第10話 初めての異世界で初めて捗りました!チーターですが!

 翌日。


 兎角はコロニナへ通じる“次元の綻び”の前に居る。



 防空壕の様に、地面にポッカリと開いた穴。


 戦車や戦闘機等の軍事物資がギリギリそのまま入る位の大きさである。





 その前で、試験の説明。


 パーティー分けの籤引きと、課題の籤引きをクラス単位でする。



 試験は1年生、全員で行われる大規模な試験である。


 パーティー分けも、他のクラスと混成になる。



 そんな中、兎角は、



「ソロで黒龍の鱗回収か」



 所謂、完全にハズレである。



 黒龍の鱗は頑丈で、魔術や魔法を通し難い。


 故に、魔素攻撃は期待出来ない。



 剣技でも硬くて簡単には刃は通らない。


 故に、力任せてで殴っても望み薄である。



 そもそも、黒龍自体が見つけ難い。



 雷雨の日に落雷があれば、パニックになって出て来るのは文献で読んだ。



 そもそも、コロニナの魔獣達は雷が苦手らしく、雷雨が続く雨季は気性が荒くなる。


 そこを狙い目に、珍獣を狩る季節でもあるらしいが……。


 残念ながら、雨季は未だ先である。



 そもそも、雨季になれば広大且つ、水深がそれなりにある湖が平地で形成される。


 なので、動き難くなり、更に難易度が上がる。





 兎角は回りの目から哀れみを感じる。


 他のパーティーに付随しても良いが、黒龍と言う相手が悪く、誰も近寄らない。



「……これは性根を入れるか」



 兎角達、1年生は教員を先頭に、“次元の綻び”の内部を歩く。



 そして---。






 兎角達の世界とは少し色の違う草木と、薄い紫色の空が広がる。



 完全に別世界であった。





 再び整列をさせられ、いつの間にか居た学長が“浮遊”魔術で浮き上がり、上空で音頭を取る。



「それでは、生徒諸君。健闘を祈る。---始め!」



 1年生、全生徒が雄叫びを上げながら突き進む。



 そんな中、兎角は、



「合戦か!---ま、いっか」



 数名、兎角同様に、雑踏が掃けてからゆっくりと進む。


 兎角はのそのそと歩く。



 その最中に、


「愛里熾亜とイツミ……」


 教員と何か言い争いっている愛里熾亜と、イツミはニコヤカにその姿を見ている様子な2人の姿があった。



 2人は兎角に気付いていない。



「ま、ボチボチ行きますか」







 兎角は“次元の綻び”の近くで地面に穴を掘る。



 コロニナに開いた穴は、山裾でポッカリと開いており、トンネルの様になっている。



 ---筆記試験はが終わってから。



 なので、邪魔な代物、筆記用具、試験問題、野宿セットは予め持って来ていた金属の箱に入れて埋める。


 完全防水、完全密閉なので、水没はしない。





 兎角は刀1本で行く。



「さて、早速、巣を突くかな?」



 兎角はカラコンを外す。


 魔圧は抑えない。 


 少し空気が揺れるが気にしない。


 怪しく光る金色の右目が熱い……。



 そのまま、目立たない場所で“空中浮遊”をする。


 魔素攻撃と魔法はリソースが違うので、同時展開が可能。


 このお陰で、魔素に属性を乗せて攻撃が出来る訳だが……。



「目測ヨシ」



 魔素を集める。


 それは無数に形成し、ミサイルの様な形状へ変化させる。



 そして。



 兎角は右目を『魔眼でない』と過去に言ったが、“透視能力”が付いている。


 本職の忍者程ではないが、精度は悪くない。


 それである程度、目標位置を絞る。



「薙ぎ……払え---‼︎」



 ミサイルと化した魔素に“雷属性”を乗せて一斉掃射。



 それは音速を超えて進む。



 無数のミサイル型魔素の塊は全弾命中。





 ドゴーーーーン。





 地鳴りと地震が起きる。



 兎角はそれを“透視能力”で観察する。



 激しい土煙が舞う。


 その中から何かの影が真上に飛んで行く。


 兎角はそれを目で追うが、見失う。



 土煙で山がどうなったかは見えない。


 慌てた教員や野次馬生徒がその山へ向かう姿を、兎角は見る。




 兎角は更に上昇する。


 引き続き、“透視能力”で黒龍を探す。



「あれかな?」



 雲が発生する高度の辺り。


 航空機が飛んでいる様な高さよりかは低い。



 次に兎角は予め、圧縮詠唱でとある魔法を半展開。



 念の為、刀を抜く。





「飛翔!」



“空中浮遊”を解除し、黒龍へ一気に飛ぶ。





 飛行魔法は便利な反面、空間失調症で墜落の危険性がある。


 なので、短時間決戦である。




 黒龍へ徐々に距離を詰める。


 兎角に気付いた黒龍が兎角へ突っ込んで来る。



「雷神よ!恵の雨を降らせたまえ‼︎」



 兎角は予め半展開していた、狭い範囲で天候を操る魔法を展開。


 雷神の下りは関係無いが、元は局所的に雨を降らす魔法である。


 その瞬間、黒龍の回りに雷雲が発生。



 黒龍は怯んで止まる。



 その瞬間---。



 『バリバリ』と言う音と共に、黒龍へ落雷。



 感電した黒龍は意識を失い、地面へ真っ逆さまへ落ちる





 結果。





 黒龍は頭からそのまま地面に叩きつけられる。


 首はあらぬ曲がり方をし、腹部の装甲が薄い場所が内臓破裂で、内臓が飛び散る。



「うげぇ、やばば」


 兎角は“透視”で黒龍が絶命したのを確認。



 ゆっくりと“飛翔”でその場へ向かう。



 試験会場からかなり遠く離れた場所の荒野なので、誰も居ない。



 近付くと、クレーターの中心で肉塊となり、最早ナニかすら、判別は難しい。



「ま、こんなモンか」



 兎角は黒龍に近付き、半分満足しながら黒龍の鱗を、コツを駆使して回収する。



 これで兎角の実技試験は終わったのであった。










 ---兎角は直接、黒龍へ攻撃したのではない。


 魔法属性が乗るのは発生した雨雲のみ。



 副産物の雷の元を作っただけで、雷自体は自然発生したモノである。


 故に、黒龍は超高電圧な雷で感電したのである。



 ---雷が苦手と言う事は、雷で感電するのを恐れている?



 兎角のそんな安易な予想が見事に的中。


 雷雲で黒龍に水分が付いたのも功をなし、絶縁破壊も様な現象が起きた可能性もあるが……。





 兎に角、兎角は黒龍の鱗回収に成功。



 それを幾つか抱え、また“飛翔”魔法で上空をゆっくり飛ぶ。



“透視”で削れた山の前で、幾人か教員と生徒が唖然としているのを観察する。


 中には泣いている生徒も……?



 兎角は空気がが吸えるギリギリラインで飛んでいるので、気付かれない。


 教員の横でイツミがゲラゲラ笑っているのが印象的だが、


「お、目が合った?」


 イツミが真上を見て、最高に悪い笑顔をしていた。



「---んな訳無いか」



 そう呟きながら兎角は『本部』へ向かうのであった。







『本部』へ着くと、一部の教員は慌てていた。



 兎角が削った山は、他の生徒が試験課題で立ち入る先だったらしい。


 兎角はその人達が立ち入る前に破壊したので、死人も怪我人も出ては居ない筈……。



 しかし、愛里熾亜が非常に怖い顔で兎角を待っていた。



 目が座り、三白眼が更に鋭くなる。


「……」


 無言の圧力が怖い。



 兎角はそれを無視して、教員へ先ずは鱗を渡す。



 教員は戸惑いつつも、受け取る。


「実技課題はクリア。---筆記試験は?」


「これからです」


「判った」


 教員が数名掛かりで鱗を回収し、どこかへ運んで行った。



 兎角は踵を返して、筆記試験の用紙を回収しに行こうとすると、


「よくもやってくれたのう?」


 愛里熾亜が、立ちはだかる。



 兎角は、


「えっと……?何か問題でも?」


 そう問うと、兎角は愛里熾亜に『パン』と頬を引っ叩かれた。


 兎角も瞬時に『パン』と叩き返す。



「何すんだよ、三下」



 兎角も目が座る。


 先程までの、のほほんとした雰囲気でなく、愛里熾亜同様の鋭い目付きで。



 愛里熾亜は静かに言う。


「能ある鷹は爪を隠す」


「あっ、そう」



 兎角は興味が無さそうに言う。



「お主の様な力を表立って誇示する人間は嫌いじゃ」



 愛里熾亜の声が震える。



「あ、うん?今までそんな忠告、一切していなかったのに、急になんだ?不都合でもあんのか?ああ?」



 これに愛里熾亜は、



「やはりお主、猫を被ってたか?」



 と、失望した様子だった。


「失礼な。僕は僕。---何も言わずに僕の頬を引っ叩いて、機嫌を悪くさせたお前が悪い」


「ほう。では優しく言えば良かったのじゃな?」


「当たり前だ」


「無理じゃ。---この怒りは抑えきれぬ」



 これに兎角は少し考える。



「イツミとグルか?」



(昨日のイツミの発言と何か関係が……?)



 ここで、イツミが空から降りて来た。


 イツミも飛行魔法が使えるのか、『シュタ』っと両足で降りて、そのまま少し小走りで、


「よくやってくれたよ、兎角!---流石だね!」


 兎角に飛び込み、抱き付いた。



「いたたたたたた」



 腕力が強く、そのまま飛び跳ねるモノなので、兎角は痛がる。



 愛里熾亜は溜め息を吐く。


「やはり、大喜びか」


「そりゃそうだよ。あの忌々しい黒龍を討伐しちゃうんだから!」


「やはり、それが目的じゃったか」


 愛里熾亜は呆れる。


「これで兎角をコロニナへ移住させる口実が出来た。ボクの花婿候補でも推せるよ!」


「そ、それは待つのじゃ!」


「えー、何で愛里熾亜が止めるのー?」



 イツミはそのまま兎角を愛里熾亜から距離を置こうとさせる。



「---ああ、この胸の高鳴りは今からでも、永住権を与えたいレベルだ」


 兎角はそんなイツミに水を差す。



「そろそろ、次の課題、行って良いですか?」



 縄抜けの術の如く、兎角はスルリとイツミから離れる。


 イツミは「え、あ、うん」と、縄抜けの術に少し驚く。



「それじゃ」


「うん、行ってらっしゃい。ありがとう、ホント、予見通りに討伐してくれて」


 イツミは兎角から離れる。



「……」



 兎角は口をへの字にしてイツミを見る。



 イツミは苦笑いをしながら言う。



「はは。流石バカ統閣」



 兎角はイツミに近付き、


「次にそれを言うなら、殴り飛ばすぞ」


 その怒りの表情にイツミは怯む。


「あ、うん、ごめん、なさい」


「別に試されたのは良いけど、人の呼び方には気を付けようね」



 そのまま「ふん」鼻で笑い、でその場を去ろうとし、踵を返す。



「そうだ、イツミ。僕は異世界探索部、辞めるよ。……そこに居る『次期魔王』様とはどうもソリが合わないみたいでね。---んじゃ」



 そう言って、兎角は少しわざとらしく、“飛翔”で飛び去るのであった。





 兎角はそのあと、筆記試験もさっさと終わらせて、晩飯時には解答用紙を『本部』へ提出。


 そのまま受理をされて、試験終了となった。



 試験結果は半月後。



 イツミから、部活の継続をするなら、特別な計らいをする旨を言われたが、無視をした。


(……気持ちが冷めるってこう言う事を言うんだな)

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