ラストハーバー守備隊司令部

……………………


 ──ラストハーバー守備隊司令部



 アレステアたちを乗せてアンスヴァルトは第4連合空中艦隊を離脱し、予定通りラストハーバーへと向かった。


『間もなくラストハーバーに到着』


 アンスヴァルトはラストハーバー・セントラル国際空港に着陸。


「到着ですね。これからやるべきことは何ですか?」


「まずはラストハーバーの守備隊司令部に」


「了解です」


 アレステアはシーラスヴオ大佐の言葉に頷き、アンスヴァルトを降りようとする。


「アレステア君。もう行くのかい?」


「はい、カーウィン先生。まずは司令部に。先生は?」


「私も野戦病院に手助けに向かうよ。医者が足りないと聞いているから」


「では、お互い頑張りましょう1」


「ああ」


 ルナはアレステアの屈託のない笑みに微笑んだ。


「けど、先生も気を付けてくださいね。ここは戦場みたいですから……」


「もちろん。君も何があっても無事でいてね」


 ルナはそう言うとアレステアと別れてラストハーバーに設置された野戦病院へと向かい、アレステアたちはラストハーバー守備隊司令部に向かった。


「誰か!」


「葬送旅団アレステア・ブラックドッグです!」


 司令部付近には動員されたアーケミア連合王国の警察官を含む守備隊が展開しており、魔獣猟兵のゲリラコマンドに警戒していた。


 アレステアたちは誰何を受けた後に司令部内に通される。


「よく来てくれた、葬送旅団。歓迎する。今はひとりでも多くの戦力が必要だ」


 ラストハーバー守備隊司令官はジョナサン・デンプシー連合王国陸軍大将。


「状況をお聞かせいただけますか、大将閣下」


「作戦参謀。説明を」


 シーラスヴオ大佐が申し出るのにデンプシー大将が命じる。


「はっ! 現在、魔獣猟兵はラストハーバーから北に4キロの地点にまで進出。我が方は既に戦略予備がウェストヒルズから機動中です。この戦略予備が到着するまで我々はラストハーバーを守り抜く必要があります」


「魔獣猟兵のラストハーバー到達は阻止できないと?」


「ウェストヒルズへの陽動が痛かったですね。こちらがすぐに出せる予備はすぐに投入しましたが、いずれも撃退されました。敵は間違いなくラストハーバーに到達するでしょう。そして我々は敢えてラストハーバーで戦います」


「市街地戦に持ち込む、と」


「それしか手はないのです」


 作戦参謀は渋い顔をしているシーラスヴオ大佐にそう言った。


「既に航空優勢は確保できていません。もし野戦に挑めば敵の航空戦力によって打撃を受けます。永久陣地でもあれば話は別だったでしょうが、そのようなものを準備しておく暇もありませんでした」


 その分、市街地戦ならば既に存在する建物が陣地となるわけだ。


「住民の避難は?」


「進めていますが、一部は間に合わないでしょう。それに市民の協力も必要です。食事や医療の提供は既に市民に依存しているのが現状ですから」


 自国領での防衛戦において防衛側は市民からの支援が受けられるという恩恵がある。事実、帝国も魔獣猟兵に占領された場所でのパルチザンを扇動することで魔獣猟兵の兵站を攻撃していた。


 しかし、これにはデメリットもある。


「あの! それだと市民の人たちが戦争に巻き込まれるのではないですか……?」


「最大限、軍が彼らを保護するが犠牲が皆無とはならないだろう」


 アレステアの問いにデンプシー大将が答えた。


 そう、戦場に民間人がいれば当然巻き込まれる。特に市街地戦ならば魔獣猟兵は飛行艇による爆撃から火砲による爆撃まであらゆる手段を使うだろう。


「それでも勝利のためにラストハーバーを戦場にするしかないのdせう。ご理解いただきたい。我々もできれば市民を避難させたいのですが、既に車両は全て撤退などの機動に使っており、余裕のある道路もないのです」


 作戦参謀がアレステアたちにそう言う。


「飛行艇を使えば」


「航空優勢は現在我が方にありません。もし飛ばしても魔獣猟兵に撃墜される恐れがあります。そもそも飛行艇も十分な数はないのです」


 敵が迫るラストハーバーから脱出する手段は失われていた。


「市民には市民で自分の身を守ってもらうしかないと考えている。幸いにして武器はあるし、火炎瓶ならすぐに作れる。我々が配布していた事前の国防に関するパンフレットにシェルターや火炎瓶の作り方は書いてある」


「訓練されていない市民を戦闘に動員すると?」


「彼らに求めるのはあくまで自衛することだけだ、シーラスヴオ大佐。我々は知っているのだ。魔獣猟兵は暗黒地帯となった場所の市民に何をするかを」


 シーラスヴオ大佐が苦言を呈するのにデンプシー大将はそう返す。


「市民の取り扱いについて戒厳令発令下であるため軍法に従って処理される。市民についてはこれぐらいでいいだろう」


 デンプシー大将はそう言い、再び作戦参謀の方を見た。


「敵は今日の夜にはラストハーバーに到達します。こちらの戦力は5個師団。対する侵攻している魔獣猟兵は少なくとも10個師団以上です」


「数においては圧倒的に不利ですね」


「ええ。しかし、幸いなことに魔獣猟兵の兵站線は伸び切っています。ラストハーバーを無理に攻撃すればそのわずかな武器弾薬と燃料も喪失することでしょう」


「なるほどですね。敵も万全ではないわけですか」


 魔獣猟兵は大きく前進したが、この手の機動戦においてありがちなことに伸び切った兵站線のせいで補給が追いついていない。


「我が方はあらゆる橋を爆破し、鉄道などのインフラも破壊する焦土作戦を展開して撤退しました。敵は補給の方法で頭を悩ませていることでしょう」


 海運と鉄道輸送は強力な輸送手段だ。一気に大規模な荷物を運ぶことができるため、両軍ともに鉄道路線と港湾施設を制圧しようとした。


 しかし、連合軍は徹底する際にそれらを徹底破壊して撤退した。魔獣猟兵はこれでまともに補給ができなくなっている。


 道路は無事だが道路は戦闘によって破損しており、また大規模な荷物を運ぶのにトラックを使うというのはトラックそのものの燃料の消費などもあって非効率だ。


「このラストハーバーには未だに健在な鉄道と空港、そして港湾施設があります。しかし、もしラストハーバーが落ちるのであればそれら全てを破壊します」


「でも、それは反撃する時に困るのでは」


「いいえ。時間は我々の味方です。魔獣猟兵の兵力は屍食鬼を除けば減少しています。それもそうでしょう。あくまで敵は旧神戦争の生き残りでしかないのですから。それから増えることはないのです」


「こちらは違うと?」


「動員によってこちらの戦力は増える続けています。故に戦えば戦うほど弱体化する魔獣猟兵に対して我々は時間をかけても有利になる」


「そうですか」


 アレステアはな少し釈然としないものと感じつつも作戦参謀の言葉に頷いた。


「では、葬送旅団に命じる具体的な作戦計画についてご説明を」


 作戦参謀はそう言って作戦を説明した。


……………………

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