【配信】ダンジョンの日常(前編)
家に帰るとミィちゃんが待っていたと言わんばかりに抱きついてくる。
「八代、肉なのだ!」
「ちょっと待ってね。今用意するから」
ミィちゃんに言われるがまま生肉のパックを取り出す。
それを喜んで食べているミィちゃんを見て、昼間のカタッターのことを思い出す。
――そういえば配信前に告知をするんだよね? どうやってするのだろう?
そんなことを思いながらスマホの電源を付けると突然、通知音が鳴り続ける。
「な、何が起きたの!?」
突然の出来事にビクッとしてスマホを宙に投げてしまう。
それをキャッチするミィちゃん。
「な、なんかずっと震えてるのだ」
「困ったね。これで配信するつもりなんだけど」
「ちょっとあいつらに聞いてくるのだ!」
スマホを抱えたままミィちゃんはダンジョンへと向かって行った。
あいつらというのはダンジョンを巣にしているトカゲ君たちだ。
なぜかずっとカメラマンをしてくれている不思議と機械に強い子たち。
――そのうち専用のカメラとか用意しないといけないのかな?
そんなことを考えていたもののさすがにすぐにはお金が用意できないために延期している。
でも今回みたいにスマホがおかしくなったときのことを考えると一台買っておくほうがいいかもしれない。
「直ったのだー!」
「ありがとう、ミィちゃん。助かったよ」
「なんかカタッターの通知がとんでもないことになってたらしいのだ!」
「カタッターが? でもあれウイルスじゃないはずなのに……」
詳しいことはわからないのでカタッターのことは明日、みんなに聞いてみよう。
「これで今日も配信できるね」
「やるのだー!」
「お兄ちゃん、ティナも一緒に行くの」
「あんまり無理したらダメだよ? ティナは人前、苦手だもんね」
「うぅぅ……、確かに苦手なの。でも、なんだか気になることがあるから一緒に行きたいの」
「そこまでいうならみんな一緒に行こうか」
僕は荷物一式整えるとダンジョンへと向かっていく。
◇◇◇
「み、みなさん、は、初めまして? じゃない人も多いのかな? 柚月八代です。今日はトカゲさんたちが普段どんな風にダンジョンで暮らしているかを映したいと思います」
「映すのだー!」
「なのー……」
“待ってたよー”
“やっとライブで見られた”
“お気に入り一万人おめでとー”
“八代たん、ちょっと緊張してる?”
“同接、今日も多いな”
“頑張れー”
全員顔を出した後、カメラをゆっくりトカゲ君たちが住む家へと移してくれるカメラマントカゲ君。
優秀すぎて彼なしじゃ配信を考えられないほどだった。
「はーい、みんな。いつも通り過ごしててねー」
僕のその言葉を皮切りにトカゲ君たちはなぜかビシッと僕の前に並んでいた。
“まさかの訓練済みw”
“全員ドラゴンじゃないか!?”
“これだけの数が襲いかかってくるダンジョン……”
“いつも通りw”
“レッドドラゴンを従えてるくらいだもんな。これくらい普通か”
「いやいや、いつもこんな事しないでしょ!? いつも通りでいいからね」
不思議に思ったトカゲ君たちが今度は積み重なってタワーになる。
際どいバランスでふらつきながらも崩れる事なく一本の高いタワーになっていた。
そして、その頂上にはいつの間にかミィちゃんが登っていた。
「とっても高いのだ!」
“まさかダンジョンで芸を仕込んでるのか?”
“危な……くはないか。飛べるもんなw”
“これもいつも通り?”
“初見です”
“何してるんだ?”
“俺の知ってるダンジョンじゃない”
“安心しろ。俺も知らないw”
「あ、危ないよ、ミィちゃん。降りてきて」
「わかったのだ!」
ミィちゃんがタワーから飛び降りる。
それをなんとかキャッチしようと僕は下であたふたとしていた。
なんとか衝撃に備えようとしていたのだが、ミィちゃんは着地の寸前で羽だけ出して、数回はためかせたあと、僕の胸に飛びついてくる。
「こらっ、危ないことをしたらダメでしょ!」
「そうなの。とっても危ないの」
僕とティナの二人がミィちゃんを怒る。
すると彼女はしょんぼりと肩を落としていた。
“これを見るとミィちゃん様はドラゴンなんだなと思い出すな”
“落ち込んじゃったw”
“かわいいw”
“これも日常なのか?”
「ごめんなのだ」
「次にしたら晩御飯、お肉抜きだからね」
「そんなことをされたら私は死んでしまうのだ」
「それなら危険なことをしたらダメだね」
「善処するのだ」
“肉に釣られるドラゴン”
“肉でいいならいくらでも食べさせてあげるからうちおいで”
“お前が肉にされるやつだな”
“今来たけど、なんで怒られてるんだ?”
“ドラゴンタワー崩壊”
“うん、わからんw”
次はタワーを作っていたトカゲ君たちの方に向かう。
トカゲ君たちは肩を震わせていた。
「みんなもわかってるよね?」
笑顔で聞くとトカゲ君たちは何度も頭を上下に振っていた。
「わかってくれて嬉しいよ。こうやってみんなの晩ごはんを持ってきたのに、お野菜に変えないといけないかと思ったよ」
カバンの中からパック肉を取り出す。
“ドラゴンは肉で脅すw”
“野菜は食べないのか”
“これは日常っぽいなw”
“八代たんの目がマジだ”
もちろんそのままあげるわけではなく、別のものに変えるという脅しも効かせる。
こればかりは危険なことをさせないための躾なのだから仕方ない。
「どう? 反省してくれた?」
するとトカゲ君たちはそれぞれ反省のポーズをしていく。
――ってそんなポーズ、どこで覚えたの!? し、しかも配信中……。これ、絶対に僕が仕込んだって思われるよね?
“まさかここまで仕込んでるとはw”
“猿でも反省できるじゃなくて、ドラゴンでも反省できる、だな”
“ドラゴンってこれだけ躾けられるものなのか?”
“八代たんだからだろ?”
“ちょっとドラゴン捕まえてくる”
「ち、違うよ!? 僕が教えたんじゃないからね!? ねっ、みんな?」
トカゲ君たちに確認する。
すると、トカゲ君たちはニヤリと微笑んでいた。
「わ、わかった。わかったから。ちゃんと晩ごはんのお肉をあげるから違うって言ってよ!」
“八代たんの負けw”
“ドラゴンのほうが何枚も上手だった”
“これ、本当にダンジョンなのか?”
“ここ限定だ。探索者たちはドラゴンを見てもパック肉をあげようとするなよ”
“そんなことしてる間に食われちまうよ”
結局、みんなにパック肉を奪われながらも最後まで否定してもらうことはできなかった。
◇
「なんだか日常じゃ無くなってる気がするけど、次はティナがいた場所だよ。今は何もない横穴……あれっ?」
何もなかったはずの横穴はいくつかの葉っぱが生えていた。
「ティナ、これってもしかして……」
「みんな精霊の子なの。仲間なの」
ティナがすごく嬉しそうにしている。
“これが精霊。初めて見た……”
“ティナちゃんを見てるだろ?”
“本当に葉っぱなんだな”
“これが全部ティナちゃんに……、ゴクリ”
「それならみんな外へ連れて行ったほうがいいのかな?」
「うーん、もうちょっと様子を見たほうがいいの。表はとってもとっても怖いところなの」
「ティナがそういうならそうしようか」
「お水だけは毎日あげてほしいの」
「わかったよ。それはみんなで交代してやろうね」
“水やりは必須なんだなw”
“流石にここで突然出てきてタワー作ったりはしないかw”
“ほのぼのしてるな”
“ミィちゃん様が本当に水やりをできるのか?”
“同接二万人超えたな”
しっかり日常らしいことができて最後には満足することができた。
ただ、その瞬間にミィちゃんが僕の前に立って横穴の先に鋭い視線を向けていた。
「誰なのだ!?」
「もう忘れられてしまったのですか? あれだけ強力な魔法を使ってくれたのに」
ゆっくりとした動きで僕たちの前に姿を現したのは金色のツノを二本持ち、スーツ姿をした悪魔の男性だった。
“おい、やばくないか。こいつってユキちゃんのところに現れた悪魔だろ?”
“誰か助けに行かないと”
“でも、前にユキちゃんを助けたのって八代たんたちじゃないか?”
“なんとかなるのか?”
“誰か助けに”
“ミィちゃんたちで勝てないなら俺たちじゃもっと無理だろ”
「お前なんて知らないのだ!」
「ふふふっ、面白い冗談を言ってくれますね。そちらのお嬢さんはもちろん私のことを知ってますよね?」
お嬢さん?
後ろを見てももちろん誰もいないのでティナのことかと思い、彼女に視線を落とす。
「ティナも知らないの……」
「精霊ではないです。そちらのお嬢さんです」
「えっ、僕!?」
「はい、そうです」
「僕はお嬢さんじゃないんだけど? 男だし」
「だ、男性!? う、嘘でございますよね?」
“うんうん、よくわかる”
“俺も最初は女の子だと思ったよ”
“ワンピースとか似合いそうだよな”
“やばい状況なのになんでほのぼのしてるんだ?”
“相手のほうがかわいそうな戦力を揃えてるからだろ?”
「あと、あなたはどなたですか? 初めて会いますよね?」
悪魔の男はガックリと肩を落とす。
「八代、あいつ倒していいか?」
「もう少しだけ待ってあげて。ちょっとかわいそうに見えてきたから」
僕たちは悪魔の男が復帰するのを待つのだった。
“八代たん、優しい”
“相手に同情してしまうな”
“復帰した瞬間にワンパンされる未来が見える”
“ヤバいな。誰か助けに行ってやれ。悪魔の”
――――――――――――――――――――――――――――――――
微妙に長引いてしまったので、二話に分けました。
実は八代たちはミィちゃんが一撃で吹っ飛ばしたので悪魔さんとは会っていませんw
次回は悪魔さんが頑張ります。私も頑張ります。
おそらく次回で2話が終わる予定にはなります。
どうぞよろしくお願いします。
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