぶった俺は王女にささやき返した。
「あ、すまない。タケだったな。来たぞ!」
「わかりました、ラムさん。」
俺たちは、街から離れた湖沼地帯を通る街道脇の巨大な葉っぱの影に陣取り、待ち伏せをしていた。
街道といっても、板や石を並べて無理やり作られた道で、地盤のゆるい地形をショートカットで突っ切る輸送ルートだった。
『あー泥だらけだよ。やだやだ。めんどうくさいなあ。』
草や葉っぱでカモフラージュしたヒヨコ丸改がすぐそばに控えていてブツブツ文句を言っていた。
「ヒヨ! ひよりさんを助けないとお前を修理できないんだぞ。」
『別にいいけどなあ。このままでさ。』
俺はヒヨコ丸改のあまりのやる気のなさにため息をついたが、王女が俺を安心させるかのように手を重ねてきた。
「なんだお前は。同業か。」
アイパッチをして刺青だらけの巨漢は豚人間だった。俺は王女の手前、精一杯の虚勢をはった。
「ちがう。親分さんに話がある。カジノで暴れた奴の件だ。」
「ほう。」
巨大な豚さんは俺たちをジロジロ値踏みしたあと、後ろのヒヨコ丸改を豚爪で指さした。
「後ろのそいつはなんだ。」
「こ、これは…ペットだ。」
「てめえ、親分に会うのにペット連れか! ブヒッ!」
豚さんは目をひんむいて怒り出したが、王女がキラキラ目で豚の手をとった。
「こいつは寂しがりやでな。いけないか?」
豚人間は真っ赤になり、頬をポリポリかいた。
「い、いや、ま、それなら仕方ねえなあ。さ、入んな。」
大きな両開きの扉が開いて、俺たちは暗い通路を進んだ。幾つも同じような扉を抜けると広い部屋に出た。
甘い香りがするうす暗い部屋の奥の方に、子分たちに囲まれながら豪華なソファに寝そべっている人物がいた。
「誰だい。おかしな面子だね。」
気だるげに起き上がり、物珍しげに俺たちを観察していた人物は裸同然の衣服を身につけていた。
つい見てしまうが、王女が俺の腕をつねって話を促した。
「あなたが親分さんですか?」
「ああそうだよ。マルゲルダ・ファミリーさ。まあここに座んな。何か飲むかい?」
物騒な連中に囲まれて俺は小さくなりながら、なんだかよくわからない飲み物を受け取った。
「お嬢ちゃんはジューチュ? それともミルクがいいでちゅかー?」
親分は笑いながら明らかに王女を侮辱したが、王女は涼しい顔でジュースを飲んでいた。
親分は舌打ちすると俺の肩に腕をまわしてきた。
「あんた、そーゆー趣味なのかい? 大人じゃダメなのかねえ。」
王女がジュースを置いて、なぜか俺をにらんだ。子分たちはヒヨコ丸改のまわりに集まり、しきりに砲塔や車体を叩いたりさわったりして感心していた。
「親分さん、本題に入りたいのですが。」
「ああ。金を持ってきたのかい?」
「いいえ。ですが、桃寺こよみさんへの訴えを取り下げて頂けないですか? お金は必ず返します。」
「話にならないね。帰んな。」
親分が合図すると、ソファはたちまち武装した子分たちに取り囲まれた。俺は正直言ってちびりそうだったが、王女がテーブルの上にとびのった。
「静まれ! 我が話し合いに来てやったのに貴様らは暴力で応じるのか!」
「ふうん。どうやら普通のガキではなさそうだねえ。だけどね、金はどうするんだい?」
親分は傍のグラスの飲み物をあおった。
「我とタケオが働いて返そう。」
「ええっ!?」
俺は王女は何を言い出すんだと焦ったが、親分は再び俺の肩に手をまわしてきた。
「いいね。じゃあ、あんたには体で払ってもらおうかねえ。お嬢ちゃんはうちの店で働くかい?」
「ダメです、プラムさん。完全に労基法違反です!」
「どうせいかがわしい店であろう。代わりにこれで働いてやろう。」
王女は短剣を抜きはなち、うす暗い部屋の中で刃が光り輝いた。
「ガキが何を言ってんだい。」
王女が合図をすると、ヒヨコ丸改が砲塔を旋回させて単発射撃をした。
(パリン!)
グラスが砕け散り、部屋に驚きとどよめきが広がった。親分はけたたましく笑いだした。
「わるかったね。お前さんの覚悟をみくびっていたよ。じゃあさ、ひと仕事してくれるかい?」
親分は舌なめずりすると、俺たちに仕事の説明を始めた。
「本当に引き受けて良かったのですか? 完全に、ただのギャング同士の抗争ですよ。」
「仕方あるまい。背に腹はかえられぬ。」
遠くから生物の鳴き声や足音、車輪の音が聞こえてきた。黒い布をかぶせた荷台がある巨大な馬車を、歩兵や騎兵が護衛していた。
荷台が重すぎるのか、路面の板切れが割れて車輪がぬかるみにはまった。
「今だ!」
ヒヨコ丸改が機銃の乱射を始め、俺と王女は隊列に向けて飛び出した。
「人身売買?」
「そうさ。ダイアボラ・ファミリーの奴らは誘拐した異種族の子らを売りさばいて荒稼ぎしてやがるのさ。」
ソファで親分は、頭を俺の腿にのせて横になった。王女のイライラが伝わってきたがどうしようもなかった。
「あたいらマルゲルダ・ファミリーは真っ当な商売でおまんまを食ってんのにね。そこでさ。」
「ダイアボラ・ファミリーの移送隊を襲って子どもたちを救出するのですね。」
「成功したら借金はチャラだ。頼んだよ。」
ヒヨコ丸改の機銃掃射の威力はすさまじく、護衛たちはあっという間に散り散りになって逃げていった。王女が御者を組み伏せている間、俺は荷台の黒い布を取り払った。
「あれ?」
中には子どもの姿など全くなく、代わりに樽がたくさん並んでいた。立ち尽くす俺のそばに、王女が縛った御者を引きずってきた。
「どういうことだ! 言え!」
御者は何かを言おうとして言えなかった。背中に矢が突き立ち、こときれたからだった。
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