第17話 ニュース

 その日、歌姫マナがダンジョンを踏破したというニュースはネットニュースという形で全国を駆け巡った。日本で新たな星持ちが誕生したと。そしてその星持ちの探索者は未成年の少女であると。


『配信見てみたけどあの力は異常だね』

『高校生にしてあの実力を持っているのは将来が楽しみだ』

『そうか? 俺が高校生の時もあんくらい強かった気がするが』

『そういうのはダンジョン踏破してから言え』

『確かこの子ってアンノウンの職業だったよね』

『アンノウンか。そりゃ強いわけだ』

『てか可愛くね?』

『いや仮面で隠してるから分からないよ』

『仮面外したら普通の女子高生だってきっと』

『最初の盗撮動画で顔わかるくね?』

『遠目だし何とも言えないな。それに画質も粗いし』

『いやお前ら未成年の正体暴こうとしてやんなよ。未来ある子だぞ?』

 

 あらゆるネットニュースのコメント欄にコメントが押し寄せてくる。主に議論されるのは流星の如く現れた仮面配信者である歌姫マナの正体である。


 しかし、その正体を知っているのは本人、そして彼女の家族とたった一人の親友、楽曲製作にかかわったスタッフだけである。


 かくして謎の歌姫マナの存在は本人の知らぬところで次々に拡散されていくのであった。



 ♢



 フォロワーさんに教えられてネットニュースの記事を見る。記事の題名は「流星の如く現れた超新星、歌姫マナがダンジョン踏破!」だ。


 その題名を見て一人ニヤついている自分が居る。まさか自分がネットニュースに載るとも思わなかったからである。

 

 でもこういうのって許可取りとか来ないのかな? それとも私が気付かなかっただけで実は来てたとか?


 嫌な内容ではなく寧ろ気分の良くなる内容だったから別に気にしてないけど。


「MVも結構再生回数回ってるみたいだし良かった」


 一日しか経過していないがもう既に百万回を突破している。SNSにもたくさん感想が送られてきてまさに天にも昇るような心地であった。


 後はダンジョン踏破をしたことでその証となるバッジを貰いに行くことになったわけだけど……。


「どうやって貰いに行けばいいんだろ」


 正体がバレないようにダンジョンを管理しているダンジョン協会の本部へと足を運ばなければならないわけなんだけど果たして仮面を着けたままの授与が許されるのかどうか、本名を教えないといけないのかどうか。その点が気がかりであった。


 そんなことを考えながら届いたダンジョン協会からのメールの文面とにらめっこしている。

 しかし、どこをどう読んでもそんなことは書いておらず困っていたのだ。バッジを貰いにいかないという選択肢は今のところない。


 そんなことしたら多分荒れちゃうし。


「そういえばAZUSAさんも星持ちだったよね? せっかくだしAZUSAさんに連絡して聞いてみようかな?」


 でも忙しくて迷惑なんじゃないかなって少し躊躇する。あ~、どうしよう。そんなことを考えていると、仕事用アカウントの受信ボックスに一件メールが届く。


「あれ? シャーロックさんからメールだ。それに……」


 内容を読んでいくにつれて疑問から驚愕へと変化していく。


 だってその内容が最大手芸能事務所『シャーロック』からの事務所勧誘のメールだったんだから。





 ダンジョン踏破者の証であるバッジが付与される当日、私は大型の車に乗って会場へと乗り込んでいた。


 車の中はカーテンで遮断されており、外の景色は見えないけど、騒がしさからかなり大勢の人が集まっているんだと察する。


「マナさん、緊張してますか?」


 そう言ってくれるのは私に新しくついてくれたマネージャーの鈴木さんであった。


 実は勧誘メールがあった後、すぐに芸能事務所『シャーロック』へ入所することを決め、すでに契約を済ませたのだ。その際、両親にも来てもらってちゃんと了承を得ている。


 世間にはまだ公表していない。今日、バッジを貰った後に事務所に加入したことを報告するつもりだったのである。


「はい。緊張してます。だってこんなの初めてですし」


 こんなに大きな賞どころか幼いころから授賞式というものに表彰される側として参加したことが無かった。だからどんな風に振舞えばいいのかが全く分からないのだ。

 

「ですよね~。一応授賞式には私も付いていくこととなりますので何かあれば私を頼ってください」


「ありがとうございます、頼りにしてます」


 事務所を通してダンジョン協会に質問した結果、今回の授与式に私は仮面を着けたままの出席となった。


 それとできれば配信のままの姿で、と言われたので美穂ちゃんに買ってもらった配信用の衣装を着ていた。


車から出ると、関係者の人達がぞろぞろとこちらへと集まってくる。


「お待ちしておりました、マナ様。ご案内いたします。お付きの方もご一緒に」


 そうして私達はダンジョン協会本部内へと案内されるのであった。

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