第3話 厄災を積む貨物機

少しして、調べていたダレス副機長が口を開く。


「一番安全に降りられそうなのは日本の大阪国際空港おおさかこくさいくうこうです!」


「了解だ。」


私はダレス副機長の言葉にこたえ、操縦桿を左に動かす。


大阪国際空港はここからおよそ400km先だ。

まもなくしてダレス副機長と大阪国際空港との連絡が始まる。


「大阪管制塔 こちらアメリカ航空『FCP』02便 機内で発生したトラブルによりこれ以上の飛行は困難と考え 大阪国際空港への緊急着陸許可願いたい。」


『FCP』とは『高速( Fast )貨物機(Cargo Plane)』の略である。高速貨物専用の会社で、設立四年で年商は3億ドル。現在のアメリカが本社の航空会社でも名を馳せだした会社だ。


「こちら大阪管制塔 受信した 当機は墜落事故を起こす場合もあると考え 『FCP』02便の着陸許可承諾する。」


大阪国際空港への通信に成功した。


「こちらがより迅速に対応するために 機内トラブルの内容を報告願えるか どうぞ。」


続けて管制塔から質問が投げかけられる。


「現在機内に暴徒化ぼうとかした人が複数人おり 操縦室に侵入するのも時間の問題だ 負傷者も複数いるため警察と救急の要請願いたい。」


ダレス副機長は端的たんてきに機内状況を説明する。


「了解した 最大着陸重量さいだいちゃくりくじゅうりょう超えを抑えるため 燃料を減らし空港へ向かえ 滑走路を赤に点灯させ そこに警察と救急を配置する 落ち着いて操縦せよ。」


最大着陸重量とは、着陸の際の飛行機の全体的な重さのことで、燃料が通常より多く残っていると、着陸したときに重さで前輪が折れたりしてしまう。それを防ぐために、燃料を上空で放出し減らすのだ。

燃料は上空で気化するので地上に影響はない。


そうして大阪国際空港との通信が一旦終わる。

とりあえず、まだ着陸するまで気の抜けないものの、着陸できる場所ができたことに安堵する。

副機長も燃料を放出するボタンを押して、額の汗をぬぐい、ふぅ、と一息ついた時だった。


ガッ


「ぐっ?!」


突然、研究員のアレックスさんが、ダレス副機長の服をつかみ引っ張る。


「なんで感染者がいるって伝えなかったんですか!突入してきた警察があの感染者を安全に鎮圧できるわけがないでしょう!日本に感染が広がるかもしれないのに!何やってるんですか!」


アレックスさんはダレス副機長を揺さぶる。

そんなアレックスさんの肩をトントンと叩いたのが、もう一人の研究員の白奈さんだった。


「アレク、落ち着いて。一番この状況を分かっている研究員が焦ってどうする。また通信するときに連絡すれば大丈夫だから。」


やけに落ち着いていて不気味だった白奈さんだったが、案外落ち着いている方がこの状況でもしっかり取り仕切って話をできるから、よかったかもしれない。


「っ…、すみません副機長さん…。」


アレックスさんはダレス副機長の服から手を放し、頭を下げる。ダレス副機長は引っ張られてよれた自身の制服を直す。


「本所の所員がご迷惑おかけしました。すみません。」


白奈さんも頭を下げる。


「え、あ、いやいや、良いんですよ。この状況なら焦って当然ですし。」


深々と謝る白奈さんにダレス副機長は驚き、慌てて大丈夫だと伝える。


その後二十分ほど経過して。


後ろのドアを殴るような音が少しづつ大きくなる中、目の前に大阪国際空港が近づいてきた。

タイヤを出し、着陸態勢に入る。

そしてもう一度大阪国際空港との通信を交わす。


「こちら『FCP』02便 これより着陸態勢に入る。」


「了解した 落ち着いて着陸せよ 乗客乗員が脱出でき次第警察が突入する それまでに機内から脱出せよ。」


「了解 追加情報となるが 暴徒化した複数名に関しては感染症による影響と思われる くれぐれも注意してもらいたい。」


「……了解した。」


先ほどアレックスさんが心配していたことを、ダレス副機長は管制塔へ説明する。


「ありがとうございます…」


アレックスさんも安堵した様子だった。

少しして、

大阪国際空港との通信を繋いだまま、視界に写る赤に光る滑走路に向けて機体を安定させる。


「距離、速度、よし。横からの風もほぼ無風。まもなく着陸します。」


私がそういうと、後ろにいる三人もかがむ。

グンッという軽いGとともに地面にタイヤを付ける。

そのまま高速貨物機は大阪国際空港の滑走路に、


バタンッ


「えっ…」


着陸した瞬間、ドアが蹴破られるような音が聞こえた。


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