第13話 同じ部屋

 店主と店主の妻レーヌを見ながらカロンは慌てて口を開いた。


「あの、こちらはうちの店で用心棒をしてくれているユースさんです。採掘場に行く時には同行してくださってるんですよ。お二人の思っているような関係ではなくて……」


 最後の方は蚊の鳴くような小さな声になっている。顔を赤らめて言うカロンに、店主もレーヌも顔を見合わせてからカロンをもう一度見た。そしてユースを見る。ユースは状況が飲み込めていないらしく、三人をただ真顔で見つめていた。


「えっ、待って、あのイケメン、カロンちゃんのいい人じゃないの?てっきり挨拶に来てくれたのかと思ったのに」

「ち、違います!誤解ですから!」


 レーヌがカロンの肩に手を回して小声でそう言うと、カロンはさらに顔を真っ赤にして否定した。それを見て店主もバツの悪そうな顔をしてからハハハ、と乾いた笑いをする。


「ああ、なんだ、さっきの言葉は忘れてくれ。あんた、カロンの店の用心棒なのか。なるほど、通りで強そうな見た目をしてる。いやぁ、そうかそうか。とにかくまあゆっくりしていってくれ」


 店主が苦笑いをしながら言うと、ユースは首を少し傾げながら静かに頷いた。




(よかった、ユースさん何もわかっていないみたい。私なんかと誤解されたら申し訳ないもの)


 ホッと胸を撫で下ろしながらも少しだけ寂しそうな表情のカロンを見て、レーヌは目を細めてふうんと呟いた。


「採掘に同行してるってことは、今回はユーギス草原の麓まで行くの?」

「そうですね、なので今夜は一泊させていただきたいんです」


 カロンが言うと、店主とレーヌはまた顔を見合わせる。店主は難しい顔をしているが、レーヌはどことなく嬉しそうな、楽しそうな顔をしている。


「あー、申し訳ないんだけど今日は一人用の部屋が埋まってしまってるのよ。空いている部屋は二人用の部屋が一部屋だけ。どうする?」

「えっ」


 一人用の部屋を二つ取るつもりだったカロンは返答に詰まる。さすがにユースと同室はまずいのではないだろうか。もちろん、ユースと何かあるとは思っていない。ただ、こんなイケメンと同じ部屋で一晩過ごすなんて自分の心臓がもたない、そう思ったのだ。


 カロンが返事に困っていると、ユースが静かにカロンの隣まで歩み寄る。


「厩舎に空いているスペースがあったな。そこを借りることはできるか?俺はそこで構わない」

「えっ、そんな!」


 ユースの提案に驚くカロン。


「別に構わないけど、厩舎で寝た翌日にカロンを同じ馬に乗せて移動するの?それはカロンに失礼なんじゃない?いくら清潔にしている厩舎でも一晩いればそれなりに匂いはついてしまうわよ」


 腕を組んで呆れた顔のレーヌの言葉に、ユースは戸惑った顔でカロンを見た。確かに、自分だけなら構わないだろうが、女性のカロンに対しての気遣いがなっていない。


「それなら、カロンの部屋の前に横になるのはどうだろうか」

「他の客に迷惑だし驚かせてしまうだろう。それに、客を部屋の前に寝かせる店だなんて噂がたってもうちが困るんだよ」


 レーヌがそう言うと、ユースはさらに困った顔をしてカロンを見る。ユースも正直お手上げだと言わんばかりだ。店主は厳しい顔で黙ってレーヌたちを見ている。


(うう、レーヌさんの言うことはごもっともなんだけど……どうしたらいいのかな)


 カロンが悩んでいると、レーヌはニカっと満面の笑みを浮かべた。


「あんたは用心棒なんだからカロンに変なことしたりしないでしょう?別に同じ部屋で構わないんじゃない?ベッドだって少し離れているし。それに、もしカロンに変なことしたら私とこの人があんたをボコボコにしてやるからさ、覚悟しておきなよ」


 最後はユースに睨みをきかせてそう言うと、店主もレーヌを見てから大きく頷いた。少し不満げなのは、レーヌの提案をあまり良しとはしていないからだろう。


「俺は別にそれでも構わないが……」


 ユースが顎に手を当ててそう言うと、レーヌはニヤリとしてカロンを見つめる。


(レーヌさんったらどう言うつもりで……!ああ、もう!)


 カロンはレーヌと店主、そしてユースの顔を見て小さくため息をついた。


「わかりました。同じ部屋で、お願いします……」



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