第72話新たな恋人

「実家から大学に通うの?」

ある日の夕食のこと。

母親からの唐突な問いかけに首を傾げた。

「一応ルームシェアに誘われてる」

「ふぅ〜ん。さらりちゃん?」

「いや。っていうか結構前に別れたよ」

「そう。学生の恋愛なんてそんなものよ。どれもこれも運命の出会いなわけ無いんだから。そもそもそんなものが存在するのかもわからないしね」

母親の遠回しの励ましの言葉に少し救われていると会話は続いた。

「ルームシェアでも良いけど。一人暮らしは考えなかったの?」

「まったく頭になかった…」

「大学に通うようになれば分かるけど。一人暮らしの方が何かと便利よ。時間があるから付き合いも増えるし。交友関係は広いほうがいいでしょ?」

「まぁね。でもその分、面倒な付き合いだって増えるとかオチじゃない?」

「それは自分で選択しなさいよ」

「そうだね…」

「それでルームシェアには前向きなの?」

「一応」

「それなら早く荷物まとめて出ていきなさい」

「急だな。そして冷たい…」

「実家暮らしだと何事も自分でやろうと思わないでしょ?」

「そうだけど…」

「早く独り立ちしなさい。社会に出たら面倒見ないわよ。ここは時々帰ってくる場所になるだけなんだから。何か行き詰まったらいつでも帰ってきなさい。話は聞くから」

「わかったよ。じゃあ荷物まとめるよ」

母親はそれに頷くと父親は何も言わずに夕食を食べ進めていた。

夕食を終えるとカグヤに電話をかける。

彼女はすぐに電話に出ると嬉しそうな声を上げた。

「電話なんて初めてじゃない?どうしたの?」

「うん。あの話って生きてるかな?」

「どの話?」

「一緒に住むって話」

「生きてます…」

「良いかな?」

「ちゃんと言って欲しいな…」

「同棲したいです」

「ということは?」

「付き合うってことになるんだろうけど…」

「イヤ?」

「そんなことないよ。でも良いのかなって…」

「私はずっとそのつもりだって言ったでしょ?」

「そっか。じゃあそれで」

「何か味気ないね」

「改めてだと照れくさくて…」

「そうなの?慣れていると思ってたんだけど…」

「付き合う瞬間のこの感覚は慣れないよ…」

「そうなの?」

「まぁね…。早速明日には荷物持って行って良いかな?」

「うん。待ってる」

そこで電話を切ると大きなリュックとカバンに着替えなどの荷物や必要なものを詰め込む。

その作業が終わるとベッドに潜り込んで明日に備えるのであった。


翌日。

荷物を持つと家を出る。

両親は仕事に行っており別れの挨拶はできなかった。

電車に乗ってカグヤの住むアパートまで向かうとチャイムを押した。

「おかえり。疲れてない?」

「ただいま。疲れてないよ」

中に入ると荷物を床においてこれからのことを考えた。

「寝る所なんだけど…」

「一緒に寝ればいいでしょ?ダブルベッドだし」

「用意良いね…」

「こうなるって予想してたから」

「予想できるものかね…」

カグヤは美しく微笑むと部屋の時計を確認した。

「お昼は何が良い?」

「何か作ってくれるの?」

「これからは外食を控えるよ。バイトもまだ決まってないし」

「僕もバイトしないとな」

「だね。とりあえずパスタでも作るよ」

「ありがとう」

そうして成り行きから僕とカグヤは運命的に付き合うことになる。

僕とカグヤの同棲生活、そして大学生活は始まろうとしていた。

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