第14話 微笑み
レーヌの提案で二階にある同じ部屋に通されたカロンとユース。部屋は二人部屋だけあってそれなりに広く、二つあるベッドもレーヌの言うとおり少し離れた場所にある。
「すまない、俺なんかと一緒の部屋で気が休まらないかもしれないが……」
「い、いえ!むしろ私こそすみません。いつもは一人用の部屋が空いているので今日も大丈夫かと思ってたんですが、こんなことになってしまって」
カロンが慌ててそう言うと、ユースは静かに首を振った。
「いや、カロンのせいじゃない。そういえば、ここの店主たちとカロンは随分と仲がいいんだな」
先ほどまでのカロンと店主やレーヌのやりとりを思い出しながらユースが言う。
「先代の店主の頃からこの宿屋をずっと使っているんです。私も先代と一緒によく泊まらせていただいていましたし、一人になってからもこの街の近くの採掘場に行くときにはよく使っているんです。いつも何かと気にかけてくださって、お二人ともすごく優しいんですよ」
ふふふ、と嬉しそうに笑うカロンを見て、ユースもなんとなく嬉しくなって顔が綻ぶ。
「やっぱりカロンはみんなに愛されているんだな」
優しく微笑みながら言うユースの顔を見て、カロンは胸が思わず弾んだ。
(いつもは真顔なのに、急にそんな優しそうな顔、ギャップがありすぎてずるい!)
だんだん顔が赤くなるのを感じて、カロンは思わず俯いてしまった。
ぐう〜
部屋に、突然音が鳴り響く。思わずカロンが顔を上げると、驚いた顔のユースと目が合う。
(このタイミングでお腹が鳴るとか、恥ずかしいんですけど!)
一気に熱が顔に集中して、カロンはゆでだこのように真っ赤になっている。そんなカロンを見て、ユースは拳を口元に置いてククク、と笑った。
(ユースさんが、笑ってる……!)
控えめではあるが、初めて見るユースの笑った顔にカロンはまた胸がドクンと大きく弾むのを感じる。
「俺も腹が減ってきた。ここは食事も取れるのか?」
「えっ、あ、はい!レーヌさんが作る料理はとても美味しいんですよ!下に降りて夕飯にしましょう」
カロンが慌ててそう言うと、ユースはまた少し微笑んで頷いた。
(今日はユースさんの色な表情が見れてなんだか得した気分だな。その分私は恥ずかしい思いもしてる気がするけど)
カロンは手のひらで顔を仰ぎながら嬉しそうに微笑んだ。
◇
「よう、カロンちゃん、久々だな!」
「おっ、ずいぶんと色男を連れて歩いてるんだな。カロンちゃんにもついに春が訪れたか」
「ち、違いますから!やめてくださいよ!」
顔見知りの宿屋の常連客の野次に必死になって応戦するカロンを、店主とレーヌは微笑ましく見つめていた。当事者のユースは、会話の意味をわかっているのかわかっていないのか読み取れない表情で黙々と食事をしている。
「どう?うちの味は。あんたの口に合うかな」
「こいつの料理は天下一品だからな!文句言うやつは俺が許さねぇぞ」
そう言うレーヌと店主をユースは表情を変えずに見つめ、口を開いた。
「ああ、とてもうまい。こんなにうまい料理は初めて食べた」
ユースはいたって真顔だが、真面目さが表れていてそこに嘘は見られない。それに、ユースの目の前にあった皿の上の料理はいつの間にか綺麗に平らげられていた。そんなユースに素直に褒められてレーヌは思わず目を丸くする。そして、ほんの少し頬を赤らめた。
「いやいや、こんなイケメンにそんなストレートに褒められるとは思ってなかったわ。それに綺麗に食べてくれてありがとう」
「おい、何照れてんだよお前は」
レーヌの反応に店主は少しやきもちを焼き、そんな二人を見てカロンは嬉しそうに笑っている。
「そうだ、カロン。この街に温泉ができたんだよ。寝る前に行っておいで」
「えっ、この街に温泉が!?」
カロンが目を輝かせて言うと、レーヌが嬉しそうに微笑んだ。
「そうだ、ユースもせっかくだから一緒に行ってごらん。もちろん浴室は男女別だから安心していいよ。ただ、夜道は危険だからカロンの護衛も兼ねて一緒に行ってほしいんだ」
レーヌがそう言うと、ユースは黙って頷いた。
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