第9話 続く勉強会

 帰路の途中、スマホに幾度となく通知が飛んできていた。

 速人はやと神戸かんべさんが息を合わせて茶化しているのだろうと勝手に予想して確認していない。


 ……それにしてもしつこい。

 さっきよりも通知が届く間隔が早くなっている気がする。そこまで息が合うとか前世でも仲良かったんじゃないか?


 駈はあまりに長い間鳴り止まぬ通知に不満を覚えながらも確認してすると、目を見開いた。

 メッセージの送っていたのは小春結花こはる ゆいかで、すでに通知数はカンストしていた。


 突然の出来事にたじろいでいたが、その間も通知が止まることはなかった。意を決してトーク画面を開いて『どうした?』とそっけない言葉を送信した。もちろん既読はすぐされたが、メッセージが飛んでくることなく数秒の沈黙が続いた。何もないならと冷静さを取り戻していた駈がスマホをしまおうとした。


 制服のポケットに入れた瞬間スマホが振動した。すぐさまスマホを取り出し確認した。


『三橋さんが気づくまでにどれだけスタンプを送れるかゲームしてました』


 狐が腕を組みながらドヤ顔をしているスタンプを添えられていたそのメッセージを見て、なぜそんなことしようと思ったのか理解できずにいると、また続けてメッセージが届いた。


『今日何してたんですか、既読無視するなんてひどいですよ』


(……既読無視?)


 唐突に送られた単語に首を傾げがらも、その原因を思い出した。


 彩夏さやかが『メッセ飛んできてる』と言った時に画面が開かれていたのだ。当時あまりに動揺していた駈は返信する選択肢が頭になく、奪うや否や画面を閉じていた。


『友達の家で勉強してて、その友達が勝手に開いていたみたい、ごめん』


 速人たちに面白おかしく言われたことは伏せて、ありのままを伝えた。これと同時に駈は、このようなことが起きないように次からはずっとポケットの中にスマホを入れておこうと心の中で誓った。


『勉強してたんですか! それはお疲れ様です!』


 労いの言葉と狐が応援しているスタンプをもらい、唐突に嬉しくなって口元が緩んでしまった。

 結花との会話で時間を忘れていた。いつの間にか駈は家の玄関に着いており、扉を開けていた。


「おにいおか――――なんか笑ってるんだけどキモイ!!」


 早苗さなえが扉の音を聞いてリビングから飛び出してきたが、駈の姿を見てそう言い放った。しかし駈はそんなことに気にも留めず靴を脱いでいた。その間早苗は蔑むかのように細い目で駈を見ていた。


「ただいまー。……どうした早苗?」


「い、いや何でもないよ! ちょっとキモかっただけ!」


 早苗は急いでリビングに戻り、勢いよく扉を閉めた。その様子を見ていた駈は緩めていた口元を戻し呆気に取られていた。


 駈は自室に入りベッドに倒れた。速人たちに結花のことを知られてしまったのはこの際どうでもよくて、何でもない日に来るメッセージが優しくて、嬉しかった。明日からからかわれても適当にあしらおう。


 不意にポケットから振動が伝わってきた。


『そういえば結花ちゃんって同じ学校の人?』


『もう黙れよ!!』


 送り主は速人だった。反射的に返信し、今度こそスマホをぶん投げた。



 ◇◇◇



「なあ駈ー、返事してくれよー」


 速人は不機嫌そうな駈を見て少し寂しげに声をかけた。昨日と同じく速人の家で勉強会を開いていたのだが、駈は昨日のことが不満なのか口を開くことなく一人シャーペンを動かしていた。


「昨日はやりすぎたと思ってるよ、謝る」


「うちも謝る、ごめん!」


 勉強会のメンバーは昨日と同じで彩夏も参加していた。謝罪する二人を見て申し訳なくなったのか駈は口を開く。


「……いいけど、学校でこの話題出すのは絶対にナシな。あとふざけた質問もなし」


「ありがとう! ……じゃあ早速気になることあるんだけど聞いていいか?」


 いや学校で話すのは嫌だから否定したけど、ふざけた質問なら容赦しない。そう思いながらも首を縦に振り質問を聞く姿勢になった。


「結花ちゃんは同じ学校の人なの?」


「あ、それ気になってた! てか速人が昨日聞いてなかった?」


「あーそういや昨日ふざけた質問来たなって思ってスマホぶん投げたから答えてないわ」


「いや投げるほど変ではないだろ! ……んでどうなんだよ」


 鋭い突っ込みを入れながらも気になるのか駈の目を見ながら答えを待っている速人にたじろいだ。


「……同じ学校じゃないし、一つ下の後輩、らしい」


「ええ!? 駈が他校で、しかも年下と交流!?」


 駈の言葉を聞いて目を見開きながら大声でそう言った。彩夏とは言うと何が珍しいのかわからず、きょとんとしていた。


「まあそんな感じ……はい! とりあえずこの話は終わりな」


「えーまだ聞きたいことあるのにー」


 駈は遊び足りない子供のように不貞腐れる速人に大きく息をつき言葉を続ける。


「本当になんもないから、こういう浮ついたのは相手にも失礼だし……」


「別に気にすることないだろー」


 速人は何も教えてくれない駈のよそよそしい態度が気に入らないのか、コップに張っていたお茶を勢いよく飲み干し手を後ろにつけた。


「……駈ってさ、昔からあんまし自分のこと言ってくれないよな」


「…………」


 その言葉を聞いた駈は思わず黙ってしまい、顔を俯かせていた。

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