第5話 崩壊への引き金が引かれた
「がああああっ…」
あの降りてきた人、白衣を着ているのを見るあたり、最初に逃げてきた人と同じ、救助を求めている人なのだろう。
白衣の人たちが複数いるのを見るに、この飛行機には医療関係の人が乗っていたようだ。
しかし一体誰が暴動を起こしたんだ?
「がああっ…」
「あっ」
ゆっくりと出てきた白衣の人はバランスを崩すと、そのまま滑り台をゴロゴロと転がる。
もしかしたら歩行もままならない怪我人かもしれない。
「そこの君、あの人を助けるから一緒に来てくれるかい。」
「え、はい。」
私が近くの警官を呼び、一緒に転げ落ちた人に駆け寄る後ろで、
「よし!突撃だ!」
市谷警視が指示を出し、タラップ車から特殊部隊がぞろぞろと乗り込む。
まもなくして、
「…大丈夫ですか?」
そして前のほうでは警官が先ほどの白衣の人にしゃがみ込み話しかける。
すると、少し奥のほうにいた、先ほど逃げていた乗組員の男性が英語で何かを叫んでいた。
耳を澄ますと、
「…その男から離れろっ!」
男性はこわばった顔でそう叫んでいた。なんだ?嫌な予感がする…。
「おい!その男から離れて!」
私がしゃがんでいる警官に声をかける。
「えっ?」
警官がこちらを見てぽかんとした時だった。
「があああっ」
倒れていた男性が起き上がり、警官に掴みかかったかと思うと。
ガリッ
警官の肩に思いきり嚙みついた。
「ぐああああああああっ!」
嚙まれた警官が叫ぶ。
「なっ?!」
一体何が起こった?あれは逃げていた人ではないのか?なんで人を嚙んでいるんだ?
いや、そんなことを考えている場合ではない、助けに行かなくては…。
「ぎゃああああああっ!」
今度は後ろの、飛行機のほうで叫び声がした。
振り返ると…。
「…!」
タラップ車から転げ落ちる警官達、窓から見えるのは暴れる複数の人影と飛び散る血…。
そして、
「た、助けてっ…!」
血の付いた外れかけの装備に、恐怖に怯えた顔で外に飛び出した一人の警官。
その飛び出した飛行機の入り口から腕が数本伸びてきて。
「がああああっ」
その腕の主たちはうめき声をあげて警官をつかみ、肩や腕に嚙みつく。
「ぎっ、ああ、ぎゃああああああああっ…!!」
警官は布で全身を覆われるように複数の人に乗りかかられ、声を上げる。
あの警官も機内にいた人に嚙まれた。いったいこの飛行機で何が起こっているんだ…。
「無理やっ!あんな奴ら相手にできるわけないやろ!」
機内から逃げてきた警官たちは皆恐怖におびえ、警察車両の置いてある方向へ一人、また一人と逃げ出した。
「お、おい!なんでや!手ぶらの十数人相手に、なんで棍棒を持った俺らが負けるんや!」
市谷警視も何が起こっているのかわからないという様子だった。
「―――こちらは管制塔…!」
ついに避難の放送まで流れ出した。
その時だった。
「機内にいた人たちは感染者です。」
突然後ろから
「…感染者?」
私が聞き返すと。
「理由はわかっていません。しかし感染経路としては嚙まれて感染することが確認されました。この飛行機で広がった感染も、すべて嚙まれたことによって広がりました。」
その女性は顔の表情一つ変えず淡々と話す。
「あの、いったい何を…」
「しかし警官の皆様には申し訳ないことをしました。まさかこんなにもはやく感染が体に回ってしまうとは…、もしこのまま感染が広がれば大変なことになります。急いで厳戒態勢を敷いてください。日本中に感染が広がってしまいます。」
は?平然とした顔で何を言いているんだこの女は…。
まるでこの事態を、感染?であると知っているような発言。
白衣の女は私の言葉をさえぎってそこまで言い終えると、空港のほうへ歩き出した。
「あ、待て…!」
私が追いかけようとした時だった。
パァンッ
使用許可を出していない銃声がした。
「はぁ?」
訳が分からず、口が声から漏れ、銃声のした方へ振りかえる。
「く、来んな…!来んなやあっ!」
そこには、警官が左手で自身の血の付いた首元を抑えて、右手で、警察で配備されている回転式小銃を、のろのろと歩く白衣の人に向けていた。そして、
パァンッ
のろのろ歩く白衣の人の頭を撃ちぬいた。その人は後ろに倒れる。
「な、何してんやお前っ!射撃の許可は出してないぞっ!」
市谷警視が、銃を撃つ警官に向かって声を荒げる。
「落ち着け、
銃を持つ警官の知り合いらしき警官が、なだめに入る。
「く、
飯田という警官はパニックになっているようだった。
「は…、いや何言うて…」
「うるせえ!」
パァンッ
飯田は黒川に向かって発砲した。
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