第88.5話 『 朝倉海斗と才女様の気まぐれ 』
ほどなくして琉莉の自宅へ招かれたわけだが、
「急に来られたから粗茶くらいしか用意できないけど、許してね」
「あ、あぁ」
ぎこちなく頷く俺を一瞥して、琉莉はキッチンへと消えた。
「(……まぁ、当然リビングだわなぁ)」
俺が現在居るのは琉莉宅のリビング。ここで彼女の部屋に招かれたなら激熱な展開だったんだが、現実はそう上手くはいかない。
それでも家に上げてくれただけマシ、と自分に言い聞かせていると、キッチンから麦茶が注がれたグラスを持ってきた琉莉が戻ってきた。
「はい。どうぞ」
「お、おう。ありがと」
ぎこちなくお礼を言って、琉莉からグラスを受け取る。
緊張からか余計に喉が渇いて、俺は受け取った麦茶をすぐに口に運んだ。キンキンに冷えた麦茶が食道を通ってく快感に浸っていると、対面席に座った琉莉が「それで?」と眉根を寄せた。
「いきなり人の家に押しかけて何の用?」
「それはその、えっとだな」
俺はグラスを置くと、持ってきたバッグからとある物を引っ張り出す。
そして、それを琉莉に見せるように掲げて、
「夏休みの課題! 一緒にやらないかと思って」
緊張によりぎこちない笑みを貼りつかせながら誘う俺に、琉莉ははぁ、と呆れた風な嘆息をこぼすと、
「学校の課題ならもうとっくに終わってる」
「マジで⁉ まだ夏休み始まって一週間も経ってないんだぞ⁉」
「進学校じゃない高校の課題なんて少ないんだからすぐに終わるに決まってるでしょ」
え、これって少ない方なの? 俺的には多い方だと思うんだけど。
やはりバカと秀才では脳みその構造が違うのかと驚嘆としている俺に、琉莉はグラスに唇をつけながら言った。
「勘違いしてるみたいだけど、べつに私が特別早いわけじゃないからね。一年生から進学を視野に入れてる人はこんな課題とっくに終わらせて模試や過去問、予習復習に既に取り掛かってるんじゃないかな。帆織くんももう終わらせてるはずだよ」
「え、琉莉って帆織と連絡取り合ってんの?」
「連絡先は交換したけど頻繁に取り合ってはいないよ。でも夏休み前にあった委員会の集合の時に少しだけ話したんだ。今回の課題はすぐに終わりそうだねって」
「ほえー」
そういや智景も成績上位者だもんな。普段はオタクでゲーマーだから忘れがちだけど、アイツもめっちゃ頭いいんだよな。教えるのもうめぇし。
やはり頭いい連中は出来がちげえや、とまた勝手に落ち込んでいると、琉莉はそんな俺には興味もないようで話を続けていた。
「だから私はもう既に自主学習に取り掛かってるよ。夏休みはいいよね。好きな時間に好きなだけ勉強ができて、好きな時に本が読める」
「外出ない気マンマンだな」
「むしろ逆に聞きたいね。この炎天下の最中、外に出ることになんのメリットがあるのさ」
この引きこもり幼馴染、陰を極めてやがる。
「お前、智景だって映画観に外に出てんだから、たまには外に出ろよ」
「映画なんて家で十分でしょ。それに外なら出てるよ。陽ざしが落ち始めた頃にね」
「徹底した引きこもりっぷりだなー」
ドヤ顔で言う事ではねぇ。しかしコイツのドヤ顔超可愛いな。写真撮りたいくらいだ。
下らない欲求は胸に仕舞っておいて、
「はぁ。まぁとにもかくにも、琉莉はもう課題終わってるんだな」
つーことはここに来たのは無駄足だったわけだ。さらばプランA。ちなみに、プランBはない。マジで何しに来たんだ俺。アホすぎるだろ。
俺が落胆とともに勉強道具をバッグに仕舞おうとすると、
「え?」
と驚くような声が聞こえた。
その声に振り向けば、琉莉が俺バッグに仕舞おうとしていた勉強道具を交互に見ていて、
「していかないの?」
「ひょえ?」
何を言われたのか理解できず呆ける俺に、琉莉は「だから」と継ぐと、
「勉強、していかないの?」
え?
「……いいんすか?」
「いいんすかって、海斗は勉強するつもりで来たんでしょ」
「でもお前、もう課題終わってるんじゃ……」
「終わってるよ」
狼狽しながら聞き返せば、琉莉はこくりと頷き言った。
「せっかく来たんだから勉強していきなよ。この炎天下の中とんぼ帰りさせるのもなんだか申し訳ないし。私は私の勉強するから」
それってつまり……。
硬直する俺に、琉莉は可憐な微笑みを向けながら、
「それにどうせなら、海斗の勉強見てあげるよ」
「――マジすか」
才女によって砕け散ったプランA。しかしそれは、才女の気まぐれにより思わぬ復活を遂げたのだった。
【あとがき】
2件のレビューをして頂きました。
そして皆様の応援のおかげでアマガミさんは、
ラブコメ部門・週間100圏内に入ることができました!
次は50位圏内か? とにかく更新引き続き頑張ります。
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