夏の朝

久石あまね

第1話 学校行くの嫌やで

 梅雨の時期なのに、なぜか青い空が広がる気まぐれな晴れの日。


 朝、中学二年生の女のコ、二階堂あまねは朝食を食べていた。目玉焼きにベーコン、マーガリンをぬった五枚切りの食パン。両親はすでに仕事に行っていて、家にはいない。小学六年生の弟の達也は朝の校庭でサッカーをするために早くに家を出た。達也はサッカーに夢中なのだ。それなりに上手いらしい。達也はあまねと違って前向きで活発なところがある。たまに調子にのるところが玉に瑕だが。


 「はよ食べな学校遅刻してまうでな」

  

 あまねは独りごちる。


 テレビの女子アナが大阪の今日の天気を伝えていた。晴のち雨。夕方から警報級の大雨が降るそうだ。


 あまねは朝食を食べ終えると、化粧台の前で、ダボダボのパジャマからセーラー服に着替えた。Make up! あまねはセーラームーンの変身のポーズをした。鏡の前の自分はセーラームーンの主人公とは違ってブサイクで地味な女のコだった。


 「なんであたしこんなブサイクに生まれてきたんや」


 あまねはナメクジのような目で、鏡に写っている自分を睨んだ。


 こんなことしてる場合ではない。早く学校に行かないと…。遅刻してしまう。遅刻したら、熱血体育教師のおとこ大村にまた怒鳴られる。漢大村はあだ名である。大村は熱血漢で頭はスポーツ刈りで、スーツの下の大胸筋が鋼のように盛り上がっていて、ゴツい腕は筋肉の境目に血管が浮き上がっている。漢大村に首を絞められたら、あまねは一瞬で死ぬだろう。遅刻常習犯のあまねは、よく漢大村に怒鳴られていた。しかしあまねは遅刻グセを改善しようとはあまり思わなかった。


 あまねは重い足取りで玄関を開けた。


 学校嫌やな。


 あまねの心はズキズキと悲鳴をあげていた。でもあまねは自分の心の悲鳴を無視した。


 あまねは学校で、自分の容姿を、他の生徒たちによくからかわれていたのだった。


 だからあまねは学校に行くのが嫌なのだ。

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