第3話襲撃2


「姫、この方は?」


 伝令役の女騎士は俺の事を知らないようだ。


 幾ら自分の配下とは言え、報告ぐらいしておけよ。


――――と内心で姫に毒ずく。


「我が騎士団の外部顧問です」


――――とメイドが答える。


「ああ、没落名家の騎士……了解しました」


 そう言うと騎馬は馬車からはなれて行く……


「姫、私も騎士達と同様に賊を征伐して参ります。

下車の御許可を賜りたく……」


「30程の賊であれば、彼女達の個人技でも十分だと思いますが……良い機会です。彼女達の力をよく見ておくとよいでしょう……」


 などと、険吞なことを言っている。


 精鋭の騎士であれば、野党程度なら問題はない実力を持っている。

 だが相手が騎士であるのなら、その危険は飛躍的に上昇する。


 例えばこの賊が、王子達の私兵や騎士、あるいは支援する立場にいる貴族の騎士であれば、その危険性が伝わり安いだろう。


「では私は、馬車より降りて馬車の警護にあたります」


「どうぞ、ご自由に」


「では……」


 馬車のドアを開け素早く周囲を見渡すと、踏み台を使うことなく車外に飛び出した。


 ――――ザッっ。

 道路の上に飛び散っている砂で滑り、予想よりも馬車から離れた地点に三転で着地する。

 

「ちっ! 街道の整備ぐらいしておけや!」


 毒ずくが、よく考えれば賊が仕掛けたものかもしれない。

 高速で走る馬車がスピンすれば、搭乗者は大怪我を負いかねないからな………


 馬車を背にし頭だけでる状態で、確認出来ていない反対側を確認する。


 近衛騎士達は、統一された鎧を纏い。

 皆一様に、下馬し盾を前に突き出すような姿勢で一定の距離を保っている。


「隊列をくんでいるのか? 戦場では有効だがこういう遭遇戦ではあまり意味がないんだけどな……」


 「はぁ」と内心溜息を付く。


なにが『彼女達の個人技でも十分だと思います。良い機会です。彼女達の力をよく見ておくとよいでしょう』だ!! 

実践経験皆無の素人集団じゃねーか!


 内心でツッコミを入れていると、鈴が転がるような凛とした声音が聞こえた。


火災旋風ファイアストーム!」


 声のする方に視線を移すと、そこに居たのは隊列後方に控えローブを纏った少女だった。

 燃える炎のような赤髪の少女は、腰まで伸びた髪をなびかせ。 

 ごつごつとした瘤のある杖を賊に向けて掲げる。


刹那。


 まばらに布陣した賊の中心に緋色の魔法陣が出現する。

 賊のリーダーと思われる男は、足元に現れる魔法陣を確認すると大きな声を張り上げた。


「散ー開! 散開!」


 だがリーダーが目視し、声を上げたころにはもう遅かった。

 ある者は転がるように逃げ出し、またあるものは全速力で走り逃げようとするもそれを許すほど、近衛の女騎士達の練度は低くない。


「撃て!」


 近衛騎士のリーダーと思われる女の号令を合図に、ボウガンが放たれ逃げ惑う賊を狩とる。

 またそれと同時に、魔法陣から竜巻を伴った火柱が現れ、次々と賊を焼き尽くしていく……



『またあの娘ですか……』


 窓から様子を伺っていた姫は、呆れたような口調で呟いた。

 それに続き亜麻髪のメイドが答える。


『ウェスタ・フォン・ドレスデン。炎神を信奉し火焔魔法こそが、最強最大の魔法であると信じる、火焔魔法バカですか……』


『悪い娘ではないの融通が利かないところが玉に傷なのよ。それがなければ、最年少の高位魔法師候補だったんだけどね』


「賊共! 我が火焔魔法の贄となれ!! もーえろよ! もえろーよ! 炎よもーえーろー! 火ーの粉を巻あーげ てーんまで焦がーせー ははははははははははっ!!」


 車外から聞こえてくるのは、ウェスタの地元に伝わる物騒な民謡であり、その歌詞はデタラメであり恐らくはウェスタのオリジナルであろう。

 少なくとも自分は知らない。


「ウェスタ! 火災旋風ファイアストームを動かして退路を絞って!」


 先ほどと同じ女騎士は、炎魔法を使った魔術師の少女ウェスタに指示を飛ばす。


「了解。ミネヴァ!」


「直ぐに騎乗出来る者は奴らを終え消して逃がすな!」


 撃を飛ばしながら、残党の賊と剣戟を演ずる。


「頭はキレる方だが、やや感情的だな……優秀な上司を付けて副官にすると生きるタイプだな」


 セオリー通り、足の遅い歩兵(直ぐに馬に乗れない騎士)を置いて騎兵による追撃を入れる。というのは下策ではない。だが視野が狭い。


「ダイアナ撃ち抜ける?」


 馬を駈歩かけあしの状態でやや軽装な、桃髪の騎士に話しかける。


「誰にモノを言ってるのかしら……余裕よ!」


 ボウガンではなく、背中に背負った複合弓を馬上で構える。

 騎馬遊牧民は、馬で走りながら矢を射かけてくる。

 と聞いたことがあるが、彼女のそれは想像以上だった。


 弦が震え、つがえた矢が一筋の線のように飛び、まるで吸い寄せられるように賊の背中に命中する。


「ガハっ!」


 駈歩かけあし状態で追い立てる騎兵は、腰にはいした曲がった片刃の刀剣で、すれ違いざまに賊を斬りつける。


 鮮血が飛び散り、整備された街道や土を赤く染める。


 俺があっけに取られていると、ステップを踏みしめ姫が馬車から降りてくる。


「御覧になりまして? 彼女達が私を支える三人です」



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