ラストハーバー航空戦

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 ──ラストハーバー航空戦



「出撃命令が下りました。連合軍最高司令部は我々にラストハーバーの防衛を求めています。すぐにラストハーバーへと機動します」


 アンスヴァルト艦内の葬送旅団司令部にてシーラスヴオ大佐が告げる。


「了解です。こちらの方はもう大丈夫なのでしょうか?」


「司令部は敵にウェストヒルズ占領の意図はないと判断しています。よって、占領される恐れがあるラストハーバーの方へと」


 ウェストヒルズに向かっているのはカーマーゼンの魔女たるヴァレンティーナひとりだけ。彼女がいかに強力な魔女でも都市とそこまで繋がる後方連絡線は維持できない。


「なら、大丈夫ですね。行きましょう!」


「ええ。テクトマイヤー大佐が間もなくアンスヴァルトを離陸させます。出撃です」


 アレステアが頷き、シーラスヴオ大佐が宣言。


『総員、本艦は間もなく離陸する』


 アンスヴァルトがウェストヒルズ国際空港を離陸し、ラストスパートへと向かった。


「艦長。残り3分で友軍空中艦隊との合流地点です」


「分かった。既に魔獣猟兵の大規模攻勢が始まっている。友軍の飛行艇と行動しなければ単艦では危険だ」


 テクトマイヤー大佐の指示でアンスヴァルトは友軍空中艦隊との合流を目指す。


『飛行中の友軍飛行艇へ。こちら第7空中偵察戦隊旗艦ブリュッヒャー。そちらの所属を明らかにせよ』


「こちら葬送旅団アンスヴァルト。友軍空中艦隊と合流予定だ」


『確認した。アンスヴァルト、これより我々があなたをラストハーバーまで護衛する』


 現れた友軍空中艦隊は空中巡航艦ブリュッヒャーを旗艦とする4隻の飛行艇で構成されていた。彼らに守られるようにしてアンスヴァルトはラストハーバーへ飛行。


『こちら第4連合空中艦隊司令部。作戦空域に存在する全ての作戦機に警告。魔獣猟兵の大規模な航空戦力が空域に侵入している。現在防空艦体及び高射砲部隊が応戦中』


「不味いな。既にラストハーバー上空は戦場になっている」


 テクトマイヤー大佐が唸るようにそう言った。


『こちら哨戒飛行中の空中駆逐艦ヘルマン・キュンネ! 魔獣猟兵の空中艦隊の位置を捉えた! 敵の位置は──』


 さらにレーダーピケット艦として行動していた空中駆逐艦が魔獣猟兵の空中艦隊の位置を捕捉し各艦艇に報告する。


「近いぞ。空中巡航戦艦ブリュッヒャーにどうするか問い合わせろ」


「了解」


 テクトマイヤー大佐が魔獣猟兵の大規模な空中艦隊が近いことを把握して命じ、通信兵がアンスヴァルトを護衛している空中偵察戦隊の旗艦ブリュッヒャーにどのように行動するべきかを問い合わせる。


「空中巡航戦艦ブリュッヒャーより現在急行している友軍空中艦隊と合流して戦闘を行うとのことです」


「了解。総員戦闘配置だ」


「総員戦闘配置!」


 こんな事態も想定してテクトマイヤー大佐はなるべく乗員を休ませておいたため、問題なく全員が戦闘配置についた。


 艦内の証明が赤い照明に切り替わり、慌ただしく空軍の飛行艇乗りたちが駆ける。


『こちら第4連合空中艦隊旗艦ウォーリア。周辺空域の友軍飛行艇へ告ぐ。本艦隊に合流し、魔獣猟兵の空中艦隊迎撃任務に当たれ』


 そして、アーケミア連合王国空軍の空中戦艦ウォーリアを旗艦とする主力艦8隻の強力な空中艦隊が魔獣猟兵の迎撃のために進出してきた。


「友軍空中艦隊を視認!」


「友軍空中艦隊に合流する。進路変針2-1-0!」


「進路変針2-1-0!」


 アンスヴァルトがその進路を変えて友軍空中艦隊との合流を行う。


「こちら葬送旅団アンスヴァルトより第4連合空中艦隊旗艦ウォーリア。これより本艦はそちらの空中艦隊に加わる」


『旗艦ウォーリアよりアンスヴァルト。了解した。これよりそちらは我が艦隊の指揮下に入った。指示に従え』


「了解」


 アンスヴァルトはエスタシア帝国空軍とアーケミア連合王国空軍を中心にした混成部隊である第4連合空中艦隊は魔獣猟兵の空中艦隊の迎撃に向かう。


「こちらのレーダーが敵空中艦隊を捕た。また敵空中艦隊のレーダー照射を確認。捜索レーダーです。射撃管制レーダーではありません」


「旗艦からの命令を待って本艦も敵を砲撃する。砲戦準備」


 魔獣猟兵の空中艦隊と第4連合空中艦隊が相互にレーダーを浴びせ、位置を把握しながら砲撃のために機動しつつあった。


 両艦隊がお互いの主砲の射程に敵艦を捕えようとする。


「友軍空中空母インヴィンシブルより艦載機発艦」


「敵の空中空母からも小型目標多数の反応」


 空中戦艦の主砲が敵を捕らえる前に両艦隊の空中空母から艦載機と亜竜が発艦。


 第4連合空中艦隊側の艦載機は亜竜による攻撃の阻止と敵主力艦に対する爆撃及び雷撃が目的だ。


「しかし、亜竜を相手に我々の艦載機で勝てるのでしょうか?」


「分からん。だが、全く試みないよりもマシだろうな。敵の飛行艇に加えて亜竜にまで攻撃されては勝利は望めない」


 テクトマイヤー大佐たちがアンスヴァルトの艦橋でそう言葉を交わす中、艦載機と亜竜が激突し、両軍が激しい空中戦を繰り広げる。


「敵主力艦、なおも接近中。友軍艦載機による攻撃はまだ届いていません」


「ふむ。このまま決戦となるか」


「本艦の火力では他の飛行艇に及びませんが」


「それでも戦うしかない。友軍を見捨てて逃げるわけにはいかない」


 副長はアンスヴァルトが旧式飛行艇であり、そしてその主砲が口径28センチという脆弱なものであることを指摘するが、テクトマイヤー大佐は首を横に振った。


「撤退命令が出るまでは戦う。だが、落ちるつもりはない」


 そうテクトマイヤー大佐が宣言し、第4連合空中艦隊は魔獣猟兵の空中艦隊に接近。ついにほとんどの主力艦の主砲が敵艦を捉えた。


『旗艦ウォーリアより全艦。撃ち方始め!』


「旗艦より射撃命令です」


 通信兵が素早くテクトマイヤー大佐に連絡。


「撃ち方始め!」


「撃ち方始め!」


 アンスヴァルトの口径28センチ3連装砲が火を噴く。


 同時に第4連合空中艦隊の空中戦艦と空中巡航戦艦が口径40.6センチから口径35.6センチに至るまでの主砲を一斉に魔獣猟兵に向けて叩き込む。


 レーダー射撃によって正確な射撃が行われ、回避行動を取ろる魔獣猟兵の空中艦隊に数発の命中弾を出した。命中によって火災が生じ、青い空に赤い炎が見える。


「友軍にも命中弾です。旗艦ウォーリアが被弾しています」


「怯むな。撃ち続けろ。そうすれば勝てる」


 旗艦ウォーリアが次々に砲弾を受けて火災が生じる中、それでも絶え間なく第4連合空中艦隊は砲撃を続ける。連合軍と魔獣猟兵が被害を出しがら空の決戦を戦った。


「旗艦ウォーリアが爆発! 落ちます!」


 ついに空中戦艦ウォーリアが爆発を起こして墜落していった。


『こちら空中戦艦アイアン・デューク。指揮を引き継いだ。これより我々は撤退する。各艦煙幕を展開し進路変針。我に続け』


「撤退か」


 そう、撤退だ。第4連合空中艦隊の主力艦が6隻で1隻が撃墜された。それに対する魔獣猟兵の空中艦隊は2隻が甚大な被害を出しながらも今も空に留まっており、そして8隻の主力艦を有している。


 このまま戦ってもさらなる飛行艇が撃破されるだけだと判断したのだろう。


 飛行艇が存在しなくなれば魔獣猟兵の空中艦隊は全面的なフリーハンドを得ることになり、致命的なこととなってしまう。


「撤退だ。進路変針1-4-0!」


 そして第4連合空中艦隊は撤退を開始した。


……………………

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