建前という言葉すら馬鹿は知らないのでしょうね

「なんの騒ぎだ!」

「これは……。どういうことか説明してくれるか、クイーンリゼット嬢」

「リカーシャ! 大丈夫」

 傍に控えさせていたのか何なのか知りませんが、ぞろぞろ良くこれますこと。そして、三人とも見事に攻略されてやがりますこと。これだから単純共は。

 どうやら発言からヒロインを別の世界からやってきたようですし、落としていくのなんて簡単だったのでしょうね。

 一応説明しますと上から教師、宰相の息子、魔法使いです。

 ちなみにリカーシャはヒロインの名前ですね。

 さすが攻略対象達といいますか、並ぶと圧巻。……無駄にきらきらしておりますわね。

(お前のんきにしているがいいのかこの状況やばいんじゃ)

 こんな状況どうとでもなりますわよ。

(どうとでもなるってこの状況)

 ええ、私を悪者にしたてあげようとしておりますわね。

「リカーシャ、その傷はどうしたんだ」

「ちょっと待ってすぐ直すから」

 おお。わらわらわらわら。みんなリカーシャの元に行きますのね。

 私ここにいる者達の中で誰より位が高いのですが、誰一人として私に声をかけてこないのはどういうことですか? ヒロインが怪我人だと言えどこちらに声をかけてくるのが当然でしょう。

 私も何かに巻き込まれているかもしれませんのに……。

 どころか殺気の滲んだ目で睨んできて恋に狂った男達ですわね。そしてそれを手玉にとるヒロイン。

「これで大丈夫だよ、リカーシャ」

「ありがとう。もう痛くないわ」

「何があったんだ」

「それは……」

 よくあんなに強く叩けるなと思いましたけど、魔法使いなら治してくれると計算していたからなのですね。そして目を泳がして口を閉ざし何も言わないとはあざといこと。

 それでも勝手にバカ共は想像してくださいますものね。

 本当バカなのですから。

 ほらほら。とても嫌な目で睨んできますこと。

「貴様のしわざか!クイーンリゼット。何があってこんなことをした!!」

「リカーシャを叩くなんて許さねぇ」

 ああ、宰相の息子ともあろうものが熱くなって。自分でも次の宰相は俺だ何て言っているくせに。父上がお嘆きになりましてよ。魔法使いは魔法使いって感じ。

 常識というものを知らないのですね。全く。

(そんな話している暇があるなら何か言わないのか。向こうだって?)

「何故何も言わない! 自分が悪いと分かっているからか。こんなこといくらアイラッシュ家のご令嬢といえど許されんぞ」

 言わないのではなく言えないのですわ。先程掛けられた魔法は口まで動かなくなるものですから。

(は?)

 やりますわよね。この状況で私が何を言わなければ周りも全員、私を犯人と思って私の評判がガタ落ちですわ。

(のんきだな)

 まあ、ですわね

「何か言ったらどうだ。口が言えないわけでもないだろうに!)

 にしても宰相の息子は自分の立ち場を少しは考えたらどうなのかしら。こんな大っぴらの場所で私を罵倒できる立場なのかしら。決定的な現場を見たわけでもないでしょうに。

 そこの所、先生は大人というのかしら。

 何も言ってきませんね。でもヒロインを抱きしめている時点でアウトですが。恋は盲目。みんな恋に可笑しくなってますわ。

 こんなのでは私が何もしなくても自滅してしまいそうですわ。

 ほらほら見てくださいね。ヒロインなんて先生の腕に隠れながらとんでもなく悪女らしい顔をしてますわ。

(·······そうだな)

 あら、どうかしましたか? 元気ないですわよ。

(いや……。ああ、言う女は少し嫌いだなと思って)

 あら、そうです? 私したたかなのも嫌いではないのですけど。

 余裕なのは、まあ、あれですわ。体は拘束されてますけれど、これくらいの魔法なら私いつでもとけますもの。

 ほら

(は)

「言わないのではなく、言えなかっただけですわ」

 私を誰だと思っていて将来的にはラスボスにまでなる白髪のゴリラことクイーンリゼット・ゴリラッシュですことよ。

 第一部のヒロインごときに負けるはずありませんの。

 まぁ、私の髪は白髪でなくて虹色なのですけど

「あまりにも呆れてしまったものですから」

 ばさぁ〜〜

「ひい」

(はああ)

 見ましたか。ヒロインのあの怯えきった声。顔が青ざめておりますことよ、それにあわせて睨みつつもどよめいている奴らが滑稽ですこと

 (いや、まてまて、こっけいなのは分かるが、そもそも虹色ってどういうことだ。そんな珍妙な色だなんて聞いてないし、見える範囲白だろう)

 見える範囲はですわ。

 虹色はあまりに派手なので普段は白髪に見えるよう色付きはすべて内側に隠してありますの。

 そしてこの色づいた髪は魔力の証。一色一色に違う属性の魔力をこめてありますのでいざという時はこれを武器にも使用できますのよ。

 素晴らしいでしょう。おっほほほ!

 これは続編で悪役として再登場する時についてくる設定ですから知るものなんて殆どおらずみんな奇抜な髪色に呆けるだけですが、唯一ヒロインは見せびらかせば見せびらかすほど怯えた顔をするので楽しいですわね。

 ゴリラに喧嘩を売るからこんなことになるのですわ♪

(なるほどお前が余裕なのはよく分かった。けど動けるようになってそれでなんとなるのか)

 大丈夫ですことよ。口さえ動けばこちらのもの。ヒロインは私を悪者にしたくとも、自分から直接は嫌なようですから。

 まあ、か弱くて優しい女の子を演じたいのなら当然ですよね。

「貴方が見たのは悲鳴をあげて頬を怪我したリカーシャさんの姿とその傍にいる私の姿でしょう。ここが他に逃げ場もない場所ならともかくいくらでも逃げていくことのできるこの場で真っ先に駆けつけたからと私のせいにされたらそりゃあ呆れてしまいますよ。

 一番怪しく見えてしまうのは確かですが、だからといってこんな場所で糾弾していいと思いますの

 リカーシャさん。頬の傷がたいしたことはなく良かったですわ。でもやった人が見つからないならしばらくは一人ではいない方がいいかもしれませんわ。気にしてくれる方はいるようですし、彼らといるといいですわね

 では始業時間になりますので私はこれで。みなさまも教室に行った方がいいですわよ」

 コツコツってわざとらしく音を立てて去ってやります。ぽかって口を開ける姿は間抜けでちょっと気分がよくなるのですわよ。

(……あんなのでいいのか。もしお前がやったって言われたら)

 大丈夫ですわよ。何せ魔法を破り、この器を見せつけましたから、私に余計なことしかけてもやり返されることだけと分かったことでしょう。

 今回のことに関してはこれ以上何かを仕掛けたりはしないはずでしたよ。 

 でも三人は納得しないでしょうが。それこそ後々都合よく使えそうで嬉しいことですわね。

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