第17話 守りたい
不審者を捕まえた後、部屋に戻ってきたユースは、すでに寝息を立てて寝ているカロンを見て静かにため息をついた。
ゆっくりと音をたてないようにしてカロンの寝ているベッドのそばまで歩き、近くにあった椅子にそっと腰をかける。そして、カロンの寝顔をじっと見つめた。明るいブラウンの髪の毛は、窓から漏れる月の光に照らされてキラキラと輝いている。エメラルドのような美しい色の瞳は閉じられ、いつも可愛らしい声を放つ口からは、すーすーと静かに寝息が聞こえてきた。
(これだけ可愛ければ、店の外でもファンのような人間ができるのは当然か)
だが、カロンは可愛いだけではない。ユースと出会う前までは鉱石花を採るために、たった一人で危ない道を辿り採掘場で採掘して来た。前店主が亡くなってからは、まだ若いのにたった一人で店を守るために切り盛りしてきたのだ。
布団から少しはみ出ている白く細い手足で幾度となく困難に立ち向かい、乗り越えてきたのだろう。辛いことも苦しいこともあっただろうに、自分は恵まれているし幸せ者なのだと笑顔で言うカロン。採掘する最中に死ぬことがあればそれが運命なのだと言い切れる割り切りの良さもカロンの強さだ。
ユースが初めて採掘に同行した際、山賊に襲われそうになった時に見せたか弱い姿。それはほんの一瞬だったが、あれもカロンの姿の一部なのだろう。普段は強がっていても本当はか弱くて心細くて、でもそれを出さないようにしながら懸命にひたむきに生きる姿に、ユースはどうしようもない愛おしさを感じるのだ。
(どうしたらもっと俺を頼ってくれるだろう。俺は、カロンの側にいてカロンを支え、守りたい)
カロンの白い頬にそっと触れようとして、手が止まる。じっとカロンを見つめてから、頬ではなく、髪の毛をそっと優しく撫でてユースは席を立った。そして自分のベッドに静かに入り、カロンに背を向けて横になると静かに瞳を閉じた。
◇
「昨日はよく寝れたかい?色男と一緒の部屋でドキドキして寝れなかったんじゃないの?」
「な、何を言ってるんですか!からかわないでください!」
レーヌがカロンにそっと耳打ちすると、カロンは顔を真っ赤にして抗議する。
(寝れないと思ったけど、気づいたらいつの間にか朝までぐっすり寝ちゃってたなんて、それはそれで何だか恥ずかしくて言えない)
昨夜はユースがいつ戻ってきたのかもわからないほどに、すっかり寝入ってしまっていた。きっと馴れないふたり旅で緊張していたのだろう。
朝起きたらユースがすでに起きていて、支度をしている最中だった。カロンが目覚めたと気づくと、ユースは静かに微笑みながらおはよう、と挨拶をしてきた。その微笑みと良い声に、カロンは最初まだ寝ぼけて夢を見ているのだろうかと勘違いしてしまうほどだった。
「そうだ、これ、今日のお昼に食べて。お弁当二人分詰めておいたから」
そう言って、レーヌはカロンに弁当を手渡す。
「ちゃんと無事に採掘してくるんだよ。ユースが一緒だから大丈夫だとは思うけどさ」
「カロンは俺の命に変えても守る。安心してくれ」
「ユ、ユースさん!?命に変えてもだなんて、そんな大袈裟なこと言わないてください」
慌ててカロンがユースに言うと、店主は男前だなちくしょう、と言いながらヒューゥと口笛を吹いた。
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