第18話 最後のマスカラ~最高のマイスター

 最後にマスカラを塗ったのは……いつだろう。

思い出せないくらい、ずっと前。


 青髪率が異様に高かった。同学科に信号機が揃っていた。ヘアカラーも奇抜なほど良しとする自己主張の塊集団。「個性的だね」と言われることを競い合うような空気に、息苦しさを感じた芸大一年目。

 「ふつう」な自分を見抜かれたら浮く気がして、気軽に寝るのが当然な仲間内の中で、処女をひた隠しにした。

 流行りに乗るギャルや量産型女子を見下す風潮にあったけど……本当は、私もあっち側のファッションがしたかった。


 今考えれば、とてもとてもくだらない。

真に芸術に没頭する人は、服装やメイクで自己表現する必要がないからだ。


「モテを意識?」

 そう指摘されるのを回避するため、マスカラを塗らなくなったのではない。

自分の顔に色を付けるよりも、一秒でも長くキャンバスを彩りたかった。

アイラインを引くよりも、意味のある線を描きたかった。


 私を見て、とはこれっぽっちも思わない。

私の作品を見ろ。

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