第78話 『 アマガミさんとお泊り会③ 』

 夜も深まり、残すは就寝だけとなったのだが、


「いいや、あたしが下で寝る」

「いいやっ、アマガミさんこそここで寝てくださいっ」


 僕とアマガミさんは現在、とある理由で揉めている真っ最中だった。

 その理由というのは――、


「アマガミさんをソファで寝かせるなんてできないよ。だから僕のベッド使ってください」

「お前はこの家の住人でこの部屋の主だろ。そんな奴追い出してベッドで寝るなんてできるわけがねえ!」


 どちらが僕のベッドで寝るか、だった。


「女の子をソファで寝かせるって、男としてはありえないことだからね!」

「この部屋の主人を追い出してそいつのベッドで寝る客とか、神経イカれてるからな⁉」


 お互いに主張を譲らず、口論は白熱するばかり。


「いいか。あたしは来客だ。しかも家に帰れなくなって泊ったっつー迷惑客だぞ。なら少しくらい冷たくあしらえ!」

「何言ってるのさ。アマガミさんは大事なお客さんだよ。だからこそ、硬いソファじゃなくて僕のベッドで寝てほしいの。なのでもっと素直に甘えてください!」

「そもそもお前はあたしを甘やかし過ぎなんだよ! いつもいつも世話を焼くだけじゃなくてワガママにまで付き合いやがって、このままじゃマジでボッチなしじゃ生きられなくなるだろうが!」

「だってアマガミさんを甘やかしたくなっちゃうんだもん!」

「だもん。じゃねえ! こっちの気も知らずに甘やかしてきやがって。少しは考えて動け!」

「じゃあこれからは少し距離置きますか⁉」

「それだけは絶対ヤダ!」

「でしょお! 僕もアマガミさんと距離置くの嫌だからね!」


 ぜぇぜぇ。お互いに荒い息を吐いて睨み合い、


「「……あれ? 僕(あたし)ら何で喧嘩してたっけ?」」


 途中から本題がずれていることにようやく気付く。

 僕とアマガミさんは互いに首を捻ると、ほぼ同時に「あぁ」と思い出す。


「……ボッチ。これじゃあ埒が明かねえな」

「そうだね。ならここはもう、勝負でどっちがベッドで寝るか決めるしかないんじゃない?」

「妙案だな。しかし勝負か。じゃんけんか?」


 安直な提案を出すアマガミさんに、僕は「ちっちっちっ」と指を振った。


「アマガミさん。そんな簡単な勝負で勝敗を決していいと思ってるの?」

「いやこれがすぐに決まるだろ」

「ハッ。ならその考えは愚考だね」

「んだとこら。ならあたしの考えをバカにしたボッチはさぞかしいい案を出してくれるんだろうなぁ?」


 僕の嘲笑を挑発と受け取ったアマガミさんが鋭い双眸で睨んでくる。僕はそれに「もちろん」と力強く頷くと、僕はとある場所に向かって歩き始めた。

 向かう先は、ゲーム棚。

 そこに置かれている一本のゲームパッケージを手に取ると、水戸〇門が印籠を突き出すが如くそれを突き出した。


「桃鉄で勝負しよう!」

「いやそれめっちゃ時間掛かるやつ!」


 僕が勝負に選んだゲーム『桃次郎電鉄』を見たアマガミさんが盛大にツッコむ。


「もうそれ、ただボッチが遊びたいだけだろ!」

「そ、そんなことないよ。勝負といえばこれでしょ!」

「な訳あるか! つか露骨にキョドってんじゃねえか!」


 指を指して指摘してくるアマガミさん。僕はさらに露骨に視線を逸らす。


「とにかく、桃鉄やろうよ! やっぱ友達が泊りに来たってなったら絶対にこれはやらないと!」

「もう確信犯じゃねえか。はぁ。それで寝落ちしても知らねえからな」

「あはは。アマガミさんやる気だねぇ。まさか99年をご所望とは」

「あたしをもう一日泊まらせる気かっ! 寝落ちするまでやりたいって言ってるわけじゃねえよ! 普通に10年くらいにしろ!」

「えぇ。僕は今日はオールでも全然構わないのに」

「……明日バイトがあるやつの台詞じゃねえだろ」


 はぁ、とため息を吐きつつも、アマガミさんはゲーム機の前にどかっと座ると、僕に向かってくいくいと指を振った。


「ほれ、桃鉄やんだろ」

「――っ。うん! やろう!」

「たくっ。言っとくけど、これで負けた奴がソファで寝るんだからな。文句なしだぞ」

「あ、それだと僕がベッドで寝ることになるかも」

「ほほぉ。随分とまぁ舐められたもんだなぁ。ぜってぇボッチをビリにしてやる」

「ふふっ。望むところだよ」


 日付が変わるおよそ一時間前。僕らはゲーム画面を挟んで火花を散らす。

 今日という日は、まだ終わらない。

 僕とアマガミさんの絆は深まっていくばかりだった。



【あとがき】

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