第三十四話:街の基礎作り
「ふーはっはァ! ヒルムガルド一帯は水資源に富んでいる! うむ、実に素晴らしい。当然ではあるが昔ここに街が築かれたということは相応の理由があるというもの。水資源の豊富さもその要因の一員であると推察する。農業関連、生活関連と水は人の生活とは切り離せないもの……とはいえ、この数十年で色々と変わったのか? 古い資料ではあるが記録よりも河が――ファーヴニルゥ、ちょっと河の流れを変えておいてくれ」
「わかったよ、マスター」
「具体的にはここらへんに河が流れるように」
「ふむふむ」
「いや、いっそこの段階で上下水道網を築いてしまうか? 俺様たちだけなのだから好きにやっても……どうせ後に」
「元気になーれ。元気になーれ。≪
「ねえ、マスター。僕、お風呂に入りたい。おっきいの!」
「……そうだよなー、やっぱり必要だよな。よーし、上下水道設備の整備までやっちゃうかー! だが、一番風呂は俺様である!」
「ひきょーじゃん、兄貴! 私だって頑張ったんだぞ!」
無い無い尽くしの新領地ではあったが、ディアルドたちは割と楽しんで開拓作業を行っていた。
「それにしても凄い勢いで進んでいくなー。正直、最初は形になるまで年単位はかかると思っていたのにもう畑も出来ているとか……」
「ふーはっはァ! まあ、大体ファーヴニルゥのお陰だな。土木作業でこれほど役に立つとは。力が有り余っていたのか我慢をさせ過ぎていたのか……? いい息抜きにはなっているか」
「確かにファーヴニルゥも凄いけど兄貴の魔法も凄いよ」
「当然だ、俺様は天才だぞ?」
「ああ、うん。その称賛を真正面から受け止めるところ兄貴らしいというか……まあ、それはともかく。≪
昼の休憩時間に入りディアルドに話しかけてきたルベリは、畑や道路の舗装作業を行っている
「
「ふーはっはァ! 馬鹿め! ルベリはまずは魔導書にあった「イーゼルの魔法」を習得するのが先だ!」
「うっ、そりゃそうなんだけどさ」
「異なる魔法体系を覚えるのは難しいのだ。混ざり合って下手をするとどちらも中途半端な習得しかできなくなる」
古式魔法である「イーゼルの魔法」とセレスタイト式の魔法である≪
要するに全く異なる言語を同時に学ぶようなもので非常に難しいのだ。
まだまだ魔導士としてはビギナーなルベリが手を出していいものではない。
「そういうもんなのか?」
「まあ、な。だから基本的に魔法体系というのは一つのモノを極めていくのが基本だ。二つ、三つの魔法体系を習得するなど無駄な労力だからな。そして、一つのモノを極めていくとなるとやはりセレスタイト式の魔法を極めるのが効率的だからな……そこら辺が古式魔法体系が廃れていった要因だ」
「よくわからないんだけどさ、ワーベライト様も言っていたけど「イーゼルの魔法」ってのはだいぶ特殊な魔法なんだろう? なら古式魔法体系だって捨てたもんじゃないと思うんだけど」
「その認識は正しい。確かに今も現存する古式魔法体系というのは特定の分野においてセレスタイト式の魔法を上回っているのも確かだ。だが、万能性においてはセレスタイト式が圧倒的に勝っているんだ」
例えば仮に火属性の魔法が得意な古式魔法体系があるとしよう、その古式魔法は火属性魔法の分野においてはセレスタイト式をも上回るがそれに特化しているため、それ以外の魔法がほとんど使うことが出来ない。
その点、セレスタイト式は数多くの体系を取り込み合理化を進めた魔法体系であり火属性の魔法だけでなく、他の属性魔法や無属性魔法なども網羅し自由度の高い魔法体系といえた。
「無論、才能やセンスでどこまで習得できるかは人それぞれではあるがな。それでもセレスタイト式の魔法がとても洗練され、完成度の高い魔法体系であるのには変わらない。だから、特化寄りの古式魔法体系は廃れていったのだ」
「そっか、鍛錬を積めば色々な魔法が使える魔法体系の方が確かにいいか」
「ああ、変に古式魔法体系に手を出すよりもその分の労力をセレスタイト式の魔法の習得に費やした方がよほど有意義だからな」
「なるほど……あれ、でも兄貴は古式魔法も使えるだろ? 私に見せてくれたし」
ディアルドの話をふむふむと頷きながら聞いていたルベリがそう問いかけてきた。
彼女が言っているのは「イーゼルの魔法」を覚える際に、彼が魔法を実演した時のことだろう。
確かにディアルドはセレスタイト式の魔法のみならず、古式魔法も当然のように使えていた。
その理由は――
「はーはっはァ! それは俺様が天才だからだァ! 悪いな!」
というわけではなく、彼の『翻訳』の力に種があった。
ディアルドは文字や言語を訳し理解し、そして新たに訳し直して文字や言語に変えることが出来る。
それは一般的な言語や文字だけではなく魔法文字すらも同じこと。
彼にとってセレスタイト式の魔法術式も古式魔法術式も大差なく理解できるものであった。
「ええぇ……てか、理由になってないし」
「まっ、そこら辺はおいおいとだな。そういうことだから≪
「ちぇー」
ディアルドの言葉に少しだけつまらなそうな顔をしたものの、ルベリは気を取り直したかのように話を続けた。
「でも、さー。便利だよなー、やっぱ魔法って。こんなに凄い勢いで整っていくだもん。ちょっと前まではただの廃墟だったってのに。魔法ってすごいんだな。貴族の連中が偉そうにしていた理由がわかるよ」
「まあ、魔法無しでやろうと思ったらそれこそ年単位だろうからな」
「ファーヴニルゥは色々と例外だとしても、
「最下級でも大人以上の力の発揮できるからな。それが魔力の続く限り、休みなく動けるというのであれば……」
それは最高の労働力と言っても過言ではない。
さしずめ、≪
とはいえ、
「まあ、貴族には人気のない魔法なのだがな」
「そうなの? 便利じゃん」
「そもそも労働力が必要なら平民を働かせればいいというのが基本的な貴族の考え方だからなぁ」
更に言えばこの世界、というよりもこの国――ドルアーガ王国における魔法という存在の立ち位置の問題でもあった。
(この世界において魔導士というのはその存在自体が「武力」そのものだからな……)
魔法という力はとにかく強大で、この世界において魔導士の数が国の力へと変わる。
敵性国家に対する抑止力でもあり、危険なモンスターたちを倒す重要な戦力なのだ、だからこそ貴族たちはともかく戦闘能力を重視する傾向があった。
より敵を効率的に倒す魔法、強力な威力な魔法、見栄えがあればなお良し。
それが一般的な貴族の魔法に対する認識だったりする。
その観点から言えば≪
「そうなのか?」
「簡単な動作なら特に問題はないが複雑な行動、素早い行動ととなると途端に難易度が跳ね上がるのだ。数を作ったり、元となる物質を変えて金属製の
よほどの熟練者か鈍い相手でもない限り、精々が肉壁ぐらいにする用途しかないのが≪
故に貴族連中には好まれてはいない。
「というよりも土属性の魔法自体が泥臭いとかあまり好まれていないな。人気なのは火、水、雷辺りの属性だな見た目にも派手だし……」
「そういうのあるんだ」
「見栄を張ることこそ貴族の生きがいというやつだ。わからんではない。個人的には便利なものはガンガン使ってしまえとも思うのだがな」
舐められたら終わりなのが貴族という生き物だ。
彼らにとって貴族という地位は特別で、それを担保する魔法という存在もとても神聖視する傾向にある。
ルベリは便利であると称したが、労働力の代替としての評価など貴族共からすれば侮辱に等しい言葉だろう。
(言ってみれば平民がやることを魔法でやらせているわけだからな……)
恐らく、この光景を真っ当な貴族の人間に見せれば眉を顰めるか怒り出すか……どちらにしろいい反応をすることはないだろう。
ここが人里離れた場所だから出来る裏ワザと言ってもいい。
(知られたら顰蹙を買うだろうからなぁ……)
別に顰蹙ぐらい買ったところでディアルドは気にするタマでないが、それでも買わないなら越したことはない。
貴族的にはタブーな手段だろうと領地に居る人間がただの三人しかないなんちゃって領地、誰の目を気にすることなく物事を進めることが出来るというものだ。
「さて、そろそろ休憩も終えるとするか。それにしてもファーヴニルゥはどこまで行ったんだ? 確か周囲の生態調査に行ってくると言ってたけど……」
「生態調査というか金になるモンスター探しだよな?」
「あいつ真面目だからな、解体が上手くなったことを褒めたら買値の高いモンスター素材のことを自主的に調べたり、綺麗な解体方法の指南書とかをどこから購入して来たり……」
「……言い含めておいた方がいいんじゃない?」
「――流石に駆逐してしまうのは不味いからな、うん」
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