第9話 剣と名前がついているからといって、剣とは限らない

「攻撃が必中なら堅実にダメージを稼ぐほうがいいと思いまして。クリティカルは強力そうですし、なんとなく」


「それじゃ次はHPとMPの計算――といってもこれは能力値と選んだクラスで自動的に決まるけどね。HPは耐久の三倍に、クラス特典とレベルアップ分をプラスしたもの。MPは精神の三倍に、同じくクラス特典とレベルアップ分を足したものだよ」


「連撃使いのクラス特典がHP+14、MP+10で、レベルアップ分がHP+7とMP+5だから……HP21にMP15。耐久と精神はどっちも3だから+9で、HP30とMP24?」


「正解。それじゃ次はスキルをひとつ選んで。といっても二回攻撃するつもりなら、選択の余地はないんだけど」


「速攻撃ですね」


「そのとおり。ちなみに速攻撃は、使用時に物理攻撃か魔法攻撃かを選べる便利スキルだからね」


「つまり、魔法防御が高い敵には物理攻撃で、物理防御が高い敵には魔法で攻撃できる使い勝手のいいスキルであると」


「そのとおりだね。といってもアクティブスキルや能力値の関係上、結局は魔法攻撃か物理攻撃のどっちかに片寄らせることになるだろうけど」


 彼は連撃使いのページをあらためて見つめた。


「どう成長させるかは今後の君次第ってことで。さて、それじゃ次は武器と防具のページを見て。鉄の等級に分類される武器と防具をひとつずつ選択するんだ。それが君の初期装備になるよ」


 彼はぱらぱらとページをめくった。


「鉄、青銅、白銀、黄金の四種類……等級ということは材質とは無関係なんですか?」


「それどころか形も一致しないよ。その分類はあくまでも性能による区別だから。鉄の剣だからといって鉄製とはかぎらないし、形も剣とはかぎらない。槍かもしれないし、弓かもしれない」


 彼女は肩をすくめた。


「防具も同じさ。重装甲冑だからといって、ごてごてした金属製のプレートアーマーであるとはかぎらないんだ」


「見た目では判断できないわけですね?」


「知りたかったら、能力解析技能っていうのに成功することだね。そうすればわかるよ」


「技能……」


 気にはなったが、ひとまず武器と防具を選ぶことにした。


「鉄の剣と鉄の軽装甲冑が一番オーソドックスみたいですね」


「それじゃ物理攻撃力と魔法攻撃力に+16、物理防御力と魔法防御力に+8されるね」


「+RLってありますけど、武器のほうはそのまま加算、防具のほうは……」


「RL/2だから半分にした数字だね。端数は基本切り捨てだから、RL1の段階じゃ0.5で0扱いだよ」


「なるほど」


「で、物理攻撃力は筋力+武器攻撃力、魔法攻撃力は魔力+武器攻撃力だ。物理防御は耐久+防具、魔法防御は精神+防具が基本になるよ」


「筋力は5だから16を足して21、魔力は6だから16を加えて22。耐久と精神はどっちも3だから8をプラスして11?」


「正解。あとは会心力と行動力だけど、これはスキルとか陣形とかの補正を受ける……んだけど、基本的に会心力は器用の数値そのまま、行動力は敏捷の数値そのままだね」


「つまり会心力は7、行動力は3?」


「はい。よくできました」


 ルーミュはぱちぱちと拍手した。


「さて、重要なことを補足しておこうか。私の世界では、持てるアイテムの数にかぎりがある――といっても、もちろん普通に手や道具を使えば、もっとたくさん持てるんだけどね」


 ここでいう所持品数っていうのは、と彼女は言った。


「いつでも取り出せるように自分だけの空間にしまっておけるアイテムの数だと捉えてくれ」


「自分だけの空間?」


「簡単に言うと、私の世界では筋力の二倍の数までのアイテムを、見えない異空間に収納しておけるのさ。もちろん出し入れできるのは自分だけだよ――戦闘で敗北しちゃったりすると、中身が飛び出すこともあるけどね」


「つまり、負けないかぎり他人にアイテムを盗まれる心配はない、と」


 そのとおりさ、とルーミュは満足げにうなずく。


「アイテムを異空間にしまっておくメリットは多くある。まず手ぶらで行動できること。かさばるものや重いものであっても持ち運びができること。だが、一番重要なのはいつでも取り出し、任意に使えるってことさ」


「任意に……?」


「わかりやすいのが戦闘だね。戦闘中、悠長にかばんをあさって、傷薬を取り出して、ビンのふたを開けて――なんてやっていられないだろう?」


 彼女はやれやれと言わんばかりに首を横に振る。


「しかし異空間にしまっておいたアイテムなら即座に使える。やろうと思えば、装備品の交換だって一瞬でできてしまう」


「防具を一瞬で替えることも?」


「もちろん可能さ。だからこそ無制限ではなく筋力の二倍まで……という制限がついているんだけどね。それに手で持って歩いていると、落としたり盗まれたりするかもしれない。けれど異空間にしまっておけば、そういう心配は無用なわけだ」


「なるほど」


 いまいち想像がつかなかったが、説明を聞くかぎりではとても便利そうだ。


「筋力は5だから、10個のアイテムを合計で持てると。鉄の剣と鉄の軽装甲冑を持っているので、残り8個のアイテムを所有でき――」


「いやいや、10個のアイテムを持てるのさ」


 ルーミュが口をはさんだ。

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