第63話 『 アマガミさんVS水野さん 』
「おーい。ボッチー。ちゃんと仕事やってかー」
「アマガミさん⁉」
引き続きお昼休み。
カララと扉が音と共に来訪したのは、なんと図書館の静謐な空気とは絶望的に似合わないヤンキーだった。
咄嗟に席から立ち上がってしまった僕は、周りの人たちに頭を下げてからアマガミさん元へ向かった。
「どうしたの図書室なんか来て。絶対に来ない場所だと思ったのに」
「どういう意味だこら。あたしだって図書室くらい行くっつの。まぁ、その理由もボッチに会いに来たんだけどさ」
暇だから会いに来た、と笑いながら図書室に来た経緯を明かしたアマガミさん。僕に会いたくて来てくれたことは素直に嬉しいけど、うん。あれだね。なんか場違い感とういうか、異質感が凄まじいな。
「白縫さんは?」
「今日も一緒にメシ食ったよ。で、食べ終わってアイツがトイレに行ってる隙に逃げてきた」
「あはは。まだ仲良くはなれてないみたいだね」
「あれとは馬が合わねえんだよ」
どうやらココに来たのは白縫さんから逃げてきたのも理由にあるらしい。
思わず苦笑してしまう僕。アマガミさんはというと、図書室を興味深そうに観察していた。
「へー。この学校の図書室初めて来たけど。こんな風になってんのか」
「……初めて来たんだ」
「普段来るような場所でもないだろ。おっ。ボッチの大好きなコーナーがある」
どういう意味かと視線を追えば、なるほど。ライトノベルコーナーのことだった。
「せっかくだし何か借りていったら?」
「いいよ。ボッチの家にあるやつで十分だ。それにあたしは漫画の方が好きだしな」
既に図書室に興味をなくしたように爪をいじり始めるアマガミさん。
そうして会話をしていると、
「図書室ではお静かに」
「あ、ごめんね水野さん」
受け付けから僕らのことをジッと観ていた水野さんに注意されてしまった。
慌てて謝る僕。しかしアマガミさんは水野さんのことを鋭い目つきで睨んでいた。
僕は慌てて二人を仲裁する形で真ん中に移動すると、
「アマガミさん。紹介するね、彼女は水野琉莉さん。僕と同じ図書委員でクラスメイト。名前くらいは……」
「知らねぇ」
と即座に否定するアマガミさん。それに僕は苦笑するかない。
なおも視線を鋭くしたまま水野さんを睨むアマガミさんに、水野さんは屹然と対応した。
「私はアナタのことを知ってますよ。はぐれ狼のくせに孤高を装っていた見栄っ張りの狼さん」
「あぁ? 喧嘩売ってなら買うぞ」
え。なんでバチバチと火花が散ってるの⁉
狼狽する僕を余所に、眉間に皺を寄せる二人の応酬が始まる。
「うふふ。べつに売ってませんよ。性格はともかく綺麗な容姿をしてるんですから、さっさと手を繋がれて日陰から退場したらどうです? 貴方に日陰は似合いませんよ」
「なに自分が頭いいですよみたいな発言してんだお前。何か言いたいことあるならもっと直接的に言えや。何ってるか全然理解できねぇ」
「理解できないのは理解する気がないからでは? アナタの隣にいる帆織くんは私の言葉をちゃんと理解してくれますよ」
水野さんがそう言った瞬間、アマガミさんがバッと勢いよく僕に振り向いた。
「あの女の言ってること、ボッチは理解できんのか」
「う、うん。独特だけどそこがいいっていうか、話してて面白い人だよ水野さんは」
「――なっ」
「ふふん」
ぎこちなく答えると、水野さんは誇らしげに、アマガミさんは悔しそうに頬を膨らませた。
「私のことを理解しようとする人はいないけど、帆織くんは私を理解しようとしてくれている。それに、好みも意外と似てるみたいなの」
「おい。お前、さっきから調子に乗ってペラペラと……」
アマガミさんは視線をより鋭利にして水野さんを睨みつけたあと、予備動作なしに僕の腕を掴んで、そしてぎゅっと抱き寄せた。
驚く僕。目を見開く水野さんに、アマガミさんは声を張り上げて告げた。
「いいか! ボッチはあたしのもんだ! 誰にも渡さねえし渡すつもりもねえ。そこんとこよく覚えときな!」
ビシッ! と水野さんに向かって中指を立てながら堂々と僕のことを自分のものだと主張するアマガミさん。
そんなアマガミさんの宣言に、水野さんはわずかに驚きを顔に表すも、しかしすぐに凛とした表情に戻った。そして、唇に一指し指を当てると、
「図書室ではお静かに。次叫んだら出禁にします。帆織くんも含めて」
「なんで僕まで⁉」
「ふん。いけすかねえ女だ。忠告通り今日はもう帰ってやらぁ。でも、あたしが観てないからってボッチに手ぇ出すんじゃねえぞ」
「ご心配なさらず。私と帆織くんはただの同じ委員会なだけなので」
露骨に敵意をぶつけるアマガミさんに、水野さんは臆することなく爽やかな笑みで応じる。……水野さんて意外と度胸あるんだな。僕だったらアルマジロのごとく背中を丸めているだろうに。
それからアマガミさんは「ふんっ」と鼻息を強くならすと、僕を離して図書室から出て行こうとした。
が、扉を開く直前でピタリと手を止めると、再び僕に振り返ってきて、
「ボッチ。今日の放課後、分かってるよな?」
「え、何が?」
「分かってるよなあ?」
「は、はい! 分かっております!」
只ならぬ圧を放ちながら迫るアマガミさんに、僕は訳が分からないままとりあえず敬礼した。
「分かればよし。……仕事頑張れよ」
「あ、うん。また教室でね」
今度こそ図書室から出て行ったアマガミさん。
彼女が出て行った扉を茫然と眺める僕は、ぱちぱちと目を瞬かせて、
「……結局、あれはどういう意味だったんろう?」
何も分からない僕は、ただ放課後アマガミさんに半殺しにされないことだけを祈るのだった。
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