一代貴族の称号
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──一代貴族の称号
魔獣猟兵の空中空母アンヴァルはアレステアの手によって撃墜された。
しかし、それで万事よしというわけではない。
魔獣猟兵によって奪われ空中戦艦アンサラーと名を変えた飛行艇は未だ魔獣猟兵の手の中にあり、連合軍の空軍にとって脅威となっている。
そして、空中空母アンヴァルの自爆攻撃を阻止したアレステアの捜索救難もまだ終わってはいなかった。
搭載していた爆薬によって爆発し炎上する飛行艇とともに墜落した彼を救出するために捜索救難任務を担当していたアーケミア連合王国陸軍第22長距離偵察連隊が出撃し、任務を開始した。
「いたか?」
「この辺りのはずですが……。しかし、本当にこの飛行艇の墜落に巻き込まれて生きているのですか?」
周囲には爆発して散らばった飛行艇の残骸が転がっている。炎で焼かれた金属の破片があちこちに散らばり、さらに屍食鬼の死体が黒焦げて転がっている。
「彼はゲヘナ様の眷属だ。不死身だと聞いている。恐らくは生きているはずだ」
現場の指揮官はそう言って捜索を続ける。
周辺には魔獣猟兵の攻撃を避けるために捜索に当たっている部隊以外の人員が配置されているが、第22長距離偵察連隊は特殊作戦部隊という名の軽歩兵だ。もし、敵が火砲や飛行艇を持ち出したら対抗できない。
「頼むぞ。見つかってくれ」
だから、彼らは急いでいた。
「いました! 彼です!」
「衛生兵!」
そこで捜索を行っていた兵士が叫び、衛生兵が駆け足でやってくる。
「凄い。完全に無事だ」
「だが、意識がない。対光反射も反応なしです」
「分かった。とにかくここから運び出そう。担架を準備しろ」
第22長距離偵察連隊の兵士たちはアレステアを空中空母アンヴァルの墜落地点から運び出すとアンスヴァルトの基地になっている後方の拠点に移送した。
アレステアは拠点にある負傷兵たちが収容されている病院に搬送され、そこで意識が回復するまで経過観察が行われるのであった。
「ん……」
それから数日後にアレステアが意識を取り戻した。
「ああ! 意識を取り戻しましたねアレステア卿。今主治医をお呼びします」
「は、はい」
男性看護師がそう言い、初老の医師が呼ばれた。
「異常はないようです。退院しても大丈夫でしょう」
医師はいろいろと検査をやったのちに大丈夫だというお墨付きを与えた。
「今回はアーケミア連合王国のためにありがとうございます、アレステア卿。私の息子も従軍しています。あなたのおかげで辛い戦争も乗り切れるでしょう」
「あ。そ、そうですか。それならよかったです」
医師が感謝の言葉を述べるのにアレステアは少し戸惑う。
「やあ。迎えに来たよ、アレステア君」
「カーウィン先生!」
今回病院に迎えに来てくれたのはルナだ。彼女はアレステアの替えの服などを準備し、車も準備してきた。
「今回は大変だったね。君はよく頑張っているよ。いや、頑張りすぎている。少しは他人に物事を任せて楽をしてもいいんだよ?」
「でも、僕にできることをそのときにちゃんとやっていないと後で後悔しますから」
「できること、というのは自分を傷つけて相手を殺すことかい?」
「それは……」
ルナが否定的に述べるのにアレステアが戸惑う。
「君が傷つくことで痛みを覚えるのは君だけじゃないんだ。君のことを大事に思っている人たちもまた傷つくんだ。それを分かってほしい。君はいい子で愛されている。だから、それだけ君が傷ついたときの周囲の痛みも大きい」
「そう言われるとちょっと自分勝手だったかもしれません……」
「自分を大事にしてほしいんだ。君が傷だらけになって勝利しても私は嬉しくなどないから。お願いだ。自分を犠牲にするのを抑えて……」
「先生……」
ルナはアレステアを抱擁し、アレステアはルナの優しさを感じて心が揺らいだ。
「すまない。少し感情的になってしまったよ。では、行こう。仲間たちが君を待っているよ。それからアーケミア連合王国政府も君に用事があるそうだ」
「アーケミア連合王国政府がですか?」
「ああ。まだ何の用事かは聞いていないけれど、ね」
アレステアの問いにルナはそう答えると準備していた乗用車にアレステアを乗せて、まずは葬送旅団の拠点となっている空軍基地へと向かった。
「アレステア少年! 無事だったね。よかったよ」
「すみません、シャーロットお姉さん。ご心配おかけしました」
「全くだよ。君は無茶し過ぎ。これからはもっと考えて行動しよう。ね?」
「はい」
「絶対その顔は反省してないでしょ。全く、もう」
シャーロットはそう言うとスキットルからウィスキーを喉に流し込んだ。
「アレステア卿。アーケミア連合王国政府より王都クイーンズキャッスルにてパーシヴァル首相がお会いしたいとのことです」
再開を喜んだ後にシーラスヴオ大佐がそう言ってきた。
「首相さんがですか? 何の御用なんでしょうか?」
「分かりませんが今回の勝利に掠るものだと聞いています」
「分かりました」
「では、クイーンズキャッスルに向かう飛行艇を準備します」
アレステアは準備された飛行艇でひとりアーケミア連合王国王都クイーンズキャッスルに向かった。シャーロットやルナたちは葬送旅団という戦力の構成員として前線に留まることになったためだ。
「アレステア卿。ようこそ、クイーンズキャッスルへ。首相がお待ちです」
「あの、どのようなご用件なのかまだ伺っていないのですが」
「それでしたら首相から直接お伝えしますので」
「はあ」
結局何が何やら分からないままにアレステアは高級乗用車でクイーンズキャッスルにある首相官邸へと連れて行かれた。
「首相閣下。アレステア卿がお見えです」
そして、パーシヴァル首相の執務室にアレステアが通される。
「やあ、アレステア卿。今回の勝利についてアーケミア連合王国を代表して感謝の言葉を述べさせてもらおう。あなたは本当の英雄だ。国王陛下もあなたのことを高く評価し、是非ともお会いしたいと仰っている」
パーシヴァル首相は最初から握手を求め、アレステアと握手したのちにそう言った。
「今回はその件で御用だったのでしょうか?」
「それもあるが別にもうひとつ。これはもう既に内定したことだが、あなたを準男爵に爵位を与えるということになっている。エスタシア帝国政府も同意しているものだ」
「準男爵ですか? それはどういうものなのでしょうか?」
「一代貴族というもので外国籍の人物に与えられるものは事実上名誉しか得るものはない。だが、勲章とともに授与されれば大きな名誉となる。国王陛下から爵位とともにメアリー十字勲章も授けられる予定だ」
アレステアがよく分からないという顔をするのにパーシヴァル首相が説明した。
「今回の戦いには僕以外も参加して勝利に貢献しました。他の方には?」
「それについては追々。まずはあなたに授けることになる。よろしいだろうか」
「本当に僕にそれを授けていいのですか? 問題はないのですか?」
「もちろんない。あなたの同意が得られればそれで終わりだ」
パーシヴァル首相はそうアレステアに同意を求めた。
「では、断るのも失礼ですのでお受けします」
アレステアはそう言った。
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