act.18
「小僧、術は終わりじゃ」
目を閉じた瞬間にそんな声をかけられたザインは、びっくりして周りを見回した。
「へ、まだ何もしてないんじゃ」
「先ほどから、ゆうに四半時は過ぎておるぞ。小僧、お前には一瞬にしか思えなかったはすだがの。さ、立ってこっちへ来い」
ザインは、腑に落ちていない表情で椅子から立ち上がりガルシアの側に戻った。
ガルシアはザインの額から水晶片をはがすと、ザインに手渡して言った。
「これが封じられているお前の記憶を転写したものじゃ。記憶を再生するには同じように額に貼り『再転写』と唱えればよい」
「ありがとうガルシア、助かったよ。で、施術の代金って言うのはどのくらいが相場なんだ?。俺こんな依頼なんてするの初めてだもんで」
ザインは下手に出つつガルシアの反応を伺った。
「くくく。そう気にするものではない。ま、今回のこれに関しては代償を要求するつもりなど考えておらぬしな」
ガルシアはそういって笑うと、ザインの顔を至極まじめな表情に戻って覗き込んだ。
「それよりも小僧、まだ言いたいことがありそうな顔をしているが、何じゃ」
「う、さすがにかなわないな。実はもう一つだけ頼みがある。聞いてもらえる頼みかどうかはわからないけどとりあえず言うだけはいっとくぜ」
「お前ですらお世辞抜きできれいになったと言っておったうちの嬢様に夜這いでもかけようというのか? さすがにそこまでの無理は聞けんぞ」
そのセリフに思わずむせかえるザイン。
「な、何バカな例えしてんだよ」
ザインは一回深呼吸してからその先を続けた。
「ま、ジャニスに関わってるのは間違いないけどな。ただ直で話がしたいだけだよ。別に夜這いを掛けようとか、ばかなことは考えてないし、する気もないけど、とにかく部屋の周りの結界をちょっとだけ解いて欲しいんだ」
それを聞いたガルシアは突然声を上げて大笑いした。
「うわっはっは、神妙な顔をして何を言い出すかと思えばそんなことだったとは。いいじゃろ、今から半時だけ解いておこう」
「ガルシアは笑ってるけど、実際間違ってあの結界に引っかかるとすげー痛いんだぜ」
「ま、そうじゃろうな。あの当時わしが『結界』と言っていたのは、いたずら小僧へのお仕置用の魔法だからな。実際の侵入防止の結界は衛兵詰め所にある魔法の明かりが点くだけのものじゃよ」
ザインは形容しづらい表情でつぶやいた。
「やっぱり予想通りだったか。ガルシア、あのころオレ達を使って遊んでただろ」
「それが判るようになっただけ、小僧も成長したってことじゃな。ま、時間もないようじゃし本物の結界の方も解いておく。嬢様の所へ行くがいいて」
「重ね重ねすまないな、ガルシア。でも何で俺にこんなに便宜を図ってくれるんだ」
ガルシアの部屋を出つつ、ザインはそんなことを聞いた。ガルシアは笑いながらこう答えた。
「わしが小僧のことを気に入ってるから、というのはおかしいかの」
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