【配信】新しい仲間が増えました

 天瀬さんが帰っていった後、僕は今日も配信の準備をしていた。

 理由はティナの顔見せ。


 天瀬さんがいうには精霊は探索者に狙われやすいらしい。

 問題が起こらないように探索者組合でもここは公開してない旨は伝えることになっているが、僕が保護していることを知らせることも大事らしい。


 配信も三回目と言うこともあって僕もずいぶん慣れたものだった。



「今日はティナがメインだから僕は出なくてもいいよね?」

「お兄ちゃんも一緒なの!」



 ティナがぎゅっと僕の耳を掴んで離さない。

 結局僕も配信に出るしかなくなったようだった。



「えとえと、初めまして……。ではない人もいるといいな。柚月八代です。今日はダンジョンに新しい仲間が増えたので紹介したいと思います。どうぞ!」



“初めまして”

“始まった”

“今日は多くないか?”

“同接1000人か”

“まだ増えてるな”

“さっきユキちゃんの配信見てたんだけど、八代たんだったよな?”

“ミィちゃん、かわいく見えるけどやっぱりドラゴンなんだな”

“ユキちゃんを助けてくれてありがとう”

“新しい仲間ってユキちゃんを癒やしたあの子だよな?”

“初見です”

“ユキちゃんの配信から来ました”

“なんかすごい勢いで増えてるな”

“ユキちゃんの配信、トレンド一位だからな”

“今日のコメント早いな”



 どれだけの人が僕の配信を見てくれているのか分からずに曖昧な挨拶になってしまう。

 数人でももう一度見てくれている人がいることを信じて……。



「私はミィちゃんなのだ! 気軽にミィちゃん様と呼んでくれたら良いのだ!」



 なぜか堂々と胸を張って現れるミィちゃん。



“出た。人化ドラゴンw”

“今日もかわいいな”

“新しい仲間ってこの子なの?”

“主役の出番を奪う竜”

“ユキちゃんから来ました”

“この子がドラゴン?”



「ミィちゃんは新しくない仲間だから隅に置いておくね」

「私は隅より真ん中が良いのだ!」

「じゃあ部屋の真ん中に置いておくね」

「それならいいのだ!」



 ミィちゃんが部屋の真ん中へ向かっていく。



「それじゃあ今度こそ出てきてね」

「て、ティナはティナなの。そ、その……、木の小精霊なの……」



 僕の胸ポケットからちょっと顔を覗かせるとすぐに隠れてしまう。



“ドライアドか!?”

“またかわいい子を”

“気をつけろ!ほのぼのしてるが、ドライアドも危険だぞ”

“精霊は温厚だけど、怒らせたら容赦ないからな”

“あの子が傷を癒せる子か”

“俺も欲しいな”

“ユキちゃんを治してくれてありがとう”

“間に合った”



「まぁ、恥ずかしがり屋だから騒ぎにしないであげて欲しいな」

「私の話題をすると良いのだ!」



 こういうときにミィちゃんの存在はありがたい。

 ティナも安心した様子を見せている。



“お前ら、ミィちゃん様が話題を欲してるぞ!”

“爪ください!”

“どこに行けば会えますか?”

“スーパーに生息してるらしいぞw”

“ちょっとスーパーに行ってくる”

“本当にあのレッドドラゴンなの?そんなに怖そうに見えないけど”

“見た目は可愛いけど、威力は本物だぞ”

“ユキちゃんの配信で見たけど、あれはやばかった。防げる自信がない”



「それにしてもいざ紹介するって言われてると困っちゃうよね」

「何話すと良いの?」

「私のすごいところを話すと良いのだ!」

「ミィちゃんのすごいところ?」

「でっかいの!」



 ティナが体全身でその大きさを表現する。



“かわいい”

“かわいいw”

“持ち帰りたい”

“大きく、は見えないなw”

“人化を解いたら大きそうだよな”

“なんでロリ化するんだろう”

“まだ子供だからじゃないか?”



「僕から見たら小さいけどね」

「ちっちゃくないのだ!」

「でも、新しい仲間としてティナを紹介するのになんでミィちゃんのすごいところを話すの? 普通ならティナからじゃない?」

「はっ!? そ、そうだったのだ!」

「て、ティナは別にどこもすごくないの」

「すごいのだ! なんとティナは水だけで生きられるのだ!」



 ミィちゃんがまるで自分のことのように自信たっぷりに言う。



“植物だしなw”

“食費かからないなんて最高じゃないか!”

“俺でも育てられるかな?”

“そもそも精霊に好かれる人が稀だろ”

“どうして俺が八代たんじゃないんだ”

“やめてくれ、俺の八代たんが汚れる”

“ついに同接が10,000人に”

“初見です”

“どこまで増えるんだ?”

“人気配信者も見てるな”

“さっき明けの雫のハルトがカタッターに書いてたな”

“トップDチューバーじゃないか!?”

“流石にユキちゃんはいないな”

“八代たんはカタッターはしてないんだな”

“宣伝はしてないよな”

“今日のがある意味宣伝だなw”



「ち、ちゃんと、お日様の光もいただいてるの! とっても美味しいの!」

「肉を食べないから大きくならないのだ!」

「お、お肉食べると大きくなれるの?」

「私の体を見るといいのだ!」

「が、頑張ってお肉食べるの」

「無理しなくていいからね。ほらっ、『とっっっても美味しいお水』を飲むといいよ」

「そうなの。せっかくお兄ちゃんに買ってもらったから頂くの」



 ペットボトルのキャップを開け、それをゆっくり口へ近づけていったかと思うと、そのまま口から飲む……ことなく頭へと持っていく。


 葉っぱのところへ水を流すとティナの全身が水まみれになる。



「……」

「どうだった?」

「あんまり美味しくないの……」

「あれっ? そうなんだ」

「水道水の方が美味しいの」

「それなら代わりに肉を食べるのだ!」




“とっっっても美味しいお水が水道水に負けた!?”

“ミネラルウォーターだもんな。ミネラルってあまり植物には良くないみたいだし”

“人っぽく見えてもやっぱり植物なんだね”

“ティナちゃん、可哀想”

“水道水ならいくらでも奢ってあげるよ”

“肉推しのミィちゃん様w”

“むしろドラゴン肉食ってみたい”

“お前が食われるぞw”



 結局ペットボトルの水は僕がもらうこととなった。



「お披露目することってこんなくらいかな?」

「あとは魔法をちょっと使えるだけなの」

「魔法!? あのときにも使ってたやつだよね?」

「そうなの。ティナは木を司るから自然に関する魔法なら使えるの」



 ティナが実際に地面に触れるとそこには草花が生い茂っていた。



“これがユキちゃんを救ったっていう魔法か!”

“一瞬で緑化なんて争奪戦起こらないか?”

“欲しがる人は多そう”

“一瞬で植物を生やせて、なおかつ人の傷も癒せる。ある意味ミィちゃんよりやばいぞ”

“様を忘れてるぞw”



「ふわぁぁぁ……。魔法を使ったら眠くなってしまったの」

「そっか……。もう夜だもんね。それじゃあそろそろ配信を終わろっか」

「はい……なの」

「ちょ、ちょっと待つのだ! ま、まだこれから私の大魔法をお披露目するところなのだ!」

「ミィちゃんの魔法は壁を壊すからダメ」

「も、もう壊さないのだ」



 ミィちゃんはしょんぼりしていたので最後にダンジョンの壁を大破しない程度の魔法を一度使うことだけは許可してあげるのだった。



「ありがとうなのだ!」



 ドゴォォォォォォン!!



 ミィちゃんはダンジョンの奥の方をめがけて魔法を放つのだった――。



“〆はやっぱり爆発かwww”

“相変わらずほのぼのしてるのにやばい情報しかないな”

“間に合わなかった……”

“ユキちゃん、わざわざ見に来たんだ。ドンマイ”

“結局同接は2万越えか”

“人気配信者でもなかなか出ない数字じゃないか!?”

“次の配信はいつかな?”



 ユキのトレンド入りの効果も相待って、視聴者もとんでもない数字になっていたのだが、そのことに僕は一切気づかず、畑にティナを植えて寝かせた後、ミィちゃんと二人、早めに寝るのだった。

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