3

“仕事以外で俺に関わってこないなら会長が担当でもいい。”




そう言っていたニャン。




月曜日の定時前、ニャンから事務所の私宛に電話が掛かってきた。

深刻そうな声で「仕事のことで来て欲しい」と言って。




所長に報告をしたらこれから出掛ける所でもあったからか「行ってこい!」とだけ言われた。

個人の顧客先、それも自宅への訪問なのに私1人で・・・。




「高校の同級生だしね・・・。」




601号室ではなく602号室の扉の前で深呼吸をする。

601号室は仕事用の部屋、そこではなく居住用の602号室に来るように言われたから。




土曜日に払われた手でインターフォンを押す。




そしたら、思っていたよりもずっと早く開いた。




「ごめん・・・。」




ニャンの真っ白な肌にクマが出来ているのが分かる。




「朝も昼も夜も、ニャンが何処にいようと、何をしていようと、ニャンの所に向かえるって私が言ったからね。」




そう答えながら促された玄関に入った。

そこそこ散らかっている3LDKくらいの部屋の中はジロジロ見ないようにニャンの後に続いた。




ダイニングテーブルの椅子に座るとニャンが私の斜め向かい側に座った。

仕事のことなのかと思っていたけれど、テーブルの上にはヒヤリングの時にはあったノートパソコンや資料が何もない。




お茶も出てこない中、ニャンが深刻な顔をしたまま俯いている。




「ニャン、仕事で何かあったの?」




「うん・・・。」




「どうしたの?」




私が聞くとニャンが少し無言になった後・・・




「好きな女の子がいなくなった・・・。」




それには驚き過ぎて何も言えない。




何も言えない私にニャンが顔をゆっくりと上げ、私の顔をジッと見詰めてきた。




そして、無表情のまま・・・




「カヤ・・・。」




と、久しぶりに私の名前を呼んで・・・




「俺とセックスしてくれない・・・?」




そんなことを言われた・・・。




どんな流れでニャンと付き合えるのかとずっと楽しみにしていた。

ニャンと再会したらニャンはどんな風に私と接してくれるのかとずっと楽しみにしてしまっていた。




無表情のまま、私を見ているようで見ていないニャンの瞳を見る。




「好きな女の子がいなくなったのに私とエッチしてる場合じゃないよ。

いついなくなったの?スマホの電源は入ってた?

どこに住んでるか知ってるの?

親御さんとか・・・場合によっては警察に届け出た方がいいんじゃない?」




そう言いながら意識を集中させてみる・・・。

当てようと思ってこの力を使ったことはないけれど、ニャンの好きな女の子が今何処にいるのかを当てられるように・・・。




でも・・・




「やっぱりいい、忘れて。」




ニャンが小さく笑いながら椅子から立ち上がった。

そして目の下にクマがある顔で私のことをジッと見てくる。




「わざわざ来てくれたのにごめん、なかったことにして。」




そう言われてしまって・・・




私は立ち上がり、ニャンがフラフラと歩く後ろについて廊下を歩き・・・




「じゃあ・・・。」




虚ろな目で私の顔を見ながら、ニャンは602号室の扉を閉めた。

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