連合軍統合参謀本部

……………………


 ──連合軍統合参謀本部



「我々は敵の攻勢の兆候を掴んでいる」


 連合軍統合参謀本部は今現在アーケミア連合王国王都クイーンズキャッスルにあるアーケミア連合王国陸軍の関係施設に設置されていた。


「先のセント・フォート襲撃以降、魔獣猟兵第2戦域軍と称される部隊に大陸から何隻もの飛行艇が合流しているのを確認した。これは敵が積極的な航空作戦に出て、航空優勢を奪取し、そして攻勢に転じるためのものと思われる」


 そう告げるのは連合軍統合参謀本部議長のシコルスキ元帥だ。


「情報部にはより具体的な情報収集を報告してもらいたい」


「了解」


 連合軍統合参謀本部情報部には帝国国防情報総局からクロエ・マリオン中将が派遣されており、各国情報機関を纏めて効率のいい情報収集を目指していた。


「情報部では魔獣猟兵の攻撃目標がラストハーバーであるという高度に確証性の高い情報を有していました。しかし、ここにきて新たにウェストヒルズも攻撃目標であるという情報が入りました」


 マリオン中将がそう報告する。


「ラストハーバーかウェストヒルズかのいずれか、か? それとも両方?」


「まだ不確定ですがどちらかかと思われます。こちらが把握している動員されている兵力の規模から推測していますが、両方に仕掛ける余裕はないかと」


「ふうむ。問題だな。ラストハーバーとウェストヒルズでは随分と位置が違う。どちらかに絞らなければ戦力を集中できない」


 マリオン中将の報告にシコルスキ元帥が頭を悩ませた。


「攻勢においては主導権は攻撃側にありますから。彼らは自分たちの望む場所に戦力を集中させることができる。対する防衛側は広い戦線に戦力を貼り付けなければならない。しかし、今の我々の軍には機動力があります」


 そう指摘するのは連合軍統合参謀本部副議長エドワード・ハリス大将だ。アーケミア連合王国空軍で軍歴を重ねて来た人物である。


「そう、幸いにしてかなりの数の部隊の機械化が完了した。今やカラカル装甲兵員輸送車かあるいはカンガルー装甲車で歩兵部隊は高い機動力を有する。その上で考えるとなると大規模な戦略予備を準備しておくべきか」


「機動戦というわけですね。あの戦車という兵器も役に立ちそうです」


「あれについてはまだ我々も理解したわけではないが」


 戦車はエスタシア帝国とアーケミア連合王国を中心に配備が進んでいた。だが、戦車を指揮するのは歩兵将校で戦車は歩兵に随伴して火力支援を行うのみだ。


「防衛計画を事前にある程度作成しておくべきかと。機動戦となると現場に委任する部分が多いかとは思いますが、戦略規模の作戦となれば私用する道路や橋など確保すべきものがあります」


「そうだな。ラストハーバーとウェストヒルズの両方への戦略規模の防衛計画を策定しよう。予備陣地の構築も始めておきたい」


 ハリス大将の言葉にシコルスキ元帥が同意する。


「閣下。作戦参謀として発言してもよろしいでしょうか?」


「聞こう、エーデルスハイム中将」


 ここで連合軍統合参謀本部の作戦参謀であるヴェルナー・フォン・エーデルスハイム帝国陸軍中将が発言を求めた。


「我々の考えでは前線で強固に抵抗する歩兵と装甲車で機動する機械化歩兵、それを援護する戦車を組み合わせた戦術を作ることが必要だと考えています」


「それはどのようなものなのだろうか?」


「はい。敵はこれまでの戦闘から抵抗があれば迂回することを選択します。我々と同様にです。迂回突破は浸透戦術の基本であります」


 エーデルスハイム中将はそのように語る。


 塹壕が生まれてから浸透戦術は軍の基本的な行動になっていた。それ故に誰もがそれについて理解している。塹壕に機関銃を据えた簡易なものがあまりにも強固であるが故にそれを突破する手段を軍人は常に探っていた。


「しかし、それは上手く利用すれば敵が進軍する経路を予想できることにも繋がります。敵が迂回するように意図的に強固な陣地と守りの薄い陣地を準備すれば」


「なるほど。その我々の抵抗を迂回突破した部隊を機動戦力によって叩く、と」


「その通りです。空軍と連携すればより効果的だという計算も出ています。敵を正面で機動部隊が相手にし、そして後方を空軍が叩くことで3次元の包囲網がしけます」


 エーデルスハイム中将はそう説明したのだった。


「しかし、いきなりそれを実行するのは指揮官たちの経験が不足しているのでは? 万が一作戦通りにいかなかった場合、対処できるのかが疑問だ」


「ですので、今からでも可能な限りの教育を。今のまま戦い続けることはこちらが得たアドバンテージを生かせません」


 ハリス大将が苦言を呈するのにエーデルスハイム中将がそう訴える。


「分かった、エーデルスハイム中将。教育については準備を進めさせよう。しかし、今近づいている戦いにおいてこの戦略及び戦術は使用できない。ハリス大将が指摘したリスクがある。今回は昔ながらの方法でやろう」


「了解です。では、その方向で作戦を立案します」


 シコルスキ元帥がそう指示し、エーデルスハイム中将が同意。


 そして、連合軍側での防衛作戦が立案されることとなった。



 ──ここで場面が変わる──。



 魔獣猟兵第2戦域軍はアーバレスト作戦に向けて進行中だった。


 戦力が集結し、第3戦域軍から派遣されてきた飛行艇が戦力に加わる。空中戦艦や空中空母が次々に集まり、旗艦である空中空母キャスパリーグの指揮下に入っていく。


「ハドリアヌス大将閣下。アーバレスト作戦の準備は順調です。既に全兵力8割が配置につき、物資集積基地の設置も完了しました」


「ご苦労。後は……」


 魔獣猟兵第2戦域軍司令官ハドリアヌスがそう言って考え込む。


「あたしの配置だろ?」


「そうだったな、ヴァレンティーナ。どこを希望する? お前はお前の好きな場所で暴れるといい。旧神戦争の英雄であるカーマーゼンの魔女に敬意を払おう」


 カーマーゼンの魔女のひとりであるヴァレンティーナがハドリアヌスの前に現れるのにハドリアヌスがそう言う。


「じゃあ、あたしひとりでも役に立つ場所に放り込んでくれよ」


「ふむ。では、ひとつ予定がある。頼むとしよう」


 ハドリアヌスにはひとつ計画があった。


「アーバレスト作戦の発動は明日だ。配置についてくれ」


「了解。派手に暴れようぜ」


 ヴァレンティーナは愉快そうににやりと笑うと司令部になっている空中空母キャスパリーグを去った。


「さて、我々は完全な勝利は求められていない。敵の戦力を確実にこの島に拘置し、敵による我々の排除を阻止すること。それだけだ。だが、それだけと言えど容易なことではないな……」


 ハドリアヌスの下には帝国からアーケミア連合王国に供与されたカラカル装甲兵員輸送車などの装甲戦闘車両の写真があった。既に魔獣猟兵も装甲兵員輸送車や戦車について情報を得ているのだ。


「最善を尽くすのみだな」


 そして、別の写真には帝国のそれではない装甲兵員輸送車と戦車の映像が……。


……………………

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