act.15
「な、わからんだろ」
息子が手紙を読み終わったのを確認したゲイツは、ザインに確認をした。
「それともお前何か心当たりでもあるのか?。何か考え込んでるみたいだが」
この手紙を読んで、ザインが最初に考えたのはアイスのペンダントのことであった。アイスとの会話の中で、ペンダントをほしがっているのは貴族や大商人という可能性もあると聞き及んでいたからであった。しかしその可能性を否定するもう一つの理由を突如思いついたザインは、笑いながら父親に告げた。
「何となく判ったような気がするよ」
「何だ、お前と財務卿の接点なんてどう考えてもわからんのだが」
それを聞いたザインは父親に、全然別の話を振った。
「ところで親父、ここしばらくで噂になっている、あるめでたい話を知ってるかい?」
「めでたい話?、恐ろしい話なら王都の連続行方不明事件だが、めでたい話となると……やはりリュシドー伯の所の縁談……おう、なるほど、私にも何となく判ったよ。あえて口にはしないがな。おまえとは仲がよかったものな」
「おそらくそんな所だと思うんだけど。ま、氷の財務卿も人の親ってことなのかな」
手紙の内容にある程度得心がいったゲイツは、ザインに意思の確認をした。
「で、ザイン、行く気はあるのか。私は行くなとは言わないぞ。あとはお前の気持ち一つだが」
「ちょっと、こっちで気になることもいくつかあるんだけど、行ってもいいかなって思ってるよ。でも10日までに王都に行かなきゃいけないって事は、明日にも出発した方が良さそうだよな」
そう父親に答えつつ、ザインはその時、今日のうちに無理矢理にでもペンダントのことを思い出し、アイスへの置きみやげにしようと決心していた。
「あ、親父、俺ちょっと出かけてくるわ。伯爵様の所、正確にはガルシアのとこだけど」
「ガルシア殿の所?、一体何をしに」
「ちょっと人のプライベートに関わってるんで詳しくは言えないけど、どうしても思い出さないといけないことがあるんでちょっとガルシアの力を借りようと思って。それと、さっきの件どのくらいまで話していいもんだか助言もしてもらいたいしね」
「そうか。まあ、お前は気に入ってもらえているようだが、迷惑にならぬ程度にな。私もあの方にはさんざん世話になっているからな」
そこまで聞くとザインは母親に、
「ごめん、ちょっともう一回出かけてくる。どのくらいかかるか判らないけど、夕飯は出来れば取っておいて欲しいな」
と、言い置くと家を飛び出していった。
リュシドー邸の裏門では、相変わらずディノンが詰め所でお茶をすすっていた。
「よ、ディノン。昼の荷物どうした」
そういいながら詰め所に入っていくザイン。ディノンはその声ではっと顔を上げると答えた。
「なんだザイン、一日に2回も顔出すなんて珍しいこともあるもんだな。荷物の方は多分無事だと思うよ。夕方ミルフェさんが通ったときこっち向いて親指立ててたから。で、こんな時間に何か用かい」
「ああ、ちょっとガルシアの爺さんに頼み事があるんだ。やってくれるかどうかはともかくな。というわけで勝手知ったる他人の庭って訳じゃないけど、通るぜ」
そういって詰め所を通り向けようとするザインを呼び止めるディノン。
「ちょっと待て、一応規則だ。通行確認のサインだけしていけ」
「さすがに職務には忠実だな。ほいほいっと、これでいいか」
台帳のサインを確認するとディノンは、
「OK、いくら知り合いっていってもこればっかりはな。そういうことで通っていいぜ、急いでるんだろ」
そういって、台帳のサイン以外の場所を埋め始めた。ザインは「また帰りにな」と言い置いて邸内に入っていった。
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