第87話 『 これがオタク。これぞオタク 』

「「今年の夏映画はサイコーだった」」


 シアターから退場した僕らがまず初めに声にしたのは、感動と興奮だった。

 夏休みが始まってすぐに僕がしたことは、ゲーム仲間でオタク友達でもある誠二くんと毎年恒例の特撮映画鑑賞だった。

 他の友達が僕とアマガミさんの関係を心配していることはつゆ知らず、僕は誠二くんと感想を伝え合う。


「ティザーPⅤから今年はかなり期待してたけど、それを超える面白さだったよ」

「同感しかないでござる。戦隊はこれまで放送されていた話のまさに集大成といった感じで、キング殿が民の前で王冠を被るシーンは最高以外の言葉が出なかったでござるな」

「あそこはヤバかった。思わず拍手しそうになっちゃったもん」

「そして大注目であった仮面ラ〇ダーは、今年はまさかのプ〇キュア要素が取り込んでくるとは。想像もしていなかったでござる」

「まさか貰った入場者特典のIDプレートがペンライトの代わりになるとはね」

「これも今作ならではの特徴ですな。作品の設定を上手く活かしている。流石は西映」

「そこも良かったけどやっぱり本編だよね。これまでは最強キャラだった主人公が分裂による大幅な弱体化。敵に力も吸収されちゃったけど、最後に残った『心』っていう力と仲間たちと築き上げた『絆』で逆転した展開は、正直言ってオタクを興奮させる要素しかないよね!」

「この映画は個人的に歴代ラ〇ダー映画の中でかなり上位に入る出来でしたよ」

「異論なし。一年間追い続けてよかったと思える映画だった」


 お互い体内の熱を排出するように息を吐く。

 感想の続きはまたファミレスでするとして、僕と誠二くんは外に出るべく歩き出す。


「やっぱり皆けっこうグッズ買ってるね」

「ですな。物販先に勝っておいてよかったでござる」

「ね。この様子だと、もう売り切れてるものありそうだ」

「この盛り上がりを見ると、今年のラ〇ダーは本当に大人気だったのが分かりますな」

「なにせ変身アイテムはもう卒業した僕がつい衝動買いしちゃったくらいだからね。とにかく劇中でのアイテムの魅せ方が上手だったよね」

「おかげでお小遣いがカツカツでござる」

「あはは。コミケもあるのに大変だねぇ」


 オタクって本当に出費が多い。でもその分、好きなもので満たされる幸福感は言葉では形容できないものを僕らに与えてくれる。

 やはりオタク文化は素晴らしい。オタク最高。オタクしか勝たん!


「そういえば、ボッチ氏は今年の夏コミは参加するのでござるか?」

「うーん。どうしよっか。行こうか迷ってる」


 オタクならば行かねば無作法というもの、とは理解しているけど、正直来月の予定がどうなるか分からない。

 もしかしたらアマガミさんと出かける予定ができるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


「(まだ夏休みは始まったばかり。でも、アマガミさん忙しそうだから連絡しづらいんだよな)」


 アマガミさんはどうやら今年の夏休みはガッツリ稼ぐ予定らしい。

 アマガミさんは気軽に連絡して構わないと言ってくれたけど、頑張ってる彼女の邪魔はしたくなかった。

 だから、僕は夏休みに入ってからまだ一度もアマガミさんと連絡を取っていない。

 アマガミさんからも、連絡が来ることはなかった。


「一応行く予定ではあるから、その日はバイト休みを入れるつもりだよ」

「承知したでござる。くれぐれも無理はせずに。もし無理な場合でも、何か欲しい同人誌があれば拙者に伝言くだされ。買っておくでござる」

「ふふっ。ありがとう誠二くん。キミは本当に優しいね」


 僕が感謝を伝えると、誠二くんは何故か頬を朱に染めて、


「……ボッチ氏は本当に罪な男でござるな」

「え? 僕何かしちゃったかな?」

「無自覚な人心掌握。これは大罪でござる」


 ぶつぶつと一人で何か呟く誠二くん。

 僕はそんな友達の腕を掴みながら、どういう意味なのか訊ねる。


「ねーねー。それってどういう意味なのさー」

「そのままの意味でござるよ。ボッチ氏は人の心を弄ぶ大罪人でござる」

「そんな酷いことした覚えないけど⁉」

「ほら無自覚。これでは天刈愛美もさぞかし苦労してるでござるだろうな」


 やれやれと重いため息を吐く誠二くんに、僕は眉根を寄せるばかりだった。

 思案する僕に、誠二くんは促すように手を叩くと、


「ささ、ボッチ氏。詮索はここまでにして次の買い物に行くでござるよ。今日は久しぶりにオタク仲間と買い物できるのでござるから、拙者の気が済むまで買い物に付き合ってもらうでござる」

「よし来た。僕も今日はたくさん買っちゃうぞー!」

「あははっ! 本当にボッチ氏と遊ぶのは楽しいでござるな。……やはりキミは、拙者の唯一無二の親友でござる」


 ぽつりと、小さく呟かれた感謝は僕には聞こえない。けれど誠二くんの微笑みは、心の底から今日という日を楽しんでいるように見えた。


「ねね、次はどこ行こっか⁉ ダマシイステーションでフィギュアでも見に行く⁉ あ、そういえばミケ先生の展示会もやってなかったっけ⁉」

「そうでござったー⁉ こうしちゃいられませんぞボッチ氏! 早速ミケ様の展示会に行かねば! これは彼女のファンとしては義務でござるよ!」


 こうして僕らオタク二人組は、実にオタクらしい夏休みを満喫していくのだった。


「「夏休みサイコー! ふーっ!」」

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