第65話体育祭本番

放課後の自主練は体育祭本番前日まで続いた。

早く走る勘を取り戻すのに少しだけ時間がかかったが、どうにか高校生男子の平均的走力以上には走れるようにはなっただろう。

そして体育祭本番。


まず、100m走をかがりとさらりが走っていた。

スタートダッシュをきれいに決めたのはさらりだったが途中でかがりに追い抜かれるとそのままゴールイン。

100m走でもかがりが1位でさらりが2位だった。

クラスメートからの声援を耳にしてもさらりは悔しそうな表情を浮かべていた。

やはり彼女にはかがりに負けたくないという意志が強く働いているのだろう。

かがりはクラスメートの声援に応えるように手を振っていた。

「いい勝負だったわ。今回はさらりが寝不足のお陰でたまたま私が勝てた。本調子だったらきっと私が負けていたはずよ。テストも同じ。本調子を出したかったらしっかりと休息も取ることね」

かがりはさらりに助言のような言葉を口にするとその場を後にする。

さらりはうざったそうにその言葉を受け止めると軽く舌打ちをして一人になれる場所を探しているようだった。

そこからクラスメートの応援をしつつ時々お手洗いや飲み物を買いに校舎に向かっていたりしていると久しぶりにさらりと二人きりになる。

「さらりちゃん…二人で話すのは久しぶりだね」

校舎の一階に設置してある自販機に向かうと近くのベンチに一人で座っているさらりに話しかけると彼女は複雑な表情を浮かべた。

「久しぶり…勉強は頑張ってる?」

「うん。今でも毎日勉強してるよ」

「そう。進路に変更はない?」

「無いよ。カグヤさんとも約束してるし、かがりちゃんとも同じ目標に向かって頑張ってるし」

「そう…私も変更はないわ。無事に同じ大学に通えたら…また普通に接してほしいわ」

「そうだね。あまり無理はしないでね」

「うん。ちなみにだけど…もう私に好意は無い?」

「今はそれに答えられないかな。お互いに受験に集中できなくなったら別れた意味ないし」

「そう…だね。じゃあ午後のリレー頑張ってね。応援してる」

「ありがとう」

自販機で飲み物を買うと僕らはその場で別れる。

グラウンドに戻るとちょうど障害物競走が行われており、白がどうにか一着を取ったところだった。

大きな拍手を送ると昼休みの時間が迫ってきていた。

競技を終えた生徒たちが友達のもとに戻っていく中、白と五月雨は僕のもとに向かってくる。

「先輩!お昼一緒にしましょ〜」

「一着取りました!見てましたか!?」

二人の言葉に応えると生徒会長として仕事に追われているかがりを探しに行く。

「ごめんね。お昼は先に食べちゃったんだ。これから追加の仕事があるから三人で食べて」

かがりは忙しなく仕事に追われているようだった。

僕らはかがりにエールを送ると日陰のベンチに向かい三人で食事を取る。

「練習の成果を出す時ですね!」

五月雨は笑顔を向けてきて白も期待の眼差しを僕に向ける。

「期待に応えられるように頑張るよ」

昼食を取りながら他愛のない会話を繰り返すと昼休みはあっという間に終了する。

そして迎えた最終種目。

全学年男女混合リレー。

何の間違いか僕は最終走者であるアンカーに選ばれていて、そのプレッシャーは普通ではなかった。

空砲と共にリレーは始まり一年から三年までの各クラスの選ばれた男女がグラウンドを走り回る。

順々に走者にバトンが渡っていき残すは最終走者だけだった。

幸運なことに僕にバトンが渡った時点で2位との差が大きなものだった。

1位でバトンを貰うと一生懸命に走り抜ける。

最終走者は二周ということで体力を温存しながら一周目を走り終える。

二週目に入った所で2位の走者が段々と近付いてきていることに気付く。

それでも余力のある僕は少しだけスピードを上げて最後のカーブを曲った。

2位に大きく追い上げられたが無事に1位でゴールをすると大きな声援が聞こえてくる。

中には黄色い声援も混じっているように感じたが、それは僕に向けてのものではないはずだ。

今しがた2位でゴールを決めた陸上部の彼に向けてのものだと理解すると僕は仲間の姿を探した。

彼女らは一つの所で固まっており僕に手を振っていた。

それに笑顔で応えると彼女らの期待に応えることが出来て一安心する。

少しだけ視線を彷徨わせると離れた所でさらりが拍手を送っていた。

それに軽く手を振るとさらりも手を振ってきた。

笑顔を向けた所で最終走者が全員走り終えてリレーは無事に終わった。

最終的に僕らの所属する組が優勝をすると体育祭は無事に終わる。

閉会式が終わり放課後がやってくると僕らは揃って帰路に就く。

「明日からまた勉強漬けね」

かがりは僕に笑顔を向ける。

「私は遠慮したいです!毎日体育祭が良い!」

五月雨が冗談のように口を開き他の女子陣は呆れているようだった。

「私達二年生は修学旅行が控えています。皆さんと一緒じゃないのが少しだけ寂しいですが…お土産を楽しみにしていてください」

白の言葉に僕らは頷く。

「それにしても五月雨さんも雪見くんも最後のリレーかっこよかったよ。五月雨さんは言うだけあるわね。ダントツで足が早かったじゃない。陸上部に誘われなかった?」

「誘われましたが丁重にお断りしました」

「勿体ないね。貴女なら良いところまでいけそうだけど…」

「良いんです。私は今を皆さんと楽しみたいので!」

その言葉に笑顔で応えると僕らは明日からの平常な学校生活に向かうのであった。

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