第8話 危険な組み合わせ

 三人は足並みを揃えて速人はやとの家に向かった。


「そういや何で勉強会なんてすんだ?」


 ふと疑問に思ったのか、彩夏さやかは首を傾げ得ながら問いを投げかけた。


「駈にわからないとこあるから聞きたくて。学校でもいいんだけど落ち着いたとこでやりたくて」


 速人は口元を緩めながら恥ずかしそうに言った。速人の『わからないとこ』というのはスマホを気にしていた駈のことも含まれているのだろう。駈は一人うんざりした表情を浮かべ、大きく息を吐いた。


「どうした駈、そんなに頼られるの嫌なのか?」


「そういうわけじゃないんだけど……」


 何か言いたげな態度を取っている駈に対し、再度首を傾げていた。それを見ていた速人は腹が立ってくるほどわかりやすく肩を震わせ笑っていた。本当に最悪だ……何も起きないといいけど……


 そんな願いも虚しく、その時は来た。


「――よーし終わったー! ほんと駈教えるの上手うまくて助かる―」


 程なくして目的地に着いた三人は勉強を進めていた。要領がいい速人は教えてもらった内容をすぐ自分のものにし、順調に問題を解決をしていった。……その時間わずか数分。


「じゃあ本題に入るか。駈、君のスマホを渡してくれ」


「嫌だよ!」


 駈は即答した。速人はその様子に少したじろいだが、負けじと言葉を続ける。


「じゃあ見せなくて、俺に教えてた時にスマホを気にしていた理由教えてくれよ」


「えぇ……なんもないって……」


 急に真剣な眼差しで見つめてくる速人を薄目で見ながら言葉を濁した。言ったら言ったで、からかわれ続けるとわかっているので極力言いたくない。沈黙を貫こうとしている駈に対し、彩夏はスマホの画面を見ていた。


「『結花ゆいか』って人からメッセ飛んできてるみたいだけどいいのか?」


「何で見ちゃってるの!?」


 駈は彩夏の手から無理やりスマホを取り上げて、驚きと焦りが混ざった感情を覚えた駈の顔は赤らんでいった。今までに見たことのない顔をしていた駈に二人は驚いていたが、面白半分で話を続けた。


「あー駈にもついに彼女できちゃったか―」


「彼女なのか!?」


「違うわ!!」


 ふざけたことばかり言う速人に対し、真面目に速人の言うことを真に受ける彩夏。この二人を掛け合わせたら面倒なことが起きるのは承知の上だったが、実際に体験すると手が付けられない。


 二人の喜々とした表情を見た駈は、大きく息をついてから言葉を続ける。


「彼女じゃないし、そういうのは一切ないから」


「ふーん、怪しいな」


「うんうん、怪しすぎるな」


「な、なんだよ。本当に何もないって……」


 二人から感じる疑いの眼差しに駈は圧倒され、声が小さくなっていった。


「何もないなら隠すことないだろー」


「そうだそうだー!」


 なんなんだこの二人の協調性の高さは……

 普段浮ついた話をしないからか異様にテンションが高い速人と彩夏の息の合ったコンビネーションに言葉が出なかった。


「まぁそんな言いたくないなら聞かないさ」


「そりゃどうも」


「あ、でも彼女になったら教えろよ。祝うから!」


「あーもう! 勉強会なんだから勉強するぞ! はいこの話は終わり!」


 とんとん拍子に投げかけられる言葉は駈を動揺させていった。


 焦燥感に押しつぶされそうになった駈は話を無理やり終わらせ、一人勉強を再開させた。その様子を見た二人はしばらく笑っていたが、根は真面目なのですぐ勉強に戻っていった。



◇◇◇



「あー疲れた、そろそろお開きにするか」


 腕を上に伸ばしながら速人は口を開いた。空はいつの間にかオレンジ色に染まり、帰路についているのであろう鳥たちが見られた。それぞれ帰る準備を済ませ、速人の家を後にした。


「たまにはこういうのもいいな、駈の面白いところも見れたし」


「確かに! 意外な一面ってやつだな!」


「あれは勝手に面白がってただけだろ……」


 二人の言葉に呆れた表情を浮かべながら、ため息をつく。勉強を再開した後も休憩を口実に質問を投げかけてきたので、その度に駈は適当にあしらっていた。


「じゃあ、また明日な」


 速人が別れの挨拶を告げ、それぞれ挨拶を返し解散した。

 駈は気を緩めたからか、疲労が急に押し寄せてきた。勉強以外が主な原因な気もするが……。


 しかし退屈な日々送っていた駈にとって今日は刺激的な日であった。浮ついた話をしてこなかったので新鮮味を感じていたのだ。それと同時に興味を持った人間の執拗さも学び、大変な日だったと振り返った。


 すると、スマホから振動が伝わってきた。


『駈の恋路を応援する作っといたよ!』


 送り主は速人で、そのメッセージを見た瞬間スマホをぶん投げそうになった。『グループ』という単語が引っ掛かり、メンバーを確認すると彩夏も入っていた。


 今日みたいなのはもう懲り懲りだと呆れながらも渋々受け入れ、どこか嬉しさも感じていた。

『余計なお世話だ』と返し、帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る