第12話 宿屋と勘違い

鉱石花を採掘するために、その日カロンとユースは馬に乗っていた。


(いやいやいやこの状況は一体!?)


 ユースが乗る馬に、カロンもなぜか同乗している。カロンの背後にユースがいて、手綱を握っている状態だ。背中にピッタリと密着するユースから伝わる体温にカロンはクラクラしそうになる。


 そもそも、カロンは馬に一人で乗ることができる。今までだって一人で馬に乗り走らせてきた。だが、今回はユースがそれを許さなかった。


「もし魔物に襲われそうになった時に別々の馬に乗っていては助けることができない。それに、魔物に出会って馬が驚き、お互いの馬が別々の方向に走り出してしまったらどうしようもないだろう」


 ユースの言い分はこうだった。


(確かにそれはそうなのだけれど、こんなに密着しなきゃいけないものだとは思わなった!)


「大丈夫か?怖いかもしれないが、絶対に落としたりしないから安心してくれ」


 ユースが背後から静かに言う。ちょうどカロンの耳元にユースの低く響く良い声がダイレクトに聞こえる形になって、カロンはますます眩暈がしそうだった。


(ユースさんは別に何も気にしてなさそうだし、私ばっかりこんな緊張してなんだか恥ずかしい……!気を引き締めないと!)


 カロンはふん!と鼻息を荒くして前をしっかりと見つめた。






 この間ユースと行った採掘場は歩いて日帰りで行ける場所だったが、今回の採掘場は距離がかなりある。馬を走らせても日帰りでは行けず、途中の小さな町で一泊しなければならない。


 カロンの店からその町までは半日で到着した。いつもはほぼ一日かかっていたが、ユースの馬の走らせ方がうまいのだろう。あっという間に辿り着いた。


「ここが、いつもお世話になっている宿屋です」


 馬を宿屋側の厩舎に繋ぎ、宿屋に入ると、店主がカロンを見て笑顔になる。


「カロン!久しぶりだなぁ!」

「お久しぶりです!お元気でしたか?」


 店主とカロンが楽しげに話す様子を、ユースは後ろで黙って見つめていた。


「レーヌさんは?」

「今、夕飯の仕込みをしてるよ。カロンが来たってわかったらあいつ大喜びするだろうな、って、噂をすれば」


 店主が奥を覗くと、一人の女性が顔を出し、カロンを見て大声を上げる。


「カロン!」

「レーヌさん!」


 お互いに抱き合って嬉しそうに笑い合う。そんな二人の仲睦まじい様子を、ユースは少し驚いたような顔をして見ていた。


「半年ぶりくらい?」

「そうですね、お変わりないようでよかったです!」

「ふふ、ありがとう。カロンも変わりないようだね……って、あの人は?はっ、まさかカロン……!」


 後ろで静かに立っていたユースを見て、レーヌは顔を輝かせる。だが、店主は眉を顰めた。


「まさかカロン、そういう奴なのか?」


 そういう奴とは?言われた意味がわからずカロンが首を傾げると、レーヌがユースの前にやってきた。


「あんた、カロンと一緒に来たんでしょう?カロンのこと、これからも末長くよろしくね」

「あ、ああ」


 レーヌに突然話しかけられてユースは咄嗟に返事をする。だが、店主は眉間に皺を寄せたままユースに話しかけた。


「あんた、仕事は?」

「……傭兵だ」

「傭兵?そんな危なくて不安定な仕事で、カロンを幸せにできると思ってんのか?レーヌが許しても俺は許さねぇぞ。カロンをちゃんと幸せにできる男じゃないと俺は認めない」


 店主は胸の前で腕を組み、ふんと息巻く。それを見てカロンは傾げていた首をさらに傾け、あっ!と声を上げた。


「ま、待ってください!もしかして、勘違いしてませんか?」







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