第11話 割れた鉱石花

 ジェダたちが去った店内は静寂に包まれた。


「大丈夫か?」


 ユースがカロンに声をかけると、唖然としながらドアを見ていたカロンはハッとしてユースを見てから慌ててカウンターを出る。


「すみません、騒がしかったですよね。助けて下さってありがとうございました。今、片付けますので」


 そう言って床に散らばった鉱石花を拾い集める。ユースも手伝うと、カロンは眉を下げて微笑んで会釈した。


「あいつらはよくここへ?いつもああなのか?」


 眉間に皺を寄せてユースが尋ねると、カロンは小さくため息をついた。


「最近は頻繁に訪れるようになりました。でも、いつもはここまでひどくないのですけど、まさか鉱石花をわざと割るなんて……」


 カロンは集めた鉱石花を悲しそうに撫でる。どの鉱石花もカロンが自分の手で集めてきた大切な魔鉱石だ。それを、ジェダはおもちゃを扱うようにいとも簡単に床に落として粉々にしたのだ。


「……俺がここにいることで、ジェダを刺激してしまったのかもしれないな。そうだとしたらすまない」


 ユースが辛そうにそう言うと、カロンはハッとしてユースを見つめる。


「そんなこと……!それより、もしかしてあの人がユースさんを騙してユースさんが騎士団を辞めるきっかけになった人ですか?」

「……そうだ。あの男が主犯となって俺に偽の情報を伝え、魔物に襲わせた張本人だ」


 ユースが騎士団を辞める原因になった人間があの嫌な騎士だったと知って、カロンは思わず声を荒げる。


「ひどいです!騎士なのに、同じ騎士仲間を騙して大怪我をさせた挙句、辞めさせるだなんて。騎士団の上司の方には真実を言わなかったんですか?」

「あいつの家は上流貴族の家柄だ。俺のような平民が何を言っても信じてはもらえなかった。いや、例え俺の言うことが真実だとわかっていたとしても、あいつの父親の権力で簡単に握りつぶされていたんだろうな」

「そんな……」




 カランカラン


「よう、カロンちゃん!ユースもちゃんと仕事してるか……って、なんだ?どうかしたのか?」


 サインズが威勢よく店に入って来たが、店内の様子を見て神妙な顔になる。





「なるほどな、騎士団の連中がまた来たのか。しかも鉱石花をわざと割るなんて胸糞悪いったらありゃしないな」


 サインズがケッ!と吐き捨てると、ユースは割れた鉱石花の一部を掴む。


「これは、まだ在庫はあるのか?」

「残念ながら一品ものです。ここまで割れてしまうと商品にはならないので、また取りに行かないといけないですね。近々違う鉱石花を取りに行こうと思っていたんですが、ちょうど採掘場が近いので寄っていくつもりです」


 悲しげに微笑むと、ユースは眉間に皺を寄せたまま鉱石花を握りしめた。


「俺も同行する。どこまで行くんだ?」

「ユーギス草原の麓の採掘場です」

「ユーギス草原の麓か。あそこは気性の荒い魔物もいるはずだが、今まではそこへも一人で?」


 ユースが険しい顔で聞くと、カロンは苦笑する。


「はい。前にも言いましたが、一応剣術は一通り習っていますし、魔法もある程度は使えます。魔鉱石も持って行っていましたし……」

「でも、採掘から帰ってくると、カロンちゃんいつもどこかしら怪我してたよな」


 カウンターに肘をつき頬杖をついてサインズがぼやく。


「サインズさん!」

「でもほら、今回はこいついるから安心だろ」


 サインズがそう言ってユースを見ると、ユースは力強くうなづいた。




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