第49話 日本語の日記

 「それで、君達はどうして図書館に来たんだい?何か調べ物かい?」

 「実は数十年前に見つかったと言われる洞窟にアオバの故郷の文字が書かれていると聞いたので資料を探しに来たんです」

 「ふむ、数十年前に見つかった文字が書かれた洞窟といえばオカルト好きが色々考察しているというあれかな、案内しよう」


 ミラに付いていき目的の本棚へと到着した、本棚の立て札には『オカルト』と書かれている。

 ミラが本棚から一冊の資料集を取り出すと近くの机に広げた。


 「恐らくこれだろう、色んな学者が解読を試みたが皆挫折して『全く意味のない落書き、あるいは暗号で書かれていて解読不可能』と結論付けたものだ」


 開かれたページには数枚の写真が載っており、そこには日本語で文字が書かれていた。


 「おぉ、完全に『日本語』ですね…」

 「『ニホンゴ』というのか?本当に読めるのかい?」

 「はい、どうやら暗号とかではなくただの日記みたいですね」

 「日記…ならこの文字は何と読むんだい?」


 ミラは写真に写った文字の中にある一つの漢字を指さした。


 「これは『チキュウ』と読みます」

 「!?…じゃあこれは?」


 ミラは今度はひらがなを指差す。


 「これは『リタイ』と読みます、その上のこの字と合わせて『カエリタイ』で、帰りたいって意味ですね」


 説明を聞いてミラは驚いている。


 「本当に読めているみたいだね…この直線の組み合わせた文字と曲線の文字が同じ言語の文字だということか…実に興味深いね」

 「アオバ、良かったら翻訳して内容を聞かせてもらっても良いかい?」

 「良いですけどあんまり面白いこと書いてないですよ?」

 「ぜひ聞かせてくれ!」


 ミラの目が輝いている、三人の注目を浴びる中アオバは写真に写った日本語の日記を翻訳して読む。


ーーーーー


 転生一日目


 管理者の野郎ふざけやがって、魔法の世界に転生と聞いて浮かれていたのに目が覚めたら全裸で草原にほっぽり出されていた。

 通りがかった人に声をかけてみたが言葉も通じず逃げられた、こんなんでどうすればいいってんだ。

 一人でいる不安を紛らわすのと頭の整理のために日記を記すことにした、とりあえずこの洞窟を拠点に食料の確保をしなければ、近くに川を発見したので水の心配がないのは不幸中の幸いか。


 転生二日目


 とりあえず魔法の練習をした、どうやら俺には火と土の適性があるらしい、火が簡単に起こせるのはありがたい。

 しかし食料がまだ確保できていない、適当な草を食うわけにもいかないので明日には見つけなければ。


 転生三日目


 今日も食料は見つからない、しかし不思議なことに腹が減らない、この状況では良いことなのだが何か体がおかしくなったみたいで落ち着かない。

 そして寂しい、こういうのって可愛い女の子と一緒に旅をするものだろ、何故俺はこんな洞窟で一人で寂しくサバイバルをしているのか。


 転生六日目


 四日目に食料を探しに遠出をしたら六本足の黒い化け物に襲われた、二日間逃げ回ってなんとかここに戻ってこれたがあんなのがいるなんて聞いていない、もうこんな目に合うのは嫌だ、地球に帰りたい。


 転生七日目


 川の近くにあの化け物がいた、俺を追ってきたのだろうか、気づかれる前に何とか逃げることはできたがここがバレるのも時間の問題かもしれない、対抗策を考えなくては。


 転生九日目


 昨日、あの化け物に気付かれたので全力で魔法を叩き込んでみたが全然効いている気配を感じなかった、土魔法で地面に隠れて何とか逃げ切ることができたがもう嫌だ。

 管理者の野郎を殺してやりたい気分だ。


 転生十日目


 もうこのあたりに俺が潜んでいるのがバレているのだろう、あの化け物はこの辺りをうろついている、このままではいずれ殺されるだけだ、明日は一か八か超近距離から全力で魔法を叩き込んでみようと思う。


ーーーーー


 日記はここで終わっている。


 「ふむ、適当に言っているわけではなさそうだね、しかしこんな文字はこの洞窟でしか見たことがない、アオバくん、君はどこから来たんだい?」

 「ニホンという国です…」

 「この星に『ニホン』という国は無いよ」

 「アオバは遠い山奥の田舎の村から来たって言っていましたよ」

 「エミルくん、忘れたのかい?これでも僕の専攻は地質学だよ、この星の国名は全て把握している、それに世界中の文献を見てきたがこんな文字はこの写真でしか見たことがない」


 ミラはアオバに顔を向ける。


 「ついでに言うならその黒い髪の人間も見たことが無い、君は本当にこの星の人間なのかい?」

 「ミラ先生!?」


 どうやら打ち明けるときが来たようだ。

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