誰もが利用する称号
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──誰もが利用する称号
アレステアに準男爵の爵位及びアーケミア連合王国に多大な貢献をした人物に与えられるメアリー十字勲章が授かられることになった。
授与はアーケミア連合王国王都クイーンズキャッスルにあるアイテル宮殿にて行われる。アーケミア連合王国国王ジョージ6世自らアレステアに勲章が授けられるのだ。
「よし。ちゃんとできているよ」
「ありがとうございます、カーウィン先生」
出発前にルナがアレステアの身だしなみを整えていた。
「では、気を付けて。君の帰りを待っているよ」
「はい!」
アレステアはそうルナに送り出されてアイテル宮殿へと向かった。
「おお。あれが噂の……」
「まだ子供ではないか」
アイテル宮殿にはアーケミア連合王国議会議員や貴族たちが集まっていた。アーケミア連合王国では未だに貴族が力を失っていない。それはそうそうに貴族の肩書が有名無実化した帝国と異なる。
「アレステア卿。ようこそ、アイテル宮殿へ」
「あ、どうも。あなたは?」
そこで若い男性が声をかけて来た。
「私はフォークズヒル公ヘンリー。この国の王太子だ」
「お、王太子殿下でしたか。失礼しました……」
「いや。気にしないでくれ。むしろ、こちらこそ我々に国に自らを犠牲しながらも貢献してくれたあなたはに気安に話しかけてしまった」
「そんなことは……」
フォークズヒル公ヘンリーが苦笑いを浮かべるのにアレステアは首を横に振る。
「連合王国はあなたにとても感謝している、アレステア卿。外国人でありながら我々の国のために尽くしてくれたあなたに感謝している。ありがとう、アレステア卿」
「できることをしました。それが助けになったのなら嬉しいです」
フォークズヒル公ヘンリーにアレステアはそう言って微笑んだ。
それからアレステアはフォークズヒル公ヘンリーに貴族や重要な政治家を紹介され、一気にアーケミア連合王国の上流階級にその顔が売れることとなった。
「これより授与式が行われます。どうぞ皆さま部屋の移動を」
職員に促されてアレステアたちは部屋を移動する。
爵位と勲章が授与される場は宮殿内でも広々とした場所で装飾品は控えめながら、それでも上品な雰囲気を保っている。
「国王陛下がいらっしゃいます」
そして、アーケミア連合王国国王ジョージ6世が姿を見せた。
「アレステア・ブラックドッグ卿。前へ」
「はい」
アレステアはジョージ6世の求めに応じて彼の前に立つ。
「あなたのアーケミア連合王国への多大な貢献をここに評価する。あなたは自らを犠牲にすることも厭わず、我々の戦いを支えてくれた。そのことを讃え、ここにあなたを準男爵に任じる」
ジョージ6世はアレステアにそう語る。
「さらにあなたの貢献に対してアーケミア連合王国国王としてメアリー十字勲章を授ける。改めてあなたの貢献に感謝するものとする」
ジョージ6世はそう言ってアレステアの首に勲章を授けた。
「では、以上で授与に関する式典を終了する。王国万歳」
「王国万歳! 国王陛下万歳!」
この様子はラジオでも伝えられ、厭戦感情に苦しんでいたアーケミア連合王国国民にとって救いとなった。
英雄は存在するという事実だけで人々は戦争に負けることはないと思い始めたのだ。
「我らが英雄に乾杯!」
「ゲヘナ様の眷属に!」
酒場では子供や孫を戦場に送り出した老人たちがアレステアを讃えて乾杯をしていた。彼らはゲヘナの眷属であり英雄であるアレステアがいれば自分たちの子供や孫が死ぬことはないだろうと思っていたのだ。
アーケミア連合王国では魔獣猟兵の攻撃が挫かれたことが広く知らされた。久しぶりに得た勝利を利用しない手はない。宣伝し続けた。次第にそれは誇張されたものへと変化していく。
『連合軍大勝利! 魔獣猟兵は空中空母をゲヘナ様の眷属アレステア・ブラックドッグ卿によって撃破され、敵の空中艦隊は機能不全に陥った! 我々の大勝利である!』
「これは少し誇張し過ぎじゃないですか……?」
アレステアは新聞に掲載された記事を読みながらそう言った。
「他に宣伝できる勝利がないんですよ。アーケミア連合王国も帝国同様に敗北を重ねてきて今の状態にあります。反転攻勢を試みるもことごとく失敗。魔獣猟兵は戦術的勝利すら許すことはなかった」
「勝利が必要だったんですか?」
「ええ。内向きにも外向きにも。内向きには厭戦感情の払拭と戦争協力と求めるために。外向きには連合軍の軍事支援を得るために。これらのために小さくとも戦術的勝利が必要だったのです」
「勝利のための勝利、ですか」
レオナルドの説明にアレステアが呟く。
「敗北は軍と政府の信頼を損ねます。信頼がなければ勝利は望めないのです」
「けど、嘘を吐いたらいけませんよね? 嘘も信頼を損ねるはずです」
「今の民衆に国が発表する情報の真偽を確かめる方法はありません。魔獣猟兵の発表は連合軍には及ばないし、従軍している人間には機密を守る義務がある。そして、従軍している人間ほど真実を誇張します」
「嘘が嘘とバレないから嘘をついてもいいんですか?」
「それがプロパガンダというものなのです」
プロパガンダに嘘は誇張した事実はつきものだ。国民の戦意を上げるために国はあらゆる嘘を吐く。それが必要な嘘だとして。
「でもさ。アレステア少年が誰にも彼にもいいように利用され過ぎている気がするよ。まるで何でもできる超人みたいに書かれているじゃん。これで影響を受けるのはアレステア少年だよ?」
シャーロットは不満そうにそう言った。
「でも、戦争に勝たないといけないですし。仕方ないですよ」
「仕方なくはない。別に君が全ての人間に失敗の尻ぬぐいをする必要はないんだから」
アレステアは苦笑いを浮かべるがシャーロットは本当に憤慨している様子で自棄になったのようにウィスキーを喉に流し込んでいる。
「確かに既に大勢が間違ってきました。魔獣猟兵と戦争が起きると思っていなかったし、装丁もしなかった人々が政府を構築しており、その油断のせいで大勢が犠牲になりました。だが、その過ちの責任は取られていない」
「これが終わったらたっぷりとってもらうさ。全く!」
レオナルドが渋い顔で語るのにシャーロットはそう吐き捨てた。
「暫くは任務はないんでしょうか?」
「連合軍統合参謀本部隷下の情報部によれば魔獣猟兵に動きがみられるとのことです。我々は何かあった時のための火消しでしょう」
シャーロットがお怒りの様子なのを受け、アレステアがそこで気まずくなって話題を変えようと尋ねるのにレオナルドがそう言った。
「あるいはこれからは戦時国債購入を促すパレードだけのお仕事とかね」
「それはちょっと……」
「君はそれぐらい楽をしていいほど苦労してきたんだよ?」
アレステアが戸惑うのにシャーロットがそう言う。
「でも、僕は頑張らないと。神様の加護を受けているんですから」
アレステアははそう言うのみだった。
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