第三十三話:農作業
ルベリに与えられた領地は主に当時旧ベルリ伯爵家が治めていた場所の奪われてしまった部分全てである。
その領地の大きさは凄まじく名門であるベルリの家系にふさわしき規模であるのは間違いない。
実態を考慮しなければの話だが……。
「ヒルムガルド一帯をそのままくれるとは……なかなかに豪快なことだ。元老院のカビの生えたジジババも偶には気を利かすらしい」
「そりゃ、まあ何もないからなー」
「まあ、何十年も前に奪われてそれっきりだもんね」
はっきり言ってぽっと出の小娘相手に与えるには過ぎ足るほどの領地。
いくら、
それには当然理由があった。
端的に言ってしまえば何もないからだ。
かつては栄華を誇った時期もあったが
「領地なんて名ばかり場所だからなぁ」
「ふーはっはァ! 自然豊かと言えば聞こえはいいが昔はあったとされる道さえもなくなっている場所なのだ。
ルベリの言葉をディアルドは肯定した。
だからこそ、あっさりと領地が貰えたのだと彼にはわかっていた。
「恩賞として給付された財宝がいろいろと割り増しされてたのもそのあたりであろうな……どうせ。これを開拓資金にしろということだろう。融通を利かせてやったのだからあとは自分でどうにかしろと、な」
「あー、つまりは。国の補助とかを求めてもダメな感じなのか?」
「まあ、無理であろうな。「自分たちでやれ」と返されるのがオチであろう。特に今の時期は支出に関しては厳しいだろうが」
「まじかよ、ってことはやっぱり三人でやるしかないの? 領地の再建って?」
「そこら辺は話したであろう? なーに、上からの介入が無いということは好き勝手にできるということだ。幸い、ここは人里から離れているしな」
「うわっ、悪い顔をしている」
「くはははっ! どうせ行き詰ってきた辺りで口を挟んできて融資という名の借金と引き換えに抑えるつもりだったのだろうが……手段を選ばなければやりようはいくらでもあるというものだ」
ディアルドが不穏なセリフを呟くと同時にファーヴニルゥへと視線を移した。
「今日も頼んだぞ、ファーヴニルゥ! 俺様の従者である貴様の力を見せる時だ」
「任せてマスター。僕はさいきょーだからね! わーはっはァ!」
「あんなことやってるのに慣れてきた自分が怖い」
◆
「わーはっはァ! 全て消し飛んじゃえー!」
ファーヴニルゥの元気な言葉と一緒に放たれた魔法――いや、もはや魔法と言っていいものなのかもわからない都市殲滅級魔法術式によって旧ヒルムガルド跡地はきれいさっぱり吹き飛んだ。
歴史を感じさせる建物の残骸とかいろいろあったが全てさっぱりに消し飛ばされた。
「うーん、この豪快過ぎるほどの整地……いや、整地からコレ?」
「かつての街の残骸、至る所から生えた植物やらモンスターの巣やら……ええい、面倒だ! まとめて消し去ってしまいたい――そんなときのための一家に一台、決戦用魔法搭載の生体兵器ファーヴニルゥ! ふっ、いやー、快適快適。凄い勢いで焼け野原が出てきていくなぁ」
「はははー、凄い勢いで火柱が立ってる! 傍目から見ると天変地異か何かだよ……魔法ってあんなのできるの!?」
「既存の魔法だと難しいのではないか? というか魔力が持たないというか……それにしてもなんだかんだファーヴニルゥの力の確認をしてなかったから、この際その片鱗でも見せてもらおうと頼んだが……やる気満々すぎて俺様びっくり」
「頼られたと思ったんだろうなー。だから張り切っちゃってんだよ。兄貴……しっかりしてよね?! ファーヴニルゥの手綱を握ってるの兄貴なんだからね??」
笑いながらかつての街の名残のあったヒルムガルドを焼き払うファーヴニルゥの姿を眺めながらルベリは言った。
冗談でちょっとディアルドがちょっとどっかを攻撃して来いと言ったら、これぐらいの被害はあっさり出せてしまうのだから心配になるのも仕方ない。
「うん、天才である俺様もちょっと迂闊でああったことを反省。苦い野菜を残す癖にやはり危険ではあるのだな……まあ、それはそれとして俺様たちも進めるぞルベリ」
「あいよ、兄貴」
ディアルドはルベリにそう語り掛け二人は動き始めた。
ルベリが正式に領地を賜ってから今日でおおよそ三週間ほど。
ディアルドたちは生活の拠点をこの新ベルリ領へと移しつつ、開拓作業に従事していた。
なにせ領地とは名ばかりの土地。
まずは体裁を整える程度には整備する必要があった。
仮初の領地、仮初の子爵という貴族位で満足ができるほどディアルドの欲は浅くはない。
どうせ荒れ果てた領地だからと貰った領地、見事に立て直してやろうという気概があった。
とはいえ、本来は開拓作業なんていうのは一苦労の作業だ。
一度は人の手が離れモンスターたちの縄張にもなっているのだから難易度は更に高い。
仮に真っ当な手段で瓦礫をどかしたり、木々を排除したりしていたら時間がいくらあっても終わらない。
なので手っ取り早くファーヴニルゥが消し飛ばします。
これによって除去のための手間が抑えられ、更には
そして、ファーヴニルゥが消し飛ばし更地となった土地ですぐ様にディアルドが魔法を発動させた。
「≪
ディアルドが魔法を発動させると大地が隆起したかと思ったらそこには土で出来た人形が作り上げられた。
というかまあ、明らかに人型ではないトラクターみたいな
≪
ディアルドは彼らを整列させた。
「ここら辺は畑にするんだっけ?」
「領地内での食料の生産は大事だからな。種類もそれなりに欲しいところだな。次は≪
≪
無属性魔法で上級魔法とされている物質の解析を行える魔法、その魔法によって土壌の状態を吟味する。
「これなら問題はないか。ルベリ頼む」
「あいよ。それじゃあ――」
ディアルドに促され、ルベリは「イーゼルの魔法」を使用した。
「イーゼルの魔法」は時への干渉魔法、それは「戻す」ことと同じく、「進める」ことも難しくはない。
金に飽かせて購入した肥料をばら撒くと一帯を対象としたルベリの魔法によって土壌の状態は加速する。
「ふーはっはァ! 出陣だぁ!」
ディアルドの言葉と一緒に
「
「おう!」
そんな感じで彼らは領地の開拓作業を進めていた。
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